地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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皆を繋ぐ

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 静かな道をサトリは歩く。
 その道の続く場所は……。

 ~~~~


「……何だよ、お前たちも来てたのかよ」

「主もか……M、お主も」

「サトリ様、御影様……結局はこの場所に来るのですね」

 ゲーム大会を棄権、雅とテレビ鑑賞をやめ、スイーツ巡りに赴かず訪れたさきは……殺の家だった。
 皆は気まずく顔を背ける。
 それは皆が今の今まで殺に会いに行かなかったことを知られたからだろう。
 どの道、皆が集まる中で一人でも欠ければ気まずいが。

 皆は殺に会うことを恐怖していた。
 だからこそ集まるのが遅くなった。
 だが皆は気づく。

「陽は?」

「……さあ?」

 これは皆が集まる中で一人欠けた気まずいパターンか?
 皆はそうも考えた。
 だがもう一つの可能性も捨ててはならない。
 それは陽が先に殺に会っている可能性だ。

 恋人である彼は責任感をより重く感じて殺の家に来たかもしれない。
 それならば自分たちはなんと情けないことだろうかと皆が思う。
 自分たちは責任感を捨てかけ、殺に会おうとせずにいた。
 自分は兄なのに、友人なのに。
 そう思った。

「取り敢えず殺に会うのじゃ」

「ああ、そうだな」

 御影は門番の下へ行く。
 門番は三人がすぐに家に入ろうとせずに話し合っている様子を見て疑問符を浮かべていた。
 だが漸く皆が門の前に集まる。
 門番はそれ以上は考えるのをやめにして三人を歓迎した。

「皆様、今すぐ門を開けますね」

「ありがとうございます」

 Mが丁寧にお辞儀をする。
 それに釣られて他二人もお辞儀をした。

 重い門がギィィーっと軋む音を立てて開いていく。
 殺の家の入り口が開かれていくことで三人は殺に会うことをより固く決めた。
 門番はそんな三人の固い決心を知らずに、あることを口にする。
 それは三人にとって、より殺に会おうとせずにいたことを後ろめたくすること。

「そういえば、陽様が来てましたね」

「陽が……か」

 やはり先を越されていた。
 後ろめたさが襲って来る。
 自分たちは何で殺に会おうとしないのか。
 また狂わせてしまうのが怖くて、なんて言い訳にはならない。
 今は殺に会わねば。
 責任を果たさねば。
 そう思い、門をくぐる。

「相変わらずの大豪邸だな」

 サトリはいつもならはしゃいでいるだろうが、今は違う。
 今は殺に伝えなければならないことがある。

 彼に沢山の愛を伝えなければ。

 その思いが大きくて、今この場所に集まった。
 閻魔の命令の監視などなくてもと思ってここに来た。
 まあ、会いに行きづらかったが。
 皆は使用人に玄関に入れてもらい、廊下を歩く。
 使用人に案内されて殺の部屋に行く。
 だが辿り着いた殺の部屋はもぬけの殻だった。
 使用人が首を傾げる。

「あれ?殺様はどこだろう?」

 すると別の使用人が現れる。

「殺様なら調理場ですよ。急ぎなら案内しましょうか?」

 ある意味では急ぎだ。
 ならば案内されるべきである。
 三人は使用人に頼んで調理場へ案内してもらうことにした。
 使用人は笑顔を見せ、三人を案内する。
 その笑顔で言葉を放つ。

 殺が皆に会うことを楽しみにしていた……と。

 それを聞いた皆はすこしだけギクシャクする。
 殺は楽しみにしていた。
 それなのに自分たちは……などと負の連鎖に陥る。

「殺様……楽しみにしていらしたのに……」

「M、もう何も言うな。今は皆が集まっているだろ」

「それで充分な筈じゃ……」

 調理場へ近づく。
 殺の気配がする。
 何故か陽の気配もするが。

「それでは私はここで、掃除の仕事に戻ります」

「ありがとう」

 さあ、伝えなければ。
 皆が貴方を愛していると。
 ずっと大好きでいると。
 永遠に幸せでいようと。

「殺……。っ!?」

「如何したのじゃ?サト……!?」

「皆様?如何したのですの?」

 男二人が固まっている中で、Mが調理場を覗く。
 するとMはニヤケ顔になってしまった。
 何故ならそこにはふりふりのエプロンを着た陽が料理を作っていて、その陽に殺が抱きついていたからである。

「殺!手を切ってしまう!離れろ!」

「血は舐めとりますよ」

「ほう……恋人に怪我しろと?いい度胸だな、歯をくいしばれ」

 殺と陽は他愛ない会話らしきものをしている。
 結構物騒な会話にも聞こえるが。

