地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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嬉しいこと

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 地獄で大罪を犯したら如何なるか?
 それは亡者でない限りは牢獄に入れられ、悠久の地獄を過ごす。
 これはとある罪を犯した者たちの物語。
 悲痛な願いが交差していく。



 ~~~~



「やあ、今日も良い天気だね。衣玖くん」

「……そうですね、平等王様」

 衣玖と呼ばれた少年。
 周りの囚人は彼の見た目が普通な故に、何をしてこの牢獄に入ったのかと気になっている。
 だがこの衣玖は地獄を襲撃し、多大なる犠牲者を出した張本人なのだ。
 名付けるならば『混合者事件』だろう。

 彼は自らも妖に交わり、あの殺と対等に渡り合った。
 彼が戦ったのは復讐の為、自分を救ってくれた平等王の為。
 あの事件、平等王は犠牲者を出そうと衣玖に提案してきた。
 それは復讐の為、それと閻魔が創りし変わらない世界を壊す為だった。

 平等王は変わらない世界が憎かった。
 二人はこの世界に復讐をしたかったのだろう。
 だからこの混合者事件を起こした。
 普通を求めた二人は歪に手を染めた。

 だがそんな過去はもう如何でも良い。
 二人は敗れたのだ、殺に。
 平等王は途中で五人の英雄の存在を知った。
 伝承通りならば彼らはどんなに大きな異変だって解決してしまう。
 それを知った平等王はこのままでは異変は解決されて衣玖が極刑に処されてしまうと思った。

 だからこそ悪役を演じた。

 自ら悪役を演じて、衣玖には後戻りの道を残した。
 それが平等王にとっての最善策だった。
 衣玖は平等王の最善策通りに後戻りし、投獄だけで済んだ。
 それも平等王と同じ牢獄。
 それは十王が下した情けだったのだろう。

 衣玖は喜んだ。
 これで平等王と一緒に居られると。
 そこから毎日が幸せだった。
 毎日、牢獄の運動施設で平等王と体を動かし、他愛ない会話をした。
 運動施設の天井は吹き抜けで、陽の光が多く入る。
 そんな陽の光に包まれては平等王と笑い合う。
 幸せだった。

 だが今日も良い天気なのに衣玖は元気がない。
 平等王は心配になり、彼の顔を覗き込む。

「衣玖くん?大丈夫?」

「……」

 衣玖はだんまりを決め込む。
 それを平等王は「話してくれなきゃわかんないよ」と言い、再び彼の顔を覗き込んだ。
 覗き込み、見た衣玖の顔は今にも泣きそうで、平等王は如何すれば彼がいつも通りの笑顔になれるのかと思案した、その時だった。

「置いて行かないでください……」

 悲痛な叫びが平等王の胸に木霊した。
 平等王は、この子はもうわかっているんだと知ると同時に如何やって知ったんだと疑問に思った。
 そうして訊ねる。
 如何やって知ったんだと。
 すると衣玖は答えた。

「秦広王様が……」

「彼奴か……」

 そういえば奴も同じ日だったなと平等王は思った。
 そう、出所の日が。
 だから自慢気に話したのだろう。

「秦広王様が私たち十王には代わりが居ない、だからもうすぐ出られるのって……。平等王様は俺を置いて行くのですか?」

 衣玖は相変わらず泣きそうだ。
 そうだ、平等王や秦広王には代わりが居ない。
 だから不都合が生じてきたら復帰せねばならない。
 例え罪を犯しても平等王は腐っても平等王なのだ。
 平等王は泣きそうな衣玖に本当のことを伝える。

「明日、私……出所なんだ」

「そ……んな……」

 衣玖の瞳からはとうとう大粒の涙が溢れ落ちる。
 涙や鼻水でぐしゃぐしゃな顔を彼は手で覆って平等王に見られない様にした。
 その姿は幼い子供を連想させる。
 そうだ、彼はまだ子供のうちに死んだのだ。
 そんな幼い彼を不安でいっぱいにさせるなんてと平等王は己を責めた。

「行かないで……」

「行かなきゃならないんだ」

 残酷な通知に衣玖は遂に声をあげて泣き始める。
 それを今まで遠くから秦広王は見てたのか、やれやれといった雰囲気で二人に駆け寄る。

「如何したのですか?」

「ある意味では君の所為だろう」

 泣き止まない衣玖を見た秦広王は、如何でも良さげに言葉を吐こうとする。

「別に良いではありませんか。当日は……「それ以上は言わせないよ」

 秦広王の言葉を平等王が遮る。
 それに対し、秦広王は何故といった風な表情を見せた。
 それを見た平等王は溜め息をつく。
 そうして衣玖に聞こえない様に小さな声で言った。

「これはサプライズなんだ」

「ほぅ……」

 秦広王はそれだけ返すとまるで興味をなくしたかの様に別の女性囚人の下へ駆け寄り、恋話を始める。
 それを見た平等王は女性とは気まぐれなものだと心底思った。

「ヒック……置いて……グス……行かないで」

「大丈夫だから」

 今、平等王が言える言葉はそれだけだった。
 その言葉を聞いた衣玖は急に立ち上がり、どこかへと走り去ってしまう。

「喜ばせたかったんだけどなぁ……」

 そう言う平等王は静かに空を見上げた。
 その日、衣玖は平等王に一言も喋らないでいた。


