145 / 167
新たな仕事
しおりを挟む悠斗は歩く。
そうして誰も……否、閻魔しかいない深夜の裁判所へ向かう。
裁判所に着けば閻魔が自分の身長より高い玉座に座っていた。
それも人を殺す様な目つきで。
普段の閻魔からは感じられない殺気に悠斗は思わず身を竦ませる。
「閻魔大王……」
「やあ、悠斗くん。久しぶりだね」
閻魔は貼り付けたかの様な薄っぺらい笑みを見せ、悠斗を手招く。
それに悠斗は従わねばと閻魔の下へと歩いた。
「さあ、本題を話そう」
さっそくかと悠斗は胃を痛ます。
これは閻魔にとっては、あってほしくない話だろう。
悠斗は如何しようかと考え、閻魔の目を見る。
相変わらず感情のこもっていない笑みに悠斗は苦笑いした。
そうして話を切り出す。
「今回、勝手に裏切り者を殺している者を調査した結果ですが……」
「殺ちゃんでしょ?」
「……」
わかっていたのかと悠斗は心底閻魔を憎らしく思う。
人の胃をあれだけ痛めさせといて本当はわかっていましただなんて……憎らしい。
そう思うと同時に悠斗は内心焦る。
殺は葛葉との蟠(わだかま)りをなくしてくれた存在、それが禁忌に手を染めていた。
このままでは殺が処分を受けてしまう。
悠斗は焦り、落ち着く様にと静かに目を閉じた。
ほんの一瞬、悠斗は自分の世界に入る。
そうして自分の世界から出た後には殺を擁護しようと口を開いた。
「閻魔大王!」
「悠斗くん、安心して。殺ちゃんには処分は下さないよ」
「え?」
悠斗は殺が重い処分を受けるだろうと思い込んでいた分、呆然とした。
それを閻魔は見て、やっと心からの笑みを見せる。
「殺ちゃんが処分されると地獄はバランスを崩す。其のくらい殺ちゃんの存在は大きいんだ。殺ちゃんは地獄に大切なんだ」
「でもそれでは不平等を許さない地獄の精神に反します!殺は確かに大切で、私も擁護しようとしたくらいです!ですが地獄の精神に反するのは……」
それを聞いた閻魔は静まりかえる。
地獄の精神、それに反さない様に生きてきた閻魔。だが家族の禁忌は許してしまう甘いお菓子みたいな王様。
閻魔は静かにニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。
「ならば、君の仕事をこれから殺ちゃんに代行させれば良いんだよ」
「はぁ?」
「君の暗殺業を殺ちゃんが正式に請け負い、裏切り者を自由に殺す。そうすれば殺ちゃんは悪くなくなる。いや、殺ちゃんは正義だ。いつも私の周りの悪を裁いてくれていたんだから」
悠斗は閻魔の歪みを目の当たりにして少しだけ体を後退させた。
それは恐怖によるものか、はたまた歪を見て理解が出来なかったのか。
それは悠斗にしかわからない。
だが悠斗はそんな状態でも閻魔の話は理解出来た。
そうしてその話をのんだ。
これも恩人である殺を救う為……。
~~~~
「失礼をするぞ」
「お父様!?」
閻魔と話した次の日に悠斗は動いた。
突然、人殺し課に葛葉の父親が来たことで皆が何事かと騒ぐ。
そんな中、悠斗は殺の前へとサッと近づいていき、顔を覗き込んだ。
「何ですか?悠斗さん」
殺は状況をあまり理解出来ずにいたが、出来るだけ冷静に訊ねる。
すると悠斗は変わらない無表情で殺に提案をした。
「私の暗殺業……貴様が代行してみないか?」
その言葉に周りは騒然とする。
突然のことに皆が其々焦った。
「お父様!そんな汚れ仕事は私がしますわ!」
「殺に無闇に人を殺せと?!そんなことは許せんのじゃ!」
皆が悠斗に批判の言葉をあげる。
それは悠斗にとっては想定内だ。
そうして殺の反応も……。
「良いでしょう。請け負います」
「殺!?」
陽が焦って殺の肩を掴み、顔を覗き込む。
そうして陽は恐怖した。殺の光を灯さない筈の目が光り輝き、表情が嬉々としていたのだから。
「あ……」
陽は思わず殺の肩を離してしまう。
この表情は陽と悠斗しか見えていなかった。
悠斗は悲しそうな表情を浮かべる。
「私の仲間にこの手のことに詳しい者がいます。その方も良いですか?」
「ああ、良いぞ。では殺、貴様に任せる」
殺は「はい」と返事をして仕事に手を戻す。
陽を除く皆はぎゃーぎゃー騒いで、葛葉にいたっては悠斗の顔を叩いていた。
そんな状況の中で殺は静かな声で皆を黙らす。
「仕事をしなさい」
その地を這う様な一言に皆は凍りついた。
だが陽は別の意味で凍りついていた。
殺のあの表情、忘れられない狂気に染まった顔。
そうしてその場で訊いてしまった。
「お前は人を殺すのが楽しいのか?」
その一言にサトリと葛葉と御影は混乱した。
殺が人を殺すのが楽しい?
そんな筈はない。いつも真っ直ぐ人と向き合う。
そんな真面目な殺が?
だが殺はそんな三人をよそに無情にも甲高い声で笑った。
「ははは!」
「何がおかしい?!」
陽は狂気に怯えるが、震える声で殺を問い質した。
すると殺は答える。
「人を殺すのは楽しくないですが、生き物ではないものを殺すのは楽しいですね!」
陽は此奴は何を言っているんだと呆然とし立ち尽くした。
生き物ではないもの?わけがわからない。
だが悠斗だけは納得している様だった。
それに陽は焦る。
自分の、皆の知らない殺が他の者には理解されていることに陽は焦る。
陽は焦心から悠斗の胸倉を掴みあげ、今度は悠斗を問い質した。
「知っていることを話せ!」
「貴様には理解は出来ん。出来たとしても待っているのは絶望だ。絶望のどこが良い?」
「はぁ?!」
陽はこれ以上知ることは絶望と聞いて間抜けな声をあげた。
何が絶望だ、知っていた方が殺を救えるだろうと。
陽は真実を知ろうとした。
だがやめた。
それは未だ狂気に笑っている殺を見て真実を知らないうちに絶望を覚えてしまったからだ。
殺は笑う、何かを嘲笑う。
人を真っ直ぐ見る彼は今はいない。
それは絶望だった。
救う、そんなことが簡単に出来る筈はなかった。
これは殺と真実を知る者の問題だ。
それを放って置くというのなら、それが良いのだろう。
それが何も知らない者の絶望を招くとしても。
「あはははははは……ははは」
殺は息を切らす。
そうして最後にこう言った。
「殺すのは楽しい」
闇が光に変わる時、絶望が交わるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる