地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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運などないさ

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「翠様……」

 罪と呼ばれし男は胸に拳を近づける。
 それは必ず世界を取り戻してみせるとの意思表示で。
 刃を研ぎ澄まし、その眼に闘志を焼き付ける。
 焼き付けていたのは闘志だけではなく、あの日の惨劇。

 幸という存在が憎くて仕方がなくなったあの日。
 血の繋がった兄妹だろう。
 それが何故に血を流し、亀裂を生んだのか?
 だがそんなことは罪には如何でも良かった。

 さあ、刀を手に取ろう。
 反撃の狼煙を上げるのだ。

 揺るがない意思を抱えて、彼は一人で地獄へと降り立った。



 ~~~~



「どうせ、誰も俺についてきてくれないしな」

 罪は地獄へと降り立った瞬間に後ろを向いて、誰かいるか確かめていた。
 だが誰もいなかった。
 実を言うと罪は最近だが周りに無視をされている。
 前回だが邪に話があった為に彼女のいる部屋に行ったが、彼女は龍牙と何かを話し込んでいて、何度も読んだが無視を決め込まれてしまった。

 邪先輩と何度も大きな声で呼んでも無視をする為、馬鹿女と苛つきを込めて呼んでみた。
 その瞬間に包丁が己の頬を掠った恐怖を今でも忘れない。
 流石は人を恐怖におとしめる能力だ。

 そして悪に、それを愚痴ろうとしたら……自分の姿を見た瞬間に逃げられてしまった。
 その後、砲牙にも逃げられてしまう。

 何故、自分はこうも無視をされるのか?
 それは馬鹿にされているからか?
 思い当たる節はいくらでもある。

 それはあの日、紅髪の子供に祓われたことだ。
 あれが原因で、幹部の中でも比較的に弱い位置につくことが頻繁にあった。
 邪が龍牙と砲牙を罪の上司にしたのも馬鹿にしているからだろう。

 ならば無視をされない様に、馬鹿にされない様にするのが今、優先すべきことだ。

 その為には手柄をあげる。
 それが一番だ。
 だが罪は実体を取り戻したが、実は戦いの感覚は取り戻せていない。
 能力の範囲の決め方もうろ覚えだ。
 まあ、実体がない時も能力は使えたが、限界というものがあった。
 罪は能力の範囲設定を忘れるほど永い間、体は眠りについていたのだ。

「地獄に来たは良いが、これじゃあな……ゴフッ?!」

 罪は急に咳き込む。
 口に手を当てて、弱々しく咳をする。
 すると彼の手から液体が垂れていく。
 涎の様に透明ではない、真っ赤なそれが。
 血は垂れてはいるが、それはまだ微かな量だと罪は自嘲して考える。

「これもストレスか……胃薬はどこだ?」

 罪は懐を漁る。
 常に胃薬を持っているのは屈辱的な生活に耐える為。
 罪は懐から胃薬を取り出し、飲もうとする。
 水は常備していないが、水がなくても噛んで飲めるタイプなので大丈夫だ。

 罪は薬を飲もうとした。
 だがしかし、また咳き込む。
 咳き込んだ反動で薬が手から滑り落ち、地面へと転がる。

「ははは、ついてないな。運にも見放されたか?」

 罪は疲れていたのだ。
 もう自虐でしか己を保てないほどに。
 最近では天井の染みを数えて笑うのが殆どだ。
 だが、それでも周囲に疲れていると思わせたくない為に気丈に振る舞う。

 気丈に振る舞うのは、また馬鹿にされたくない心理が働く為でもあるが……。

「取り敢えず、能力を使ってみるか」

 罪は五人の英雄を倒すには能力を使いこなさないといけないと判断する。
 だが使いこなせないうちに見つかってしまえば五人に返り討ちにあう可能性があった。

 だからこそ罪は屈辱だが、見つからない場所を探して能力を使いこなす練習をすることに決めた。

 彼は歩き出す。
 それは今は苦渋を舐めていても、いつかは報われる日が来ると信じて。
 そう信じて誰もいない辺境の地へと足を運んだ。



 ~~~~



「ここで良いか」

 そこは透明な水が流れる海の近くの崖。
 崖は立ち入り禁止になっていて、人は入れない。
 まあ、罪は簡単に入れたが。
 所詮は一般人が入れない様にしているだけの結界。
 だが、罪には通用はしない。

 罪は拳だけで結界を破ったのだ。
 ただ一発殴っただけ。

 一般人にとって、ここはもう立ち入れないと認識されている筈。
 ならばここで練習をしよう。
 綺麗な景色を真っ赤に染める練習を……。

「まず、小さな風から操れなきゃな」

 そう言って罪はふーっと息を吐く。
 落ち着いて、俺なら出来ると信じながら。

 罪は手に力を込める。
 手に神風を集めて、体中の神気を風に変えるのだ。
 そうして眼を見開く。

「はっ!!」

 小さな風に想いを込めて。
 たかが小さな風。
 だがそれを操れないと勝負が話にならない。
 結果は……

 成功した。

「よっしゃ!」

 罪は己の力に確信を持つ。
 小さな風が操れるということは、大抵の風を操れるということだ。
 罪は笑う。

「これが成功したんだから、次は己の能力を最大限試す時だよな」

 何かを企んだ。

「これはお前らの賭けだ、五人の英雄」

 罪はその場で座り込み、どっしりと彼らを迎え撃とうとする。

「命というものを賭けるお遊戯だ」

 さあ、奴らは絶望して泣き喚くかな?

 罪は彼らの負ける姿を見た気がした。
 それは現実になるかはわからない。
 だが現実にするまでだと彼はニヤつきながら構える。

 罪は有言実行の男だ。

 だが、罪は忘れていた。
 今回は宣言してはいないと。

 有言実行でも有言していないと勝負は決まらない。
 言霊とは力があるのだ。
 誓いだけではない。
 誓いは、言霊は敗れる時はない。
 敗れる時が来たとしたら、それは誓いと言霊に対する想いが足りなかっただけ。

 足りない器は満たされない。
 だから人は想いを注ぎ込む。

 器が割れてしまうほどに。
 割れた器は凶器となる、破片が心の臓に突き刺さるだろう。
 だが凶器は使いよう。

 使いこなせる者は使いこなせるのだ。
 想いという名の凶器で相手を殺す。

 さあ、罪は使いこなせるだろうか?
 想いという名の狂気を……。






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