地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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変わらないとは

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「何故こうなったのです……?」

 そうぼやく殺は人殺し課の職員たちと夕方の街を歩いていた。
 御影ははしゃぎ、Mは陽とサトリに縛ってくれと頼んでいる。
 やはり外に出ても人殺し課は人殺し課だ。
 因みに冥王と小夜子、美鈴は開かずの間にてお留守番である。

 さあ、何故に仕事盛りの彼らが外に出ているのか?
 それは遡ること数十分前……。

~~~~


「頼もーーーー!!」

「如何したのです?閻魔大王」

 殺は美鈴に茶の用意をする様に命じて閻魔の前で跪く。
 閻魔は、そんな殺の頭を撫でて「はぁー、癒されるー」などと如何でも良いことを呟いていた。
 殺は閻魔の撫でる手に身を委ねる。
 その時間は殺にとって至福だという。

「で、如何したのじゃ?閻魔大王」

 御影は閻魔に訊ねる。
 すると「はっ!」と言いながら閻魔は視点を殺から変え、撫でる手を止めた。
 因みに閻魔が殺を撫でるのを止めれば、殺は小さな舌打ちを御影に贈る。
 だが御影はそれに気づいてない様で、それに気づいていたサトリは「あーあ……」と可哀想な者を見る目で御影を見つめた。

「本題を忘れてたー!」

「本題?」

 陽は首を傾げて疑問符を浮かべる。
 閻魔が持ってくるものは、お菓子か依頼か雑務かだ。
 今回はどれが当たるのだろうか?
 出来ればお菓子が良いところである。

「暫く仕事が立て続けだったでしょー?お疲れ会を開催しようと思って!君たちにはお菓子を買って来てほしいんだ!好きなの選んで良いから!でも経費を考えて駄菓子屋で……」

 お菓子はある意味当たった。
 だが結局は雑務である。
 仕事が一番立て続けだったのは人殺し課だったと思うのだがと皆は思った。
 事件の立会人としての資料纏め。
 夏の間は大きな事件、しかも犠牲者入りがあった。
 それを事件の立会人として細かく纏めるのは大変なのだ。
 だが、そんな疲れる仕事を任されている者でもある御影とMとサトリはお菓子を買いに行くのを楽しみそうにしている。

「皆さん、楽しそうですね……これから外に出るのですよ。暑いですよ」

「暑くても仕事をサボれ……休めますから良いのですわ!」

 何か聞き捨てならないことを殺は聞いた気はしたが、サトリに「早く行こーぜ!」と急かされ、聞き流すことにした。


~~~~


 そうして現在に至る。
 時刻は夕闇を刻み込み、世界は橙色の光とも闇とも取れるそれに包まれた。
 街は夕飯を作る為に買い出しに来ている客で賑わう。

 魚が売られ、肉はグラム売り、野菜が売り切れていく。
 そんな中で陽はあることに気づいた。

「涼しいな……」

 そうだ、いつもなら茹だる様な暑さなのに今日は涼しいのだ。
 いや、ここ最近は夜も涼しい。
 すると殺は口を開く。

「もう夏も終わりですからね」

 街には赤トンボが飛んでいる。
 そうか、もう秋なのか。
 陽は一人で納得し、夏はあっと言う間だったと振り返る。

「蝉の声も聞こえなくなったよのぅ」

 御影がそう言ったと同時にサトリが真剣な目になる。
 その目に殺は思わず息を飲む。
 それほど気迫が凄まじいのだ。

 サトリは御影の一歩前に現れる。
 そうして御影の目を覗き込んでこう言った。

「御影……それ、滅んだんじゃね?」

「ほ、滅んだ!?」

 サトリは真剣に馬鹿なことを言った。
 そして御影はサトリの言葉を信じて動揺している。
 それに殺は呆れているといったところだろうか?

