地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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夢をみる

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 暗い、黒い。
 そんな世界の中でMは歩いていく。
 この世界の果てには何があるのか?
 そう思いながら、虚ろな瞳で歩く。

 闇。

 世界の果てには闇があった。
 子供は恨めしそうに此方を向いている。
 その目は血に汚れ、光を灯さない。

「何で助けてくれなかったの?」

 子供はMに問いかける。
 Mは下を向き、只一言を振り絞る。

「ごめんなさい」

 それが彼女にとって精一杯の言葉だった。
 だが子供は歩いて近づいてくる。
 Mの目の前まで立つと同時にニヤリと笑った。

「許さない」

「ひっ……い、い」

 Mの周りの空気が冷える。
 それを感じ取った瞬間に彼女は叫んだ。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」



~~~~


「許し……て。許して」

「きゃんきゃん!」

「はっ!?」

 Mは閉じていた目を限界まで見開く。
 開いた目で最初に見たのはMの周りで鳴き叫ぶ桜子だった。
 あれは夢だったのか……。
 桜子はMが心配なのか、Mに近寄ると、その頬をペロリとひと舐めする。
 そんな桜子の様子を見て、Mは「大丈夫ですわよ……」と言いながら桜子を撫で、仕事に行く為に身支度を始めた。




~~~~


「おはようございます……」

「おはよう」

 人殺し課に着けば他愛ない挨拶を交わす。
 それがいつもだ。
 だが今日はいつもとは違う。
 空気が重苦しい。
 それは無理もない、何せ今回の敵の襲撃で失ってはならない大切な命が一つ減ったのだから。
 皆が助けられなかったと自責の念にかられる。

 Mは自分の席に座っては今朝の夢を思い出す。
 何で助けてくれなかったの?
 その問いを思い出し、思わず机に頭を打ち付けた。
 そんなMを見て陽は焦って声をかける。
 それも心配そうに。

「M、大丈夫か?!頭痛いだろ?氷取ってくるからお前は休んでろ!」

「……すいません」

 Mは自分は何をやっているんだと客観的に見た。
 客観的に見れば、どれもこれも残念だ。
 子供を助けられずに罪悪感にかられる無能な馬鹿。
 それが今の彼女の自己評価である。
 Mは休んでろとは言われたが休む気にもなれず、手元の資料に目を通す。
 彼女が見ていた資料は新しい拷問器具の資料だ。

 書類仕事だけだったら、昔のままだったら今頃どれだけ楽でいられたか。
 こんな思いをするのなら英雄なんてしたくなかった。
 いつの日だっただろうか?
 この課の名前の話題になった時、この課が人殺し課になった時。
 由来は決して良いものではなかった。
 いつか沢山の屍を越える日がくるだろう、その先を見るだろう存在。

 それが現実になってしまった。
 覚悟はしていたつもりだったが、そんなものは本当はなかったのだろう。
 だから今も心が傷むんだ。

 否、覚悟は出来ていても心は傷むものだ。
 それがなかったら生きていると言えるものか?
 心は傷む為にある。
 Mはそう考えて瞳を閉じる。

「M!氷を持って来たぞ!早く頭を冷やせ」

「陽様、ありがとうございます。陽様はきっと良いお嫁様になれますわ」

 いつもなら「馬鹿!そんなことより仕事をしろ!」などと怒った声が返ってくるが今回はそんなことはなかった。
 Mの虚無を見て、陽は何も言えなくなっていた。
 そんな時である。

「頼もー!!」

 今の人殺し課に相応しくない明るい声が響いてくる。
 扉を勢いよく開けて現れたのは勿論だが閻魔だ。

「何しに来たんです?此処で仕事をサボろうとしている風には見えませんが」

 殺は明るく振る舞う閻魔に皮肉の言葉をおくる。
 だが、それに動じないあたりは流石は大王だ。
 閻魔はいつもと変わらない笑みを崩さずに、ある提案をしてきた。

「今回の犠牲者のお墓まいりに皆で行かない?」

 閻魔は拒否権を与えない瞳で皆を見つめる。
 皆の反応は様々だ。
 いつかは行かねばならないと思っていたサトリと御影、本当に行って良いのかと迷う陽、そして只黙って閻魔大王の命令ならばと行くことを決める殺。

 そんな中でMは恐怖を思い出していた。
 また「何で助けてくれなかったの?」と問いかけられるのではないか?その血に汚れた目で睨むのではないかと。
 だが殺はそんなMの肩を掴み、無情な言葉をかけた。

「閻魔大王の命令です。行きましょう」

 命令だから行くのか?
 こいつには心が無いのか?
 そうMが思っている間に墓まいりに行くことが決定した。


~~~~



 沢山のお墓の中。
 そこにあの子の墓があるのだろうか?

「何処……ですの?」

 五人の英雄と閻魔が墓場で集う。
 そうして全員で子供の墓は何処かと探す。
 するとある墓に花を飾っている女性を見つけた。
 瞬間にMは冷や汗を流す。
 それは見間違うこともない、あの子の母親だったからだ。
 Mは少し後退る。
 その時に小さな石を蹴ってしまったのだろう、母親が音に気づいて此方を向く。

「ああ、英雄様……。この度は私どもの命を救ってくれてありがとうございます」

「それが私たちの仕事ですから」

 母親と殺は会話を交わす。
 母親の目は、泣きはらしたのか赤く腫れていた。
 それを見たMは思わず目を逸らす。
 そんな様子のMを見た子供の母親はMに向かう。

「信じられません。今でもあの子が死んだなんて……」

 その言葉にMは震える。
 自分が責められるのではないのかと。
 だが母親は続ける。

「あの子は私を想い、前に出て死んでしまった。あの時私が助けていれば、あの子は死ななかったのに……。今でもこの命をあの子にあげたい。ですが……」

 Mは言葉の続きに恐怖する。
 何と責められるのだろうかと。
 それほど自分を罪人と思っているのだ。
 そんなMに母親は泣きそうな笑顔を見せて言葉を続ける。

「この命をあの子にあげたいですが、そうはいきません。死んだ子供を蘇らすことは出来ませんからね。なので私はあの子に救われた命、貴方たちに救われた命を無駄にはしません」

 母親は最後の言葉を皆におくる。

「だからどうか貴方たちも今を無駄にしないで必死に生きてください。それがあの子の願いだから」

 辛い気持ちをひた隠す母親の言葉に何故だかMは救われた気がした。
 そうだ、母親を想い死んだあの子が私たちを恨むわけがないんだ。
 何を馬鹿なことを考えていたんだろう。
 Mは心のつかえが取れた気分で母親に一礼し、皆の代表で花を捧げる。

 あの子に出来る手向けは今はこれしかない。
 だがいつか平和な世界を実現したら沢山のお菓子を手向けよう。
 そう決めた。

 そんな中、殺は呟く。

「助けてあげられなくて……すいませんでした」

 その声は何処か泣きそうで、声が聞こえたMは、心はあったんだ、などと失礼なことを考えた。


~~~~



 明るい、白い世界。
 Mは歩き続ける。
 するとあの子供が現れる。
 恨めしそうでもない、血に汚れた目でもない。
 あの子が。

「皆を助けてくれてありがとう。英雄様も前に進んでね!」

 Mは涙を拭い、答える。

「ええ、前に進みますわ!そしていつか……」






 平和をこの手に……。

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