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白い鬼

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「美咲の仇!」

「あはは!私に勝てるの?美咲の血液を得た私に!」

 そう言う少女、沙羅は鋭い爪をより鋭く尖らせる。
 刀や鞭を手に取りし皆は戦闘態勢を整えている。
 そうしてサトリが静かに手を前に出せば御影と陽が沙羅に向かって走った。

「死ぬが良い!」

 そう言いながら御影は沙羅に向かって刀を振り下ろす。
 陽も沙羅の左側にいて、刀を振り抜いた。
 だが沙羅は笑う。

「二人がかりとはズルいよね」

 そう笑って御影と陽の斬撃を鋭い爪で防いだのだ。
 これには思わず皆が驚く。
 更に鋭い爪を使って陽に一撃をくらわせた。
 ギリギリで少し避けたから無事だったものの直撃していればひとたまりもなかった。
 そのことがあり皆は認識が甘かったと己を恥じた。
 だがそんな中でサトリは冷静に皆に指示を下した。

「奴の攻撃は俺が読む!皆は俺が言った場所に行け!」

「了解ですわ!」

 サトリが「雛菊に向かった!」と叫べば、本当に雛菊に向かおうとしていた。
 雛菊は向かって来た沙羅の爪を冷静に切り落とす。
 だが爪はまた高速で生え揃い、雛菊を斬り刻もうとした。
 雛菊は急いで攻撃を避ける。

「何故、私の行く先が……悟り妖怪か!」

「ご名答!悟り妖怪だぜ!これでお前の動きはわかる。諦めて降参しな」

「あはは!」

 サトリは最初、何で笑っているのか理解不能でいた。
 だが心を読み取り、厄介なことがあるとわかれば焦って皆にもう一度叫んだ。

「こっからは俺は読めない!各自、己の身を守れ!」

「え?」

 そうサトリが叫んだ時だった。
 雛菊の腹が抉れる。
 いきなり抉れた腹を見た雛菊は、訳もわからず混乱し血を吐いた。

「ガハッ!?」

「雛菊さん!?」

「やはりか……」

「やはりって!?」

 Mがサトリに説明を求める。
 その間に御影の手に深い切り傷が出来、陽の足が斬られ、ズボンに傷が入った。
 敵大将が見えないうえに、サトリの発言でMは不安になる。
 サトリも細かい切り傷を作りながら皆に説明した。

「此奴は美咲の血を力に変えて速くなってる!おそらくは俺たちでも見えないくらい!だから読んでも無駄なんだよ!」

 その説明で敵大将が見えない理由がよくわかった。
 今、この状況での捕食者は沙羅だ。
 二人がかりがズルいと言っていた癖に、自分は力を得て見えない攻撃をするとは……本当にズルいのは何方か?

「雛菊さん!取り敢えず式符に戻って治療してきてください!その間、雛菊さんは私が守りますわ!」

「うう……面目無いねぇ……」

 そう言って雛菊はMを信用し、式符へと戻った。
 Mは雛菊が宿っている式符が破られない様にと胸へ押し当て蹲(うずくま)り、背を向けた体勢をとっている。

 陽の眼鏡が割られ、サトリは首に深い傷をつけられる。
 これはあまりにも一方的だ。
 一方的に皆が狩られ様としている。

「くっ!此奴はまるで吸血鬼みたいだな!如何やったら奴が見えるんだ!?」

 サトリが如何やったら見えるか模索する。
 その時だった。

「なら動きを止めれば良いじゃん!」

 美咲の声が響いた。

「美咲!?」

 御影は美咲が倒れていた場所を急いで見る。
 そこには美咲の姿はなかった。
 なら何処へと思っていれば歌が響いた。

『白い頭に気をつけや、奴らは誠の鬼の子ぞ』

「何っ!?動け……ない!」

 沙羅が姿を現わす。
 すると足音が響いた。沙羅に近づく足音が。
 足音の主は美咲だった。
 だが髪が何故か白い。
 美咲は沙羅に近く、そして首元まで顔を寄せ……首を食い千切った。

「ぐぁっ!?」

『その白は純粋じゃありやせん。その白自由に染め上げる』

 ムシャ、バリッ、バキャッ、クニュ。

 肉を食い千切り、骨を断ち切る音が響く。
 皆はただ呆然と立ち尽くすのみだった。
 それまで悲鳴をあげていた沙羅は次第に声を失っていく。

『真っ赤な血にも染めるじゃろう』

 白髪が赤く染まる。目が、皮膚が赤く染まる。
 地面も赤い、まるで世界が赤くなったみたいだった。

『逃げ道どこにありますか?』

 沙羅は最後の力で御影らに手を伸ばし、助けを求める。
 だがその手は腕ごと美咲に食べられ消え失せた。

『逃げ道どこにもありやせん』

 逃げ道などなかった。
 待っているものは死のみだった。
 皆があまりに残虐な光景に黙っていれば、殺が追いつく。

「皆さん!……これは?」

 殺は己の前で起こっていた光景に少し恐れ慄いた。
 美咲が人狩りを食っている。
 やがて美咲は沙羅を食い尽くし、殺の方を向いた。

「あやさん、私は鬼だったみたい。あやさん、私は皆を助けたよ!凄い?」

 少女は純粋だった。
 殺は一言「凄いです」と言った後に美咲に話しかける。

「だから鬼遊びが出来たのですね。地獄の者は異形なる者しか呼び出せない」

「そうみたいだね!」

 少女は膨れたお腹をポンと叩けば「帰ろう」と促す。
 皆は妊婦以上に膨れたお腹の美咲を見て、恐怖でその提案を受け入れるしかなかった。



 ~~~~


「美咲!あんた無事だったのね!」

「恵里奈ちゃん!私も頑張ったんだよ!」

 すぐに消化されたのか普通の腹に戻った美咲。
 白髪も元の黒髪に戻り、今では普通の少女だ。
 恵里奈は美咲が鬼であることを知らずに、純粋に心の底から美咲の無事を祝った。

「閻魔大王……美咲さんが」

「純粋ほどの狂気はないってことさ。言うだろう、タダより怖いものはないって」

 殺は美咲が悪い者とはいえ生きている者を食ったことを思い出す。
 そうして閻魔に美咲の処遇を訊ねた。

「閻魔大王。美咲さんは?」

「聞きたい?」

 はい、そう答えれば閻魔は笑う。
 笑って美咲の処遇について答えた。
 閻魔が言うには、美咲は生きていた者とはいえ人狩りの大将を討ち取ったことによる功績が認められ、無罪放免と。

 そうして余談だが、人狩りの拠点も見つかり一人残らず討伐されたとさ……めでたし、めでたし。





 こうして物語は後味悪く終わる。



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