「まだ蝉の声は少し聞こえているでしょう?そんな馬鹿なことはいいから買い出し!」

「は、はい!」

 話に特に関係のない陽が思わず返事を返す。
 その光景に殺はくすりと笑いながら、揶揄った。

「陽ー、そんなに声が上ずるほど私は怖かったですかー?」

「なっ!別に怖くない!」

 そうは言っても震えていた陽を見ると、つい笑ってしまう。
 彼は真性のヘタレなのだ。

「笑うなよ!ほら、店に着いた!早く買い出し!」

「「「「はーい!」」」」

 そう言う彼らは駄菓子へ入っていった。


~~~~


「スルメですわー!飴も!」

「五円チョコも懐かしいな」

「笛になるラムネも良いですよね」

「小さなドーナツも美味そうじゃ!」

「俺はアイスが良い」

 各々が駄菓子に入ってすぐお菓子を決め始める。
 駄菓子屋には小さなおばあちゃんが一人、佇んでいた。
 殺は親しそうにおばあちゃんに声をかける。

「おばあちゃん、お久しぶりです」

「ああ、殺ちゃんかい?仕事忙しかったんだね。お疲れ様」

 殺は小さな頃からこの店の常連さんだった。
 おばあちゃんも殺の小さな頃を見てきているので親しみを込めて殺ちゃんと呼んでいた。

 変わらない世界。
 いつもと変わらない駄菓子屋のおばあちゃん。
 変わらないことはおかしいことだろうが、これが閻魔が創りし摂理。
 だから殺は異常を受け入れる。

「ここは何にも変わらんわぃ。変わるとしたら客かねぇ?」

「皆、成長して駄菓子屋に来なくなりますからね。来るのは、その次の世代の子ですね」

 殺とおばあちゃんは他愛ない会話を交わす。
 するとおばあちゃんは黄ばんだ歯を見せた笑顔で殺に更に話しかける。

「ここは何にも変わらん。だが殺ちゃん、あんたは変わっていった。この普通じゃない世界で変われるのは殺ちゃんだけじゃ。常に進化していくのよ」

 そう言うおばあちゃんは瑞々(みずみず)しいお姉さんに変わっていた。
 これが何にも変わらないことなのだろう。
 不老不死。おばあちゃんはそれに抗って、歳を重ねた姿を作ってはいるが、閻魔の作った不老不死に時折だが負けて若返っている。

 そんなおばあちゃんにとっては殺が唯一の救いなのだろう。
 殺はそれをわかって、おばあちゃんに言葉を返した。

「進化していくものが生き物です。進化を止めれば、変わることを止めれば、それは生きてはいない。だから私は進化します。この世界の摂理に反さない程度には……」

 何にも変わらない世界で変わっているのは殺だけ。
 だが殺もこの世界の住人だ。
 だからこそ変わらないでいるところもある。
 例えば、甘いものが好きなところとか?

「お菓子はポテチが定番じゃろ!」

「そう言いながらチョコを手に取るとは……」

「言っていることとやってることが違いますよ、兄さーん」

 そんな些細な光景を見ながらおばあちゃんは笑う。
 そうして殺に囁いた。

「変わっていく者は殺ちゃんだけじゃないかもねぇ」

 殺はその言葉に「そうですね」と軽い返事をしてから、お会計を済ませた。


~~~~


 時刻は夜を刻む。
 紫の闇が辺りを包む。
 サトリと御影とMは、夜の星を眺めながら雑談を交わしていた。
 そんな中で殺は呟く。

「夜になりましたね」

「そうだな……」

 陽が殺の言葉に返事を返す。
 返事を返すと同時に、陽は殺に語りかけていった。

「紫色の夜はお前にとって懐かしいだろ?」

「懐かしいですが、私には赤色の夜の方が良いです」

「何故だ?」

 陽は本日二度目の首を傾げる仕草をする。
 それを見た殺は空を見上げながら語る。

「紫色の夜は歪だった頃の日常を思い出す。だが、ここは歪でも全てに意味があり、全てに優しさがあった。だから赤色の夜が好きなのです。この地獄が好きなのです」

「……そうか、お前は人間の頃よりも今を選んだのだな」

 殺は首を縦に振り、そうして陽の方を向いた。

「人間は好きなのに、おかしいですよね」

 それに対し、陽は普通の態度で言葉をかけた。

「別におかしくはないさ。それをお前は選んだのだろう?だからお前の判断は悪いとは思わない。だから胸を張って生きろ」

 陽の言葉に殺は、自分の判断は間違ってはいないんだと自信を持つことが出来た。
 殺は変わるとはこういうことかと一人ニヤつく。

「ありがとうございます。陽」

「どういたしまして」

 殺と陽は紫の夜が赤い夜になるまで空を見上げていた。


「さあ!もう閻魔殿ですわよ!」

 皆はやっとかと思いながら門をくぐる。
 ここは変わらない皆の家の様な場所。
 だが変わるとしたら彼らだろう。
 喜怒哀楽を共にした彼らだろう。



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