地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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桜の下には

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 殺はいつも働く。
 人殺し課で怒号をあげれば毎回体力を消費する。
 そうして今日も人殺し課の馬鹿は手を動かさずに口だけ動かしていた。

「なあ、俺さー新しい服を買おうと思ってるんだけど」

「良いですわね!」

「儂も買うとしようかのう?」

「……皆さん」

 今日も元気に仕事を手抜きする三人の馬鹿は「なーに?」と声を揃える。
 それに対して殺は頭の血管が切れるんではないかと自分でも思いながら口を開いた。

「仕事をしなさい!!」

「はーい」
「はーい」
「はーい」

 サトリ、M、御影。この三人は仕事は手を抜いたりするが、殺が倒れて以来は仕事をサボったりはしていない。
 それがあるから殺は体力を消耗してでも叱って仕事を促す。
 そうして殺に叱られた三人はいつも通り、仕事に手をつけだした。

 それを見て殺は内心ホッとする。
 だが、その直後に仕事に思わぬ邪魔が入ることになる。

「たーのもー!」

「……閻魔大王、依頼ですか?」

 閻魔が来る時は大抵は雑務か依頼だ。
 だが雑務の方が可能性が高い。
 それをわかっても尚、殺は閻魔に依頼か訊ねる。
 だが今回は依頼でも雑務でもなかった。

「皆でさー、永遠に咲く奇怪な桜でも見に行かない?」

「仕事があるので」

「そー言わずにさー」

 閻魔は殺の袖を掴んで駄々をこねる。
 永遠に咲く桜、それは話で聞いたこともある。
 何しろ、その桜には未知の妖力が溢れていて、地獄でも有名なのだ。
 すると御影が殺と閻魔のやりとりに割って入る。

「春紀とお呪いをした場所も其処じゃったのう」

「春紀さん……!?」

 春紀、その一言に殺は反応する。
 未知の妖力が溢れている桜の木でいったいどんな呪いを?
 殺は親愛なる兄のことならなんだって出来る。
 だからこそ桜を見て呪いを確認したかった。

「桜……見に行きますよ」

「本当?殺ちゃん大好き!」

 閻魔は殺に抱きつき、喜びを現す。
 いつもの殺なら閻魔に抱きつかれたままで幸せそうな表情を浮かべていただろう。
 だが今は違う、殺にとっては緊急事態なのだ。
 だから閻魔に構っている暇などなかった。

