地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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旧友たちとの過去

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 だいぶ昼の暑さが軽減された頃、殺に一通の手紙が届いた。
 いや、普段から仕事で沢山の手紙が来ているので、一通の手紙というのは否定しよう。
 だが、その手紙は殺にとっては珍しいもので目を惹くには充分であった。

「これは……」

 殺は手紙を見て少しだけ静かになった。
 それは手紙の内容を確認して溜め息を吐きたくなったからだ。
 その手紙は殺が過ごしていた寺子屋、今では小学校になったというところから届いたものである。

 最初は母校から手紙が来るなんてと物珍しさで読んでいたが、手紙の内容を要約すると殺が出世したから学校の代表として講演会を聞いてほしいというものだった。

 結局は仕事を頼まれたというのだろう。
 だが殺も学校には世話になった。
 そういうこともあり、手紙を無碍にすることも出来なかった。
 だから手紙の返事を書く。
 依頼を承ったとの返事を……。

「殺、仕事の手紙か?」

 陽が溜め息を吐いている殺が気になり、手紙を覗き込んで訊ねる。
 そして陽にも手紙の内容が見えた。
 なるほど、母校へ講演会か。
 地獄とは関係ない仕事が増えたが、断れなくて溜め息を吐いていたんだなと陽は一人納得する。

「ええ……仕事ですよ」

 殺は力のない返事を陽に返す。
 それに対し陽は微笑みながら「頑張れ」と殺の頬に口付けをした。
 陽の珍しい態度に、人殺し課が騒然としたのは言うまでもない。



 手紙で依頼を承ったとのことを書いた殺はその後、学校と相談して講演会の日と段取りを決めた。
 そうしてとうとうやってきた。
 講演会の日が。

 改装され昔とは見た目が変わった学校の正門を殺はくぐる。
 今の小学校は人間界の小学校と見た目は変わりない。
 殺は特に懐かしさを感じることもなく先ずは職員室に行く。
 それは学校の先生方に挨拶の為、講演会前の準備を手伝ってもらう為だ。

 職員室を探さねば、そう校庭を歩いて学校内の入り口を探していた時……。

「殺様!」

「……ん?」

 殺は声が聞こえる方を向く。
 すると学校の入り口らしき場所に人影があった。
 殺は入り口が見つかり、その場所へ向かう。
 すると入り口が近づくにつれ人影の正体がわかり、殺は目を見開いた。
 それは昔、自分を虐めていた者の一人だったからだ。

「殺様!!」

「……っ」

 殺はいじめっ子から目を逸らす。
 だがいじめっ子はそんな殺に擦り寄り、頼みごとをしてきた。

「どうか俺を地獄で働かしてくれ!ここは俺が非常勤講師だからって給料が安いんだよ。なあ、頼みますよ~!」

 殺は嫌な奴に会ったと心の底から思った。
 此奴は昔から性根が腐った者だったと殺は思う。
 此奴は殺に冤罪をかけたり、暴力を振るった者だ。
 それでも殺はやり返さなかった。
 やり返してくれたのは……、殺は思い出す。
 自分を守ってくれていた存在を。
 その出会いを……。



 ~~~~




「初めまして、私は殺と申します。以後よろしくお願いします」

 殺は初めて寺子屋に来て無難な挨拶を皆に向けて発した。
 閻魔に教養は大事だと言われ寺子屋に入ったのだ。
 教師は殺に席の場所を言い、座る様に言う。
 するとひそひそ声とはいかない小声より少し大きめの声たちが殺の耳に入った。

「殺すと書いてあや?物騒、怖い」

「あの子は人を殺したから真っ赤に染まったんだろ?本当に悍ましいな……」

 殺は自分を気味悪がる声に諦めを覚えていた。
 そうだ、自分は人を殺した。
 だから奇妙に思われても仕方がないと。
 殺は席に向かう、すると殺の席はある二人組に占領されていた。

「おはようね」

「よう!」

「……貴方たちは?」

 殺は嫌がらせかと思って溜め息を吐いてしまう。
 殺の席は黒いゴスロリ服とツインテールが特徴的な女子とフードを被った男子が占領していた。
 殺は取り敢えず退いてもらおうとした時だった。
 少女が大きな声で喋る。

「貴方の紅色は素敵ね!だって生きているもの!血は死んでしまうと茶色くなってしまうわ。だけど貴方は鮮やかな色!つまり生きている証!」

 殺は呆然とする。
 自分の紅い色を素敵だと、生きている証だと?……そう呆然とした。
 だが少女は、この色が血の色と理解して言っている。
 血の色と理解しても尚、美しいと言った少女に殺は理解が出来なかった。

 そうして少年も言葉を殺におくる。

「お前の殺って名前は立派だな。俺たちみたいな生きている存在は何かを殺して生きているんだ。殺すことは生きているうえで当たり前のこと。つまりお前は生きる前提の名前なんだ。だから良いんだよ」

 少年は殺しを正当と言った。
 殺は自分の起こした紅い夜の惨劇を悔やんでいた。
 自分は人殺し、そう思っていた。
 だが少年は殺のことを正当とした。
 そう少年に思われたことで殺は己の罪が少し軽くなった気がした。

 名も知らぬ二人組に殺は救われた気がした。
 だから殺は名前を訊こうとする。

「貴方たちの名前……「美優!真!貴方たちは授業の邪魔をするつもりですか?!廊下に立ってなさい!それと殺も座りなさい!」

 教師の怒号が響く。
 殺はその大きな声に耳を塞ぐが、二人組は慣れた風に教師に対抗した。

「私たちが授業妨害ならひそひそ声以上の声たちは授業妨害に入らないのかしら?」

「地獄では誰にでも平等だろ?」

「うっ……っ!」

 二人の言葉に教師は何も言えなくなる。
 そうして二人組みは殺の隣の席を陣取る。
 そうして殺を手招きして殺を席に座らせた。
 殺は二人に感謝をし、お礼を言う。

「ありがとうございます」

「なーに、礼はいらないさ!さっき俺たちの名前を訊いてきたよな?俺の名前は真だ!よろしくな!」

「私の名前は美優よ!よろしくね!」

「真さん……美優さん……よろしくお願いします!」

 殺は二人の名を呼んでよろしくと言った。
 それに対し二人は笑う。

「さん付けしなくて良いぜ!」

「私たちは子供なんだから子供らしくいきましょ!」

 二人は楽しそうに子供らしく笑っていた。
 それはまるで殺も子供でいて良いといっている風に。
 殺は自然とにやける。

「そうですね……では真!美優!よろしくお願いします!」

「よろしくな!」

「よろしくね!」

 こうやって美優と真が殺の友達になった。
 それから二人は殺を虐める奴を逆にやっつけたりなどと滅茶苦茶なことをしていった。



 ~~~~


 殺は昔を思い出しニヤりと笑う。
 その笑みをいじめっ子は都合の良い方へ勘違いしたのか殺の肩を掴み笑みを浮かべた。
 だが殺は肩を掴む手を払いのける。

「なっ!?」

「貴方は私を物騒だと言いましたよね。そんな怖い存在と働きたくない筈。それに……」

 殺は目を尖らし相手を睨んだ。

「私は自分を信じてくれる者としか働きたくない。私が貴方と働きたくない!!」

「ひっ!?」

 いじめっ子は後退る。
 そうして走って逃げていった。

「職員室くらい案内出来ないんですかね?まぁ、良いか」

 そうやって殺は職員室を探しに行った。
 自分をいつも守ってくれた愛しい存在に想いを馳せながら。

 さあ、愛しい存在を今度は守ろう。
 守られてばかりでは性に合わない。
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