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お祭りと不穏

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「殺ちゃーん!」

「何ですか?閻魔大王」

 殺は朝から大声を出す閻魔に呆れながら何だと訊く。
 自分の身長より遥かに高い玉座に座る閻魔は殺をにんまりとした笑顔で見つめながら、ある提案をしてきた。

「閻魔殿の中庭でお祭りをしない?」

「そんなことより仕事をしてください」

 殺は閻魔の提案をばっさり切り捨て、提案を断られた彼に纏めた書類を渡す。
 閻魔は書類を受け取りながら殺に反論をしようと考える。
 そうして殺への反論が決まったら反撃の準備開始だ。

「殺ちゃん!もうすぐ盆休みだよ!仕事も書類だけ!今休まなくて如何するの?!」

「確かに……今は書類仕事ばかり。それを片付ければ休みは取れますね……」

 閻魔は殺の考えている姿を見てニヤリとする。
 殺は休み関係のことで長考する時は大抵は休みを選ぶのだ。
 永年の付き合いの閻魔はそれを知っていた。
 そうして殺は結論を出す。

「お祭り、しましょう」

「やった!じゃあ業者に発注とかは私がやろうか?」

 そう閻魔が言った瞬間に殺の目が闇に染まる。
 それは何処か怒りを現しているかの様に見えた。

「貴方は仕事!……発注や屋台の用意は私がします」

「はっ……はい。助かるよ、殺ちゃん」

 殺は閻魔に無駄で必要のないことをするなら仕事をしろと言いたかった様だ。
 殺は早速、何処の業者に頼むかなどと考えている。
 何故、殺がここまで手慣れているかって?
 それは地獄にはよく著名な神々が訪れるからもてなさねばならないからだ。
 だからこのくらいはお茶の子さいさいである。

「お祭りですか……私たちは警備ですね」

「え?殺ちゃんたちも遊べば?」

 閻魔は警備は別の者を置くから好きにしなと笑う。
 これは閻魔なりの気遣いなのだろう。
 そんな彼の思いを無駄にしない為に殺は今回だけはと遊ぶことにした。


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「お祭りですの?!」

「M、五月蝿え」

 Mの期待と喜びの声をサトリは五月蝿いと言い、しかも無駄に力を込めたビンタ付きでMを切り捨てた。

「あぁん!痛いですわ!ハァハァ!」

「何か最近は此奴を殴るの楽しくなってきた」

 Sに目覚めそうなサトリを御影は如何でも良いかの様に無視して殺に祭りの詳細を訊く。

「祭りの規模はどのくらいかのぅ?」

「中庭ですから少し広い程度ですね。屋台は三十は出せるでしょう」

 殺は祭りの業者に早速依頼の連絡を入れている。
 殺は仕事は大事とはいえ、閻魔が言った「思い出を作りたいんだ」という言葉を大切にしたいのだろう。
 殺はそのことがあって、閻魔の為だからと張り切っていた。

「僕たちにも出来ることはないか?」

 陽は殺にだけ仕事をさせまいと訊ねる。
 殺に無理をさせたらいけないのは学習済みだからだ。

「では、地獄で有名なゆるキャラのオファーを頼みたいのですが……」

「任せろ」

 そう言って陽は早速ゆるキャラが所属する芸能事務所に電話をかける。
 報酬や出る時間などの話を進めていき見事にゆるキャラのオファーを掴み取った。

 殺と陽が祭りの仕事に精を出している。
 ならばとMとサトリと御影は二人の仕事を片付け様と三人で手をとりあった。


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 あれから数日が経った。
 祭り当日の閻魔殿の中庭には屋台が並び、花などで飾り付けられ、ゆるキャラがふらふらと歩いている。

「祭りまではあと数時間……」

「殺ー!!」

 突如、殺は名前を呼ばれる。
 この声には聞き覚えがある。

「魔王様……まだ祭りは始まってないですよ」

「良いじゃないか、静かな空気も楽しみたい」

 そう言いながら魔王はゆるキャラのもとへ一目散に走っていく。
 なんだかんだ祭りを楽しみにしていたのだろう。
 地獄のイベントの情報は魔界にまで伝わる。
 この情報を掴んだ時の魔王の顔は如何だったか?
 少し気になり考えてみると、魔王の無邪気な笑顔を想像して笑ってしまう。

「この祭りを楽しみにしてくれている人は沢山いるのですね……」

 これは張り切った甲斐があったと殺は安堵する。
 手を抜かなくて良かった、手抜きだと皆が喜ばないうえに、自分が後悔する。
 後悔はしてはいけない、それは仲間に教えられた。
 だから殺は常に全力だ。

「祭りまでもう少し……、それまでは休みましょうか」

 そう穏やかに笑う殺は幸せな未来を見据えていた。



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 嗚呼、恨めしいわ~。
 翠様の世界を穢す連中が。
 私は翠様に命を貰った生命体。
 いわば神様。
 神様は罪を犯した者たちを裁かなきゃ!
 最後に幸せになるのは私たち。
 お前らは己を後悔して死ね……。

 きゃははははは!!!


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