 ~~~~


 次の日。

 平等王と秦広王の出所の日がとうとうやってきた。
 一日が進むのは早いもんだと平等王は笑う。
 笑っているのも真実を衣玖に伝えられる為か。

「平等王様!」

 平等王は背後からの声に笑顔で振り向く。

「やあ、衣玖くん」

「平等王様……」

 衣玖は覚悟を決めた表情で平等王に言葉を手向ける。

「出所おめでとうございます!平等王様には平等王様にしか出来ないことがあるから当たり前ですよね!昨日は駄々をこねてすいません……。平等王様!これから頑張ってください!俺のことなんて忘れても良いから……」

 衣玖は最後、悲しそうな声で悲しいことを言った。
 平等王はいつからこの子はこんなに悲しいことを考える様になったのだろうと思った。
 そうして平等王は言わねばならないことを言う。

「君も出所だよ。そして私と働くんだよ」

「……え?」

 衣玖は間抜けな顔になる。
 自分も出所?そんな話は聞いてない。

「サプライズにしていたからね」

 衣玖の頭の中を読みとった様に平等王は笑う。
 そうして状況を理解した衣玖は泣いた。
 それと同時に自分の様な危険な存在が何故、出所なのかと疑問に思った。
 すると平等王はまた柔らかな笑みを浮かべ語りかける。

「全ては私が悪いとしているからね。君は操られてやっただけだ。五人の英雄がそうしてくれたんだ。そうして君は捕まった後、更生の為の努力をした模範囚になったんだ。模範囚は減刑だからね」

「今日、俺も出所……平等王様と働ける……」

 衣玖は二度目の理解をすると同時に平等王に抱きついて泣いていた。
 また平等王といられる。
 それが幸せで泣いていた。
 それを秦広王は微笑ましそうに見て呟く。

「私も詩織を迎えにいかなくてはなりませんね」

 彼女にも大切な従者が居た。
 すると彼女に手を振る少女が現れる。

「秦広王様!!」

「詩織!」

 秦広王は自分が酷いことをしたにも関わらず、未だに自分を信じてくれる大切な従者、詩織に向かって走る。

「秦広王様!これで一緒ですね!」

「こんな私を見限らないでくれてありがとうございます。さあ、帰りましょうか」

 平等王、秦広王は其々に大切な人を連れて自らの居場所に帰る。
 その表情はいつにもなく輝く太陽の様に晴れていたという。

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