164 / 167
閻魔の想い
しおりを挟むその日、地獄は災害にみまわれていた。
地獄全土を包み込む台風、それは明らかな異常気象だった。
普通の台風はいつ来るか兆候が見られ地獄をゆっくりと時間をかけて進んでいく小さなもの。
だが、今回の台風はいきなり襲ってきたもので、しかも風が強風どころではない。
地獄に住む者たちは混合者事件以来ぶりに閻魔殿へ避難に来ていた。
幸い、閻魔殿には災害を想定していて様々な物資が用意されている。
これならば暫くは安心だろう。
だが、この台風は異常すぎる。
ならば物資があるうちに中心を見つけて消してしまおう。
閻魔はそう考えた。
~~~~
「中心が見つからない……」
台風の中心は勿論だが普通は真ん中だ。
だがこの台風は真ん中が中心ではないのだ。
しかも勢力がだんだん強まって来ている。
これには皆が焦りを感じていた。
「閻魔ー、浄玻璃鏡は使えんのか?」
朝から気象庁のデーターと睨めっこしていた御影は面倒臭そうに訊ねる。
それに対し、閻魔は少し怒りながら答えた。
「浄玻璃鏡は指定された人の人生と、指定された場所しか映さないの!」
「御影兄さんも知ってるでしょうに……」
そうだ、御影は知ってて訊いた。
相変わらずこの兄さんは無茶を言うものだと殺は閻魔に台風が来る前の気象データーを渡していた。
その気象データーは殺が丁寧に説明付きでまとめた書類である。
その気象情報は三週間前の分から集められており、殺は気象を解読して説明を付けていた。
殺は基本は万能だ。
この世界の学問ならばほとんどが答えられるほどに。
「さあ、閻魔大王。書類を見て気象庁の方と話し合ってきてください」
「愛する民の為に働こうかー」
そう言い閻魔が大きな玉座から降りた時だった。
裁判所の扉がバンっと開く。
三人が扉の方を向くと強風で服がよれたサトリと陽とMが息を切らしながら立っていた。
この三人、逃げ遅れた避難者を救助する為に外へ出向いていたのだ。
それにしても帰って来るのが異常に早い。
殺は大変なことがあったのかと思い、何があったかを訊ねようとした。
「三人共、何か……」
「殺、報告がある」
サトリが殺の言葉を遮るほどだ。
重要な報告なのだろう。
殺は固唾を飲んでサトリから語られようとしていることを聞こうとする。
そしてサトリは殺に報告をする。
「これは人災だ」
全てが動き出した。
~~~~
殺は閻魔と他四人を連れて、気象庁へ来ていた。
閻魔と殺が来たことにより、そこで働く職員たちは敬意を込めて跪いた。
「風の神は来ていますか?」
殺は一人の職員に訊ねる。
職員は緊張した面持ちで殺の問いに答えた。
「はい。今、上の者と異常気象のことで話し合っています」
「それは良かった。案内をお願い出来ますか?」
職員は命令ならばと殺たちを風の神の下へと案内する。
そして入り組んだ奥の部屋に殺たちは案内された。
「ここです」
「礼を言います」
そうやって職員は持ち場へと戻っていく。
その後ろ姿を見送ってから殺たちは部屋の扉を開けた。
「……気象的には兆候が見つからないのですね。ならば別の要因が?……閻魔様!」
部屋の中には気象庁の者と話し合っている、風の神がいた。
風の神は閻魔のもとへ行く。
やっと来てくれたのですね。
そう言いながら。
だが、彼は閻魔のもとへ行けなかった。
ドガっ!
