地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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お掃除しましょ

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「殺ちゃん!」

「何ですか?閻魔大王」

 一人で閻魔殿の廊下を歩いていた殺。
 ガヤガヤと喋り声が騒がしい中で閻魔の声は殺に届いた様だ。
 突然、閻魔が話しかけてきたことに殺は若干戸惑う。

 戸惑うその理由は、先ほどに全ての用を閻魔の自室で片付けてきた筈だったからだ。
 まだやらなければならないことがあったのだろうか?
 殺は仕事が増える予感に震える。

 そしてその予感は見事に的中した。

「中庭の掃除を人殺し課でしてくれない?」

「……はい」

 閻魔は殺の返事を聞いた途端にガッツポーズをする。
 その歓喜の大きさに殺は少し引きながらも、もう秋の到来かと季節の移り変わりに感慨深くなっていた。

 中庭の木は全て落葉樹だ。
 だからこそ秋になったら葉を大量に落としていく。
 広めの中庭を掃除する業者の人を見るのは毎年の恒例行事だった。
 だが今回は業者ではなく人殺し課の様だが。

「では皆を集めてきます」

「うん!あっ、落ち葉は一箇所に集めてね!後で楽しいことするから!」

 楽しいこと。
 殺には掃除の後の楽しみがわからなかった。
 それは殺が娯楽など、どうでもいいとする性格だからか。
 閻魔のすることは大抵は面倒なこと。
 だから殺は今回も面倒臭いことが起きるのではと懸念しながらも人を集めることにした。


 ~~~~


「掃除!?断れよ!」

「嫌じゃー!寒いのじゃー!」

 殺にとって敬愛する兄二人が駄々をこねている。
 もうそろそろ、殺の胃に穴が空くのでは?
 そんな疑問が陽の頭の中で広がる。
 実際に殺は胃をおさえていた。

 それにしても意外なことはMが素直に掃除に参加してきたことだ。
 彼女も面倒事は御免なタイプだ。
 そんなMが何故?
 すると彼女はサトリと御影に向かって大声を出した。

「後で楽しみがあるのですよ!」

 そういうことか。
 だからMは黙々と準備をしていたのか。
 その楽しみとやらの為に。
 だがサトリと御影は楽しみなど、どうでも良さそうだ。
 楽しみがあったら動く二人も行動を慎むほど寒くなってきた。

 殺は動かない二人に怒涛の勢いで怒鳴りつける。

「掃除をしなければ仕事を増やします!倍にしますよ!それが嫌なら掃除!」

「卑怯だー!」

 サトリはそう叫びながら殺の下へ向かう。
 御影にいたっては殺が仕事を増やしますと言った瞬間に既に殺の隣に居た。
 まさに仕事が嫌いな駄目な馬鹿である。

「ではいってまいれ」

「はい、冥王様。小夜子姫、美鈴、暫くは休んでなさい。馬鹿の監視は疲れたでしょう?」

「殺様!はい、お言葉に甘えて!」

 殺は三人が留守番してくれることで、仕事を留守に出来る安心感があった。
 今まで殺は裏切り者がいるかもしれないと気を引き締めていたので、確実に信頼出来る仲間が居ることに感動をしていた。

「では、いってきます!」

 そうして彼らは寒空の下へ向かっていった。



 ~~~~


「落ち葉、だいぶ片付いたな」

「そうですね」

 三十分もすれば落ち葉は、ほぼ片付く。
 掃除は終わった筈、ならば後の楽しみとは。
 そう思っていると水が入ったバケツとトングを持った閻魔が中庭に入ってきた。

「閻魔大王?」

「手に持てるのは持ってきたよ!後は異空間から他のものを取り出すだけ!」

 そう言うと閻魔は異空間からマッチ、それと大量のサツマイモを取り出した。
 これを見たことで殺は後の楽しみとは焼き芋かと一人納得をする。
 そして、その目を輝かせた。

「閻魔大王!それ食べ放題で良いですよね?!」

「もちろん!」

 殺の目が本格的に少女漫画のヒロインの様な目になる。
 心なしか背景に秋桜が舞っている様にも見えた。
 陽は何故、殺がこんなに心を踊らしているのかと気になっている。
 すると御影が陽の肩に手を置いて、疑問に答えた。

「彼奴は秋の味覚が大好きなのじゃ。だから浮かれておるのじゃ」

「そして、奴が最も太る季節だな」

「お、おう……」

 かなり可愛らしい理由……否、子供らしい理由だなというのが陽の感想だ。
 もう年増だろうが、何を食欲の秋を満喫しているんだ。
 体重のことを考えろ、もう若くないんだぞ。

