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子供達
ある日の子供達
しおりを挟む寒い冬が終わり、もうすぐ春がやってくる。
温かい日差しに冷たい風がとても心地いい日に、いつも通り兄妹と幼馴染みで集まった。
ウォルズマー家の兄妹。
アル兄さん、ナーシェ姉さん、そして私リアス。
父の年の離れた弟で、ご両親が亡くなってる為一緒に住んでるサンラスさん。
両親繋がりでよく遊んでいるローエンスコットさんの姉弟。ロコさんとコーゼルさん。
「俺とサンラスとロコはもうすぐ私立学園入学だな。楽しみー。」
「俺は楽しみじゃない。習うこと全部知ってる事だらけでホントつまんない。」
「サンラスはその性格で優秀よね。」
「性格が悪いとでも言いたいのか?色々助けてやってる優しー俺に?」
「悪いなんて言わないわ、悪ぶってるんだなと思うだけ。」
「それねー。損してると思うよサンラスー。イケメンですごく思いやり有るしイイヤツなのに近寄りがたい。」
アル兄さんとロコさんを睨むサンラスさん。
サンラスさんは不思議な事に危なくなると何処からともなく現れては「両親との約束だから」と危険から助けてくれる。
私達に影でヒーローと呼ばれる人だ。
アル兄さんは1日1回はヒーローに助けられたと話している気がする。
ヒーローは転ぶくらいの軽い怪我に繋がるぐらいの事では助けに来ないので、どれだけ危ない事をしてるのか心配になる。
私も池に落ちそうになった時に助けて貰った事があって、泳げないからとても助かった。
この三人は今年から王都にある私立学園に入学する。中等部では三人それぞれにファンクラブがある程人気者でした。
そんな三人ももうすぐ私立学園に入学かと思うと、月日の流れの早さを改めて感じます。
「良いなー学園。学園に入れば可愛い彼女とかできるんでしょ?」
「それは迷信だよゼル君。卒業した先輩が言ってた。結局努力しないと恋人の居る輝かしい学園生活なんて無理だって。
だけど私達はまず試験合格しなきゃだから頑張ろう。」
「勉強辛いー。」
コーゼルさんとナーシェお姉ちゃんはヒソヒソと話すけど丸聞こえです。この二人は試験勉強を一緒に始めてから友達として仲が良いです。
「恋人ねー。皆子供だろ?俺は大人な女性が良い。」
「ふふん、サンラスは甘いな。先生という手もあるだろ?」
「!!・・・楽しみになってきた!!
アーシェリアさんにエロい女性教師が教える授業リストアップしてもらうか。その授業全部選択したら毎日楽しい筈だ。」
「お母様ならしてくれそうだなー。」
「目的が何であれ、楽しみが見つかることは良い事ね。だけど二人とも浮かれて黒歴史作るのはやめてね。」
「恋愛は黒歴史の上に成り立つんだ。」
「サンラスは良い事言う。ロコはどんな人が好み?」
あ、さりげなくロコさんに好み聞いたアル兄さん。
頑張れアル兄さん。前から一途にロコさん好きだもんね。
「私は父みたいに無口でも愛情表現はしっかりしてくれる人がいいわ。」
ロコさんは少しファザコンです。
「アルはどうなの?」
「俺!?ちょっと待って考える。」
うーんと唸り、カウンターに上手く対応できないアル兄さん。きっとロコさんだと悟られたいけど悟られたくない微妙なラインの好みを言おうとしている。
「えっと。落ち着いていて、髪が長くて、演劇が好きとか?」
それはロコさんです。アル兄さん。
ロコさんは両親の仕事の関係で急な欠員が出た時にお手伝いをしてから役者としても活躍しています。
舞台に上がったロコさんはとても格好いいです。
アル兄さんはアル兄さんで幼い頃からお父様に魔術を教わり、魔術の神童と呼ばれています。
今では剣術も習い訓練で汗を流す姿をロコさんが見ているのも知ってます。
そんな二人をサンラスさんがニヤニヤして見ている、これがいつもの光景です。
「あ゛ー。いつも見ている光景だけど尊い。男二人女一人の幼馴染みという構成。完璧なリア充。なんで僕はあのポジションに居ないんだ。」