「いっ!?」
風の神は思わず頬をおさえる。
真っ赤に腫れ上がった頬を。
彼は殺に殴られたのだ。
殴られた風の神は己を見下し、蔑む殺の眼に恐れを抱いた。
「何を……!?」
風の神は混乱しながらも、言葉を腹の底から吐き出す。
すると殺は彼の前髪を掴み上げ、その眼を覗き込みながら発言した。
「サトリ兄さんが言ったのですよ。これは人災だって。風に殺したいという憎しみが乗っていたそうですよ。風に想いを馳せられるのは貴方くらいしか出来ないでしょう?」
殺の目は憎しみしか映さない。
風の神は身に覚えがないことを尋問されて、その身を竦ませる。
だが恐怖が支配していても、言わなければならない。
自分はやっていないと。
「私はやってません!」
「嘘つきは舌を抜きますよ」
殺はいつの間にか持っていた舌抜きで風の神を脅す。
すると閻魔が二人の間に割って入った。
「ちょっと待った!彼は嘘はついてないよ!だって目に嘘が書いてないじゃないか。私たちは言わなければ嘘はバレないが、一言嘘を言えばそれが嘘だとバレるじゃないか」
「ですが、何らかの術を使ってわからないように……」
「その術はあると思う?」
「それは……」
殺は黙り込み、風の神を掴む手を放す。
風の神は何とか危機を脱したと思い、胸を撫で下ろした。
その様子を見て閻魔はにっこり笑いながら発言する。
「まあ、風の神は浄玻璃鏡で見た限り何もしてないよ!」
「わかっていたのなら最初から止めてください!」
風の神は悲痛に叫ぶ。
だが閻魔は知らん振りだ。
閻魔は殺の忠誠心が見たかっただけなのだ。
殺の忠誠心を見れたことで満足している。
「それはさておき、気象のことしか調べてないようじゃないか!だがビッグなニュース」
閻魔は部屋に置いてあった椅子にどっしりと腰を据えて話しだす。
「うちの救助メンバーが一部行方不明なんだ。これが人災だとしたら、行方不明になった場所が怪しいと思わない?」
「確かに……」
職員全員が考えだす。
そして閻魔は用件を話す。
「場所はざっくりしかわからない。だが君たちに伝えたら台風の僅かな強弱がわかり、中心がわかる筈だ。だから私たちの情報を受け取ってくれないかい?」
「勿論!」
職員が一斉に返事を返す。
誰もが閻魔の提案を受け入れた。
そのことに閻魔は笑みを浮かべる。
「じゃあ、頼んだよ」
「はっ!」
皆は気象を調べだす。
事件を終わらせる為に。
「閻魔大王……」
「何?殺ちゃん」
「いえ、何も」
殺は風の神が何もしていないとわかっていたなら、もっと早く止めてくださいと密かに思っていた。
~~~~
「閻魔大王!中心がわかりました!」
「ご苦労」
そう言うと閻魔は異空間から何かを取り出す。
それは浄玻璃鏡だった。
中心が、場所がわかったことで浄玻璃鏡でその場所を映しだし、犯人を暴こうという魂胆だ。
だが……
「風が青色で見えないね」
「そうですね……」
そう答えながら殺は考えていた。
風に想いを馳せられるのは風の神くらい。
それ以外の者には出来ない。
ならば、如何やって風の神以外の者が?
殺は考える。
これは地獄や天界の者の仕業ではないと。
そうしたら答えは簡単に浮かび上がった。
『翠の仲間』
彼らは未知で、強大だ。
これは彼らによる、地獄への攻撃だろう。
そう思えば殺はすぐ閻魔に提案していた。
「私たちを時空の歪みでこの場所に送り込んでください」
「何か、わかったの?」
「これは翠の仲間が起こした事件です」
殺がそう答えたら、閻魔は少し悔しそうな顔をした。
それは事件の真相がわかっても、自分ではなんとか出来ないからか。
閻魔は彼らを戦いに送り出すことしか出来ない。
死地に送ることしか。
皆は武器を既に手に取っていた。
それを見た閻魔は、これが運命なんだと諦めるしかなかった。
「じゃあ、時空の歪みを創るよ」
閻魔は時空の歪みを創る。
用意が出来たら進むだけ。
皆は進む決意を固める。
だが閻魔は一度彼らの歩みを止めた。
「閻魔大王?」
皆は不思議がる。
そんな彼らに閻魔は一言を言った。
「生きて帰ってね」
声は震えていた。
殺はそんな閻魔を見て笑いかけ、頭を撫でる。
まるで子供をあやすかのように。
「私たちは死にません」
「僕は生きたいから」
「ゲームもしてえな!」
「帰ったら飲み会じゃぞ!」
「じゃあ焼き鳥を頼みますわ!」
彼らは運命を受け入れていた。
残酷な運命が当たり前になっていた。
閻魔は望む。
いつか残酷なことが当たり前ではない日常を。
幸せを。
そう思いながら閻魔は彼らを死地に送り込む。
だが一言。
「死んだら許さないからね!」
ありきたりの言葉で皆を戦場に送った。
さあ、平和とは?
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる