地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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邪という厄災

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「翠の娘ですか……。大体はわかりました。恐らくは私たちに死んでもらいたいのでしょう?」

「察しが良くて助かるわ~!そうよ!貴方たち、五人の英雄の中で誰かが死んでくれたら皆は助けてあげるわ!」

 助かる。
 その言葉に祭りに参加した著名な神が反応を示す。
 そうして残酷非道な言葉を殺たちに投げかけた。

「お前たちが死んでくれたら俺らが助かるんだ!英雄なら命を捨てろよ!」

 その言葉を皮切りに皆が殺たちに死ねと言う。
 だが一部の者、地獄で働く獄卒は神々に落ち着く様にと声をかけていった。
 それは殺たちが常日頃から命を張っていることを知っているからである。

 獄卒は泣き始めた子供をあやしたり、武器を構えたりなど様々だ。
 だがそれでも混乱は収まる筈もない。

「もう嫌だ!英雄なら私たちを救ってよ!」

「落ち着いてください」

「なっ!!」

 殺の落ち着けという言葉があまりにも殺気が込められていて、自分勝手な叫びを上げていた神は思わず身を竦ませてしまう。
 恐らくは殺は怒っていたのだろう。
 この状況を理解せずに、自分たちに死ねと言う最低な神々に。
 しかし、殺は怒りをすぐに引っ込める。
 そうして冷静に状況を説明した。

「皆さん、この状況で私たちが死ぬと世界が崩壊します。それが不幸の鬼の創りし摂理なのです」

 不幸の鬼が創りし摂理、それは五人の英雄の内、一人でも死ねば世界が滅びる。
 それを理解した神々は絶望する。
 助かる術はもう無いのだと絶望した。
 楽しかった祭りの日が最期の日となるとは。
 運命も残酷だと自虐の笑みを浮かべる者もいれば、呆然とする者、泣き叫ぶ者など様々だ。
 それを邪はにんまりと口に弧を描かせ見つめている。
 この状況が余程楽しいのだろう。

 だが殺は何にも動じることはなかった。

「皆さん、助かりますよ」

「如何やってだよ!?」

 泣き叫ぶ者は殺の服を掴み彼に縋った。
 涙でぐしゃぐしゃな顔で殺に縋る、それを殺は拒みもせず、淡々と言葉を述べた。

「邪を倒せば問題ないです」

「そうじゃぞ!問題ないぞ!」

 殺の言葉に御影は賛同をする。
 そうして本当に大丈夫であるかの様に陽気に振る舞った。
 その姿に泣いていた者は何故か救われた気がしたという。
 客は涙を拭う。
 そうして自分たちを守ってくれる存在を信じて頼む。

「どうか……私たちを助けてください!」

「お安い御用です」

 皆がだんだん五人の英雄を信じ始める。
 その光景を見た邪は不愉快とでもいう様に顔を引きつらせた。
 邪の顔が引きつると同時に、彼女の額に血管の筋が浮かび上がる。
 彼女に怒りが募ったのだろう。
 絶望に打ちひしがれる姿が見たかった邪は腹を立てて握り拳を作る。

「この状況は私が握ってるってわからないのかしら~?まあ、良いわ。そこのモブ餓鬼、此方へ来なさ~い」

 邪は結界で守られていた子供に指をさす。
 指名をされた子供は戸惑う。

「早く来なさ~い!」

「いっ、嫌だよぅ!私は死にたくないよ!」

 子供は拒絶の態度を全面に出す。
 死にたくない、それは悲痛な叫びだった。
 それを見て邪は少し機嫌を直して卑怯な手をとった。

「ならお母さんが死んでも良いの~?」

 その言葉を聞いた瞬間に子供は背後の母親を見る。
 そうしてまた戸惑う。

「お母さん死んじゃやだよ!!どうしよう!お母さん!」

「あんたは行くんじゃないよ!あんたこそ死んじゃ駄目!嗚呼、英雄様!どうか私たちに救いを!」

 子供は母親の言葉を聞いても戸惑う一方だ。
 だが母親を死なせたくない。
 その思いがあったのだろう。
 子供は結界から少し出てしまったのだ。
 それを見た邪は地を蹴り、子供の方へ向かう。
 まさに一瞬だった。

 子供の肉が斬り裂かれる、血が空を舞う。
 生臭い臭い。
 恐らくは即死だったのだろう。
 邪はあの一瞬の間に人一人を殺したのだ。
 何という素早い攻撃、力強い一撃。
 それらは再び皆を絶望させるには充分だった。

「ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 母親が泣き叫ぶ。
 絶望に染まり、狂い泣く。
 殺は攻撃に気づいていた。
 だが、一歩遅れてしまった。
 その一歩さえ遅れていなければ助かっていたかもしれないのに。

「きゃはははは!面白い!もっと泣き叫ぶのよ~!」

「……いい加減にするのですわ」

「は?」

 邪は誰が自分に向かい発言をしたのか気になった。
 そうして目の前の桃色の亀甲縛りの女を視認する。

「あんた何よ」

「私は葛葉。子が親を思う気持ち、親が子を思う気持ちを踏み躙るなんて……絶対に許せませんわ!」

 Mは怒りという感情に身を任せ鞭を取り出す。
 その怒りは苛烈で見る者全てを恐怖に震えさせた。
 Mはわかっていたのだろう、子が親を庇い、犠牲になることを。
 だからこそ子と親の絆を踏み躙る冷酷な邪が許せなかった。

「皆様方、ここは私にお任せくださいませ。絶対に殺してみせます!!!」

 Mは鞭を構えて戦闘体勢をとる。
 それを邪は面白そうに愉快だと笑って眺めた。

「私は死なないわよ~!だって完璧だもの!」

「不完全が完璧を超えることを証明しますわ」

 さあ、一人の子の為の弔い合戦は?
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