「ゼル君は設定に拘りすぎじゃない?でもほら、私とゼル君、リアスで三人のグループにしてみるとか。」
「その構成はどうだろう・・・僕とナーシェは同い年でその点を考えるとナーシェの方が関わりが多くて有利になる。
この場合リアスがとにかく僕を好きで積極的なタイプなら面白い物語になると思うけど、リアスはどちらかと言うと人見知りで口数も多くない。それに全然僕に恋愛的興味が無いからさ。」
「何?私はゼル君好きみたいな言い方。」
「ふふん、その可能性は無くはない。」
「無いわ。」
「えー。」
「いや、有るかな。」
「お!」
「やっぱ無いわ。」
「だろうなー。」
ナーシェ姉さんとコーゼルさんはこんな冗談が通じる程仲が良いけどこれは恋愛に発展するやつなのかどうか分かりません。
何処かで転機が来るのか・・・無くてもお互いに恋人が出来たら「おめでとうー」と言いそうです。
ただ、この二人に恋人が出来た場合、その恋人は嫉妬の嵐だと思います。
コーゼルさんは物語を書くのが趣味で作家志望です。いくつか小さな賞を貰ってます。
ナーシェ姉さんはアル兄さん程ではないけど魔術が出来ます。お母様に教わり、語学とマナーもそれなりに出来るそう。器用貧乏というやつですね。だからなのか将来の夢を探し中です。
そして私。
見ての通り空気です。
厳密に言えば皆さんと楽しく遊んだりしているので完全に空気ではありません。だけどグループ内のどこのグループにも属さないこの感じです。
特技は母から習った語学で3か国語を話せます。人見知りで口数が少ないのに。
私も私立学園に入って勇気を出し、努力をすれば楽しい学園生活になるのでしょうか。
黒歴史の上に恋愛が成り立つ。これを教訓に恥ずかしくても挑戦してみたら何とかなるものかな?
頑張ろう。
私達の進学を希望する私立学園はお父様達も出資している学園で、お母様はそこで語学とマナーの先生をしています。
お父様は臨時で魔術の講義をするらしいですが、いつも質問が「可愛いお嫁さんを貰うには」に発展し「そんなの僕も知らない」と困っています。
お父様は今でも男性の希望の星で講義もなかなか人気があるそうです。
私立学園は、王族が作った王立学園に入学資格があったとしても美醜の価値観から落とされる人が居る事実から創立された学園。
試験は厳しいけれど美醜に関係なく能力があれば入学できる所。昔程では無いらしいですが、今の時代も美醜の価値観はなかなか根強い。
父親が醜いとされているけど全く気にならない私達は王立学園に入学資格が有ろうと私立学園の試験に挑んでいます。
サンラスさんとアル兄さんなんて王立学園からスカウトがあったのに蹴ったそう。
尊敬する家族を嫌う人たちが居るところには行きたくないのは一緒です。
「皆ー、夕食の準備が出来たよー。温かい内にいらっしゃい。」
遠くからお母様の声が聞こえる。
今日はロコさんコーゼルさんも一緒に夕食を食べれる日。皆夕食を楽しみにしていました。
食堂に入るとお父様とお母様がせっせと料理を並べています。
目が合うと微笑み合い、とても仲良しの夫婦です。
私もこんな結婚がいつか出来るのかな?と夢見てしまいます。
「わぁ!今日も美味しそうですね。僕ここの家の子になる。」
「へー?。私の料理じゃ満足できないって?」
大喜びで席に着いたコーゼルさんに、お母さんのココさんが食堂の扉を開け別の料理を運んできた。
「せっかくコーゼルの好物を作ってきたのになー。」
「それは焼おにぎり!!やっぱり今のままで良い!」
ココさんの作る料理は見たこと無い料理ばかりでお母様はその料理を「懐かしい!」と食べます。
懐かしいと思うのに、お母様は作り方を知らないそうで、こうしてご飯会を開いては一緒に料理を作ってはレシピの交換をしています。
そしてロコさん、コーゼルさんのお父さん、ロマーゼルさんはカトラリーを並べている所でした。
「これで大丈夫ですか?」
「綺麗に並べてくれたね、ありがとう。大丈夫だよ。」
