地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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閻魔の想い

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 その日、地獄は災害にみまわれていた。
 地獄全土を包み込む台風、それは明らかな異常気象だった。
 普通の台風はいつ来るか兆候が見られ地獄をゆっくりと時間をかけて進んでいく小さなもの。
 だが、今回の台風はいきなり襲ってきたもので、しかも風が強風どころではない。

 地獄に住む者たちは混合者事件以来ぶりに閻魔殿へ避難に来ていた。
 幸い、閻魔殿には災害を想定していて様々な物資が用意されている。
 これならば暫くは安心だろう。
 だが、この台風は異常すぎる。

 ならば物資があるうちに中心を見つけて消してしまおう。
 閻魔はそう考えた。



 ~~~~



「中心が見つからない……」

 台風の中心は勿論だが普通は真ん中だ。
 だがこの台風は真ん中が中心ではないのだ。
 しかも勢力がだんだん強まって来ている。
 これには皆が焦りを感じていた。

「閻魔ー、浄玻璃鏡は使えんのか?」

 朝から気象庁のデーターと睨めっこしていた御影は面倒臭そうに訊ねる。
 それに対し、閻魔は少し怒りながら答えた。

「浄玻璃鏡は指定された人の人生と、指定された場所しか映さないの!」

「御影兄さんも知ってるでしょうに……」

 そうだ、御影は知ってて訊いた。
 相変わらずこの兄さんは無茶を言うものだと殺は閻魔に台風が来る前の気象データーを渡していた。
 その気象データーは殺が丁寧に説明付きでまとめた書類である。
 その気象情報は三週間前の分から集められており、殺は気象を解読して説明を付けていた。

 殺は基本は万能だ。
 この世界の学問ならばほとんどが答えられるほどに。

「さあ、閻魔大王。書類を見て気象庁の方と話し合ってきてください」

「愛する民の為に働こうかー」

 そう言い閻魔が大きな玉座から降りた時だった。
 裁判所の扉がバンっと開く。
 三人が扉の方を向くと強風で服がよれたサトリと陽とMが息を切らしながら立っていた。

 この三人、逃げ遅れた避難者を救助する為に外へ出向いていたのだ。
 それにしても帰って来るのが異常に早い。
 殺は大変なことがあったのかと思い、何があったかを訊ねようとした。

「三人共、何か……」

「殺、報告がある」

 サトリが殺の言葉を遮るほどだ。
 重要な報告なのだろう。
 殺は固唾を飲んでサトリから語られようとしていることを聞こうとする。

 そしてサトリは殺に報告をする。

「これは人災だ」

 全てが動き出した。



 ~~~~




 殺は閻魔と他四人を連れて、気象庁へ来ていた。
 閻魔と殺が来たことにより、そこで働く職員たちは敬意を込めて跪いた。

「風の神は来ていますか?」

 殺は一人の職員に訊ねる。
 職員は緊張した面持ちで殺の問いに答えた。

「はい。今、上の者と異常気象のことで話し合っています」

「それは良かった。案内をお願い出来ますか?」

 職員は命令ならばと殺たちを風の神の下へと案内する。
 そして入り組んだ奥の部屋に殺たちは案内された。

「ここです」

「礼を言います」

 そうやって職員は持ち場へと戻っていく。
 その後ろ姿を見送ってから殺たちは部屋の扉を開けた。

「……気象的には兆候が見つからないのですね。ならば別の要因が?……閻魔様!」

 部屋の中には気象庁の者と話し合っている、風の神がいた。
 風の神は閻魔のもとへ行く。
 やっと来てくれたのですね。
 そう言いながら。
 だが、彼は閻魔のもとへ行けなかった。

 ドガっ!

「いっ!?」

 風の神は思わず頬をおさえる。
 真っ赤に腫れ上がった頬を。
 彼は殺に殴られたのだ。
 殴られた風の神は己を見下し、蔑む殺の眼に恐れを抱いた。

「何を……!?」

 風の神は混乱しながらも、言葉を腹の底から吐き出す。
 すると殺は彼の前髪を掴み上げ、その眼を覗き込みながら発言した。

「サトリ兄さんが言ったのですよ。これは人災だって。風に殺したいという憎しみが乗っていたそうですよ。風に想いを馳せられるのは貴方くらいしか出来ないでしょう?」

 殺の目は憎しみしか映さない。
 風の神は身に覚えがないことを尋問されて、その身を竦ませる。
 だが恐怖が支配していても、言わなければならない。
 自分はやっていないと。

「私はやってません!」

「嘘つきは舌を抜きますよ」

 殺はいつの間にか持っていた舌抜きで風の神を脅す。
 すると閻魔が二人の間に割って入った。

「ちょっと待った!彼は嘘はついてないよ!だって目に嘘が書いてないじゃないか。私たちは言わなければ嘘はバレないが、一言嘘を言えばそれが嘘だとバレるじゃないか」

「ですが、何らかの術を使ってわからないように……」

「その術はあると思う?」

「それは……」

 殺は黙り込み、風の神を掴む手を放す。
 風の神は何とか危機を脱したと思い、胸を撫で下ろした。
 その様子を見て閻魔はにっこり笑いながら発言する。

「まあ、風の神は浄玻璃鏡で見た限り何もしてないよ!」

「わかっていたのなら最初