偽りの桜

化野りんね

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一九四五年八月

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 あれからどれほどの時間が経っただろうか。私達二人は、金村のように不意をつかれないよう、ずっと中腰か匍匐で、密林の中を進んだ。途中からは立つ力さえもなくなり、匍匐のみとなった。
 上空からは航空機のプロペラ音が鳴り響き、アメリカ軍のものであろう銀色の双発機が密林の上を悠々と飛んでいた。
 吉井は痩せこけ、人間というよりは白骨に近かった。人間の骨の上に薄皮一枚貼り付けたような、そんな様相であった。
 機影が濃くなると共に、敵の飛行場へ近づいてゆくのが分かる。終わりが見え、蜘蛛の糸の如き細い希望が、ようやく日本へ繋がろうとしていた。
 そうした時に、吉井は言った。
「私はここまででいい」
 そうして吉井は仰向けになり、密林の隙間から光る小さな空を見つめた。
「どうしたんだ。飛行場はもうすぐそこだぞ」
 私は吉井と共に行こうと、そう思っていた。だが、彼はこう答えた。
「もう満足なんだ。きっと彼らもそうだったように、満足しているんだ。ただ必死に生きている、その証が欲しかったんです。
 無駄でない、ほんの少しの肯定が欲しかったんですよ」
「それが生きるのに勝ることなんてあるのか」
「そうさ。君を生かすことが出来るのだから」
 吉井は私を見た。その目には涙滴一つ零せるだけの水さえ浮かんでいなかった。
「誰でも良かったんですよ、きっと。ここで全員死ぬよりは、誰かが生きて帰ったと、そう思って逝きたかったんです。きっとそうですよ、だって私は今、そう思っているんですから」
 吉井はそう言って、息絶えた。
 私はその場からずるずると這い、米軍の陣地へ辿り着いた。そして彼らから私はこう告げられたのだ。戦争はもう終わったんだ、と。
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