昔、同僚だったらしいけどこれでも気安くなったそうだ。ロマーゼルさんが無口だからあまりそう見えないだけかも知れない。
そんなロマーゼルさんだけど、ココさんがロマーゼルさんを呼び止めて髪を直すとポッとほんのり頬を染めて「ありがとう。」と言っています。
こちらのご夫婦も理想的です。
ふと、窓際を見るとサンラスさんが壁に寄りかかり大きな本を開いてサラサラと何か書いているのが見えました。
いつも何処から出すのか色んな本を持っている所を見かけます。
今持っているのは黒い本です。興味本位で近づくとパタンと閉じられてしまった。
だけど閉じる瞬間に何も書いてない所に文字が浮かび上がって来たのが見えた気がする。
不思議そうに見ると。ニヤリと笑うサンラスさんが。「覗きはだーめ。」とコツンと指先で額を押された。
地味に痛くて少し涙目になると、少し焦ったサンラスさんが。
「両親に報告してただけだから。」
と話してくれる。
その言葉が一瞬で同情の視線が集める。
「あー・・・。あのさ、親を亡くしたのは兄さんだって同じだから。俺だけ同情の目で見られてもな・・・」
「僕は十分父との時間を過ごせたけどサンラスは違うじゃないですか。頼りない兄だと思うけどもっと甘えたって良いんだよ。」
お父様は弟のサンラスさんも私達同様にとても可愛がっているのが伝わりますが、彼はもう公に甘えるような年では無いと思いますよ、お父様。
「兄さんの気持ちはホントーに有難いし十分お世話になってるから。迷惑もかけて来たし。だけど今でも甘えようと思ったら甘えられるし。甘えないけど。」
「え?どうやって?」
コーゼルさんは焼おにぎりを先に食べながらデリケートな問題に首を突っ込む。
珍しく視線を泳がせたサンラスさんは。
「あー・・・えー。心の中に両親がいるから?いつでも会えるというか。」
ブワッ(´;ω;`)←皆まさにこんな顔をしていたと思う。
サンラスさんが黒い本を持ったまま、私の横を通りすぎ、いつもの席に着こうと歩いていった時。黒い本から聞き覚えの有る笑い声が微かに聞こえた気がする。
「俺の事はいーから。夕食。」
皆が席に着き、夕食を始める。
それぞれ談笑しながら賑やかに食べていると、アル兄さんが隣に座るサンラスさんにこそっと耳打ちした。
「サンラス、寂しくなったら俺が居るからな!今日一緒に寝るか?」
「寝ないから、お前寝言煩いんだよ。」
「私も寂しくならないようになら協力できるわ。このまま皆で泊まってパジャマパーティーでもする?」
空かさずロコさんも続ける。
「お前らのせいで寂しくなった事なんて無いから。」
その言葉にまた周囲はブワッとなったのを堪えるのだった。そんな中でナーシェ姉さんとコーゼルはウキウキで続けた。
「パジャマパーティーいいなー!お母様、良いでしょ?皆でちょっと夜更かしするだけ。」
「寝る時は男女で部屋を分けて好きな人の話とかするやつだね。良いなー青春って感じで。」
どうやらパジャマパーティーは決行されるそうだ。
私も少しワクワクしてきた。
自然と楽しい雰囲気に頬が緩んだ。
「リアス。」
「何?お母様。」
「良い笑顔ね。貴方は生まれたばかりの時は目付きが鋭いかと思ったけど、それも無くなって・・・将来学園に入ったら心配だわ。モテモテになるわよ?」
「まさか。【醜の象徴】が無いなんて、面白味が無い見た目じゃないですか。私はお父様みたいに格好いい象徴が欲しかったです。」
「それ、アーシェリアも言っていましたね。」
「私と意見が合うわね。でも今の貴方も素敵よ?」
「ありがとう、お母様。」
アーシェリアの価値観はリアスにしっかり引き継がれているみたいだ。
きっとこの子も醜いと不遇な人生を歩む誰かを変えてしまう日が来るのかもしれないと成長が楽しみになったアーシェリアとルナスでした。
応援ありがとうございます!
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