地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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私は不幸だ

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 私は幸せか?

 殺は自問自答する。
 彼は今の現状には満足していた。
 だが幸せか如何かはわからなかった。
 満足が幸せに直結するとは限らない。
 殺は悩む、だがこれは幸せな悩み事でもあると思った。
 だから結局は自分は幸せ、そう決めていた。



 ~~~~



「御影兄さん!サトリ兄さん!サボらないでください!それとM!貴方はお菓子の食べ過ぎです!」

「えー」
「えー」
「えー」

 御影とサトリはとても面倒臭さそうにしていて、Mはこれ以上食べたら太るかなと己の腹を見ていた。
 殺はそんなMに対し、それ以上食べたら勿論太ると促す。
 それを聞いたMは青い顔をしてお菓子を手放し、書類に目を向けた。

「でも、Mさんはどちらかと言うと痩せていると思います。羨ましいです」

 美鈴はMの体をまじまじと見て答える。
 羨ましいと美鈴が言う。
 そんな中で皆は美鈴もだいぶ華奢だと思うんだがと悶々としていた。
 ちなみにMは痩せていると言われ、かなりご機嫌である。
 そうして「やっぱり、あと一個!」と冥王が作ったマドレーヌに手を伸ばしていた。

 そんな光景を殺は呆れながらも、笑って見る。
 自然に笑える様になった殺はいつも笑顔を見せていた。
 だから皆が殺の笑顔が見たくて頑張っている。
 そのことは殺は知らないが。

 殺の活き活きとした笑顔が見たい、それは人殺し課でも当たり前のことで、殺の笑顔を見る為ならとお笑いにまで手をつけた。
 まあ、お笑いは見事に滑って寒い風が吹いたが。

「殺、この書類は終わらせておいたぞ」

「陽!いつの間に終わらせたのですか?絶対に長引くと思って嫌気がさしてたのですが……」

「僕を誰だと思ってる。お前の恋人だぞ」

「陽……!」

 殺は陽が恥ずかしげもなく、堂々と恋人と言ってくれることが嬉しかった。
 嗚呼、この空間は幸せだ。
 自分は何を迷って、どうでもいいと言わんばかりに適当に幸せと決めつけていたのだろう。

 幸せと決めつけなくても良いではないか。
 ここは自然に幸せを与えてくれる場ではないか。
 平等な親に、優しい兄たち、強い恋人、愉快な友人と同僚。
 ここには家族が集っているんだ。
 それに生きていくうちに大切なものが出来すぎた。

 もう腕から溢れ落ちそうな程の大きな幸せを抱きしめて殺は笑う。

 良かった、優しい者に恵まれて。
 思い出と言う生きている限りは消えない記録がここにあって。
 思い出は大切なんだ。
 それは生きた記憶で記録に残る。

 殺は自分を幸せと思った。
 だからこの幸せを皆と守ろう。
 そう決めていた。



 ~~~~


 その晩、殺は夢を見る。

「兄様!私を見つけられますかね?」

「何処だ~?幸!」

 幸せそうな兄妹が広い敷地でかくれんぼをしていた。
 兄は妹の居場所がわかってはいるが、わざとわかっていない振りをしていた。
 妹が隠れて、数秒もしないうちに妹の居場所がわかる兄。
 それほど妹のことがわかっていて大切なんだとよくわかった。

「見つけたぞー!」

「きゃー!」

 兄は妹を抱きしめ顔を近くに寄せる。
 妹はその頬に、己が頬を擦り寄せ幸せそうに笑った。

「本当の家族って良いですよね!」

「ああ、皆には内緒だが、お前は特別だからな!」

 殺は本当の家族という言葉に思わず体が動かなくなった。
 殺の周りの家族たちは血が繋がっていない。
 いや、殺は血が繋がっていた久遠と仲違いしてから天涯孤独の身だった。

 ……いや、産まれた時間と場所が一緒なだけで久遠とも血が繋がっていないかもしれない。
 つまり殺には血の繋がった家族がいないのだ。


 昔のことだが……。


 朝に些細なことがあって御影とサトリと喧嘩したことがあった。
 そのことで殺は閻魔殿を飛び出し、逃げていった。
 御影とサトリは殺と喧嘩しても探してはくれていた。
 だが彼らは二手にわかれても夕暮れまで殺を見つけられないことは多々あった。

 それは殺の行く場所がわかっていない証拠でもある。
 だがこの兄妹は如何だ?
 血が繋がっていて、妹の居場所がすぐにわかる兄。
 それは殺が兄さんと呼んでいる者たちとの違いを現していた。

 殺は思う、もし自分が遠くへ行ってしまったら……あの二人は探し出せるのだろうか?
 諦めたりしないだろうか?

 記憶の世界で兄妹は笑う。

「幸。本当の家族にはな、無償の愛が降り注ぐんだ。偽物では降り注ぐことはない」

 その言葉に殺は僅かな絶望を覚えた。
 偽物。そうだ、あの二人とは血が繋がっていない偽物の家族なんだ。
 御影やサトリだけではない。
 閻魔も、職場の皆も。
 家族ごっこをしていたにすぎないんだ。

 そして本当の愛も降り注ぐことはない。

 あれも、これも、それも、どれも偽物。
 偽物しかない。
 偽物しかいない。
 殺は疑う、自分の命を心配してくれる心優しい者たちを。

 だって疑わずにはいられない。
 本当に愛を捧げてくれる者がいるのかを。

 殺はふと思い出した。
 自分は幸せかと。
 現状には満足している。
 だが自分には何かがないんだと。
 それが漸くわかった。

 今まで存在を疑わなかった家族。
 それは偽物だった。
 殺にないものは本当の家族。
 だって本当の家族ではないと愛は有償だ。

 無償で何処かへ一人で行く殺を探してくれるわけがなかろう。

 殺は笑う。
 そうか、自分は一人なんだなと。
 誰も自分についてきてくれないんだと。
 誰も探してくれないんだと。

 その瞬間に殺の顔は憎悪で歪む。

「この運命を許さない」


 ~~~~



 朝日が差し込む。
 小鳥のさえずりが聞こえ始めた頃に殺は起きた。
 どうやら殺は閻魔殿の自室で眠っていた様だ。

「シャワーを浴びねば……」

 寝ぼけながら、寝ている間についた寝癖をわしゃわしゃとかき上げながら立ち上がる。
 ふらふらとした足取りで、机の角に足をぶつけてしまい少し身悶える。

 痛みで覚醒した頭は、取り敢えず体をすっきりさせねばと、シャワーを浴びるということを続行した。



 朝の早い時間に開かずの間へ向かう。
 そこは誰もいなくて静かだった。
 普段は賑やかなのにな。皆を待とうと殺は自分の席に座る。
 だがそこで思い出した。
 昨日の夢を、一人を。

 今、誰もいないこの部屋が殺の人生の真実なのではないか?
 一人ぼっちが彼の真実では?

 殺は思う、生きている限りは永遠に一人。
 ならば何故、他人を守らなければならないのか。
 だがそれもある考えで幕を下ろす。

 これが不幸の鬼の創りし摂理、運命。

 その考えで幕を下ろした。
 そうだ、他人を守るのは運命なのだ。
 もし、あの時に翠の手に縋っていたら運命を終わらせられたのではないかと殺は考えた。

 だがそれも偽物の為に偽善で縋らなかった。
 あの時が運命を破壊するチャンスだったのかもしれないのに。
 殺は己の偽善の正義を憎む。
 そうして一人しかいない人殺し課で彼は呟いた。

「私は不幸だ」


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