 Mは少し安心した。
 優しい殺が居ることに安心した。
 いつもの殺を見て安堵から胸を撫で下ろす。
 すると殺が三人に気づいた様だった。

「皆さん、やっと来たのですね」

「陽……」

「……何だ?」

 サトリは顔を背け、プルプルと震えている。
 やがて顔を見せ、陽に指を指(さ)しながら大声で笑った。
 そんなサトリを見た陽は、若干だがキレ気味である。

「何だよ!そのエプロン!似合ってんぞ!ギャハハ!」

「なかなか……くく……似合って……ぷふっ、おるぞ!」

「文句があるなら、お前らの弟の変態の殺に言ってくれ」

 陽のエプロン姿を皆が揶揄う。
 それを見ている殺は少し笑っていた。
 そんな馬鹿みたいなことで笑っていると何か焦げた臭いがした。

「ん……?……あ!魚が焦げている!」

「陽は料理に集中していてください。三人は任せてください」

「ああ、了解!」

 そうやって陽は焦げかけの魚の方へ行く。
 三人は、笑いを抑えることに必死になっていた。
 だが冷静になっていくとわかる。
 殺は三人は任せてくださいと言った。
 だから、自分たちは殺を直視しなければならないと。

 正直に言うと、三人は殺を直視する自信がなかった。
 それは会いに行こうか迷った後ろめたさ。
 だが三人は殺に部屋まで行きましょうと、手招きされる。
 ついていくしかなかった。

 これ以上は選択肢を間違えるわけにはいかなかった。
 殺と向き合う、そう決めた。
 だから、もう堂々とするんだ。
 そう思っていると殺の部屋に着いた。

「やっぱり広いなー」

「儂の家もこんな感じじゃから普通じゃの」

「でも御影様は居候みたいなものでしょう?」

「何じゃと!?」

 御影とMが口論になる。
 更にサトリが乗っかってきて、口論がヒートアップする。
 そんな五月蝿い室内で、静かな笑い声が何故だか一際目立って聞こえた気がした。

「殺?」

「いえいえ、気にせずに。ふふっ、やはり皆さんは変わりませんね」

「あ……」

 変わらない日常が罰。
 それが殺の罰だと皆が思い出した。
 ならば今、辛いのでは?
 そう思えば、たとえ罰を行う立場でも無情にはなれなかった。
 だが、無情になれずに居ると思い出す。
 自分は殺に会いに行こうか迷ったことを。

 それこそ無情な行為だと。
 皆が下を向く。
 すると殺は語った。

「皆さんが私に恐怖して会いに行こうか迷ってたこと、結局会いに来たこと、私を愛していること全て知ってますよ」

「え?」

 皆は殺が全てわかっていたことを知った。
 サトリは自分たちが、たとえ会いに行こうか迷ったとしても、愛しているということを伝えに行くことが知られていたのか、と溜め息を吐いた。
 全て知られていたのなら悩む必要も大してなかった。

 だって結局会いに行くことまで知られているんだもの。
 愛していると伝え様としていることも知られているんだもの。

 ただ時間が遅くなってしまっただけだ。

「皆さん」

「何ですの?」

 殺が何かを言おうとする。
 それに皆が耳を傾けて聞こうとしている。
 殺は静かに懇願した。

「どうか変わらないでいてください」

「え?……でもそれじゃあ辛く……」

 サトリは言葉を途中で終わらせた。
 殺の曇りのない笑顔を見て、何も言えなくなった。
 殺はもう覚悟を決めたのか、とサトリは静かに笑んだ。

「もう迷いはないのか」

「はい、私は罰を受け続けなければなりません。だが、この罰は周りを不幸にする様で皆を繋ぐ慈悲だ。私はたとえ辛くても皆と繋がりを持ちたい、私はこれ以上は皆も、自分も不幸にしたくありません」

「そう……か」

 殺はにっこり笑っている。
 その顔には、もう狂うということはない、と書かれている様に見えた。
 Mと御影は殺の言葉を理解すると顔を明るくさせた。

「漸く自分を大切にするのですわね!」

「儂らも自分の身は自分で守るのじゃからな!殺は自分だけ守るので良いのじゃからな!」

 二人は幸せそうに殺に詰め寄る。
 サトリはそんな皆を見て殺の願いが叶ったことを実感した。
 殺の願い、変わらない日常。
 罰の様で皆を繋ぐ絆の糸。
 閻魔はそのことがわかっていたのだろう。
 してやられた、それが今の皆の感想。

「おーい!料理完成したぞ!皆、手を洗って来い!」

 陽の声が聞こえる。

「儂らの分もあるのか?!」

「殺に聞いていたからな!皆の分もあるぞ!」

「やったー!」

 御影は涎を垂らしそうな勢いだ。
 殺は涎は垂らさないでくださいよと呆れながら言う。
 だがその顔はやはり笑っていた。

 罰は皆を繋ぐ絆であった。







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