「早く行きますよ!……って、あれ?目眩が……」

 殺はまた重力をなくした様な感覚に襲われる。
 そうして地面へと引き寄せられるかの様に倒れていった。

「殺!!」

「殺ちゃん!?」

 閻魔が殺を揺さぶる。
 だが殺は皆の声がだんだん遠くに聞こえ始め、瞼が閉じていき、深い闇の中へと沈み込んでいった。


 ~~~~


「ここは?」

 殺は目を覚ましたら美しい花が咲き誇っている草原にいた。
 そこは太陽が優しい光を放っていて、そして静かだった。
 不気味なほどに静かだった。
 そう、まるで生き物などいないかの様に……。

 殺は辺りを警戒しながら、その世界から出る為の手がかりを得る為に歩みを進める。
 暫くの間はずっと歩いた。
 すると殺はある桜の木に惹かれた。

 それは他の桜の木より一際大きく、優しい神気に満たされていた。
 それを見て殺はふと思い出す。
 永遠に咲く桜のことを。
 殺はこれは春紀の呪いに関係があることか?と考えた。
 その時だった。

「幸」

「兄様ぁ!!」

 不気味なほどに静かだった世界に声が響いた。
 殺は声が聞こえた方を向く。
 するとそこには何回も見て、見慣れた姿があった。

 翠と幸だった。

 瞬間に殺は頭の中の考えを切り替える。
 これは春紀と御影のことではない、翠と不幸の鬼のことだと。
 ならばここは記憶の世界?
 だがおかしい、記憶の世界の記憶は殺が寝ている間に勝手に再生される。
 だが殺は寝てはいない。

 いや、寝てはいるが、今回は無理をしていないのに倒れたのだ。
 まるでこの記憶を見させる為に、強制的に眠らせたとしか殺には思えなかった。
 ならばこれは不幸の鬼が無理矢理に見させている?
 だが不幸の鬼はそんなことをする気配など出していなかった。

 ならば何故?
 殺は不思議に思いながらも目の前の光景を見る。
 目の前では小さな頃の不幸の鬼が翠に抱えあげられているところだった。

「幸、この桜の木はなお前の心の成長を体現しているのだ。見よ、もうあんなに大きくなって……お前は優しいな」

「兄様ほどではないですよー!」

 不幸の鬼はきゃっきゃと笑う。
 それに釣られて翠も笑顔を見せる。
 それは幸せそうな二人の兄妹だった。
 殺は目の前の光景を少しだけ羨ましそうに見る。
 その瞬間だ。

 世界は暗転する。

 赤い夜、何もかもが荒れ果てた世界に殺は立っていた。
 変わらずあったのは桜の木だけか。
 殺は桜に呼ばれた気がして桜の前に立つ。
 すると声がした。

「幸……何故だ?何故?」

 その声は酷く悲しげで桜の木の下から聞こえた。

『桜の木の下には死体が埋まっているよ』

 そう誰かが言っていた気がする。
 殺は「何故だ?」と問い続ける声に同情を覚える。
 全てを許して、世界の摂理に反さなかった筈の存在が地に埋まっていることに同情を覚えた。

「待っていろ、幸。お前の間違いを正してやるから。五人の英雄なんて……」

 殺は摂理に反さなかった者の声に耳を傾けてしまった。

『ぐちゃぐちゃに引き裂いて殺してやるからな』

 ぐちゃぐちゃに……その声は歪んでいた。
 殺はそれに思わず小さな悲鳴をあげてしまった。

「ひっ!?」

 怖くて目を閉じる。
 すると目を開けたら世界はいつも通りの闇に染まっていた。
 殺はいつもと同じ景色に安堵を覚える。
 すると目の前には不幸の鬼が立っていた。
 不幸の鬼は心配そうに殺の頭を撫でる。

「大丈夫ですか?殺様?」

「……幸さん、あの世界は貴方が見せていたのですか?」

「あの世界?」

 不幸の鬼は首を傾げる。
 それはあの世界はやはり不幸の鬼が見せていたわけではなかったことを示していた。

「殺様、もう少しで目覚められますよ。何だか知りませんが、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「良いのですよ。……これでやっと仕事が出来る」

 不幸の鬼は頭を下げる。
 すると世界が光に包まれてきた。
 不幸の鬼は「目覚められますね」と笑顔を見せる。
 だが、その笑顔は翠に見せていた笑顔に比べると愛想笑いの様に思えた。
 そのことに殺は悲しみを覚える。

「また眠ったら会いましょう」

「殺様はいつ寝るのでしょうかね?」

 不幸の鬼の愛想笑いに殺も愛想笑いで返す。
 殺は不幸の鬼の笑みを見て、こう決めた。

 幸さんが本当の笑顔を見せる様になったら自分も本当の笑顔で返そう。
 それまでは愛想笑いだ。

 そう決めた。


 ~~~~



「殺!!」

 声がだんだん近づいていく気がした。
 殺は静かに瞼を開ける。
 するとそこには今にも泣きそうな皆がいた。

「皆さん……」

「殺!大丈夫か?!」

 陽は必死に殺に問いかける。
 その声に殺は「大丈夫です」と答えた。

 それよりもあの桜の木は……?
 殺は永遠に咲く桜を調べなければならない気がした。
 だから歩みを進め様とする。

「殺ちゃん!?」

「桜の木に向かわなければ!」

 そう言って桜へ向かう殺に閻魔は待ったをかける。

「何です?閻魔大王」

「殺ちゃん!倒れたってことは体調が悪いってことだよ!だから桜は延期!どうせ永遠に咲く桜なんだから良いでしょ?」

「それでも……」

「だーめ!ゆっくり休みなさい!」

 閻魔の制止に殺はそれ以上は何も言えなかった。
 だから今回だけは桜を調べることをやめにした。
 だって桜は逃げないもの。

『桜の木の下には死体が埋まっているよ』

 その言葉が示す最悪の意味をこの時の殺は知りもしていなかった。

 さあ、地中には何が埋まっているのでしょうね?
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