 かなり陽が失礼なことを考えていると、閻魔が芋を焼きだす。
 それを殺は獲物を狩る様な目で見つめていた。

 これは一番多くやらないと拗ねるパターンだ。
 皆は子供の様な大人を見て、笑うしかなかった。
 ただ一人を除いては……。


 ~~~~


「もう焼けましたよね!」

「嗚呼、たぶんね」

「出しましょう!」

 そうやって殺はトングを使って落ち葉を退けていく。
 すると殺は固まった。

「どうしたの?殺ちゃ……っ!?」

 閻魔も流石に固まる。
 それは何故かと言うと燃え盛る落ち葉の中で、燃えながら芋を必死に貪るMが居たからだ。
 そういえば十分前にどこかへ行って、それっきりだったが……まさか貪欲に芋を食べてるとは。

 殺はMを落ち葉から引きずり出し、胸倉を掴み上げ、揺らしに揺らした。

「貴方、どのくらい食べた!?」

「三分の一ですの!」

 Mはドヤ顔で答える。
 どうやら秋の味覚に敏感なのは殺だけではなかった様だ。

「テメぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「殺ちゃん!落ち着いて!三分の二は無事だから!」

「黙れ!それでも私の取り分が減ったことには変わらないんですよ!M!貴方は太る気か?!坂道から転がしてやろうか!このデブス!」

「ああん!」

 Mの喘ぎと殺の嘆きが中庭で交錯する。
 それを御影とサトリと閻魔は笑いながら、陽は呆れながら見つめた。
 殺の怒りは治らない。
 殺はMの顔面を炎に突っ込んでいた。

 その光景を見ていた、殺の怒りを止める最終兵器がついに動きだす。

「殺、残りの芋はあーんで食べさせてやるから」

「さあ、食べますよ!」

「切り替え早っ!」

 殺の怒りは大抵は陽で治る。
 さあ、後は平和的に焼き芋を食すだけ。
 皆は手を合わせて、『いただきます!』と言った。


 ~~~~

「美味しいですね」

「それは良かったよ」

 殺と閻魔は隣同士で焼き芋を食べる。
 閻魔は猫舌なのか、必死にふーっと息を吹きかけて少しずつ食べていた。

「業者に頼むと落ち葉は処分されるだけですから、私たちにこれから頼まないと焼き芋は出来ませんね」

 殺は暗に来年も世界があると示す言葉を使う。
 それが彼にとっての誓いだったからだ。
 だが閻魔は笑う。

「世界だって、終わる時がくるんだよ。前の世界がそうだった様に」

「……」

 いつもなら閻魔は殺の誓いを肯定してくれていた。
 だが今日は違う。
 まるで世界の消失をも受け入れる……そんな態度だった。

「閻魔大王……世界は……」

「私たちが守るって?」

 閻魔は殺の言葉を区切る。
 いつもなら人の話を最後まで、最期まで聞くのに。
 この日は違った。

「世界はね、君たちにかかっている。だから脆い。君が裏切った時、世界は破滅の一歩を進んだ」

「それは……」

 殺は言葉を詰まらす。
 裏切ったことは事実だ。
 そのことで世界は危険にさらされた。

「王として言うよ。世界が終わったら、王はその程度だったんだ。君の裏切りも阻止出来ない、ていたらくのね。民衆を守れない私は必要ないんだ。だって君たちが戦うんだから。私は守れない」

「貴方は守れます!」

「何を?」

 閻魔は無邪気な瞳で殺を見つめる。
 だが、どこか空虚な瞳。
 その瞳に見られてしまえば動けない。

「私は世界を守れない。君たちに託すんだ。だが、君たちは絶対ではない。それがわかった。だが王は絶対でもないものに、時に賭けなきゃならない」

「そう……ですね」

 殺は芋を手から滑り落とさせる。
 彼は次にくる言葉が不安で仕方がなかった。

「私はね、君たちに託す。この世界を。……でもね、もし終わった時……後悔しない様に生きたいんだ。だから公表するよ、世界が危険だって。民草が後悔せずに生きていける様に」

 殺は閻魔に苦しい思いをさせてしまった、ただそう思った。
 終わりをも受け入れる、民草に後悔してほしくない。
 それらが、終わりを迎えたくない殺と違った。
 だからこそ愛おしく思えた。

 絶対はない。
 そうだ、この不完全な世界に絶対はない。
 不完全として生きていく以上は足場などない世界なのだ。

 殺は笑う。

「そうですね、私も二度と後悔しない様にします。後悔しない様に世界を必ず救います」

「……話、聞いてた?」

「ええ、聞いてました。でも私と貴方の考えは違うので」

 完全な強がり。
 閻魔にはそれがわかった。
 だからこそ閻魔は殺は脆いと考える。
 いつも暗闇を強がり、歩く。
 光など求めない。

 光を求めてしまっては壊れてしまう。

「はぁー……じゃあ期待してるね。英雄さん」

「期待して待っていてください。無能な王様」

 二人は静かに笑い合う。
 世界の終わりまで笑い合うのだ。

「ん?殺、芋を落としたのか?仕方ないな、あーん」

「陽!?頬は口ではありません!あちっ!」

 陽は殺の頬にぐりぐりと熱い焼き芋を押しつける。
 殺の叫びは中庭中に広がる。
 それを皆は笑いながら見ていた。

「世界も終わりがくるって言ったばかりなのに……私は……」

 世界の終わりを認めても、世界に恋い焦がれる無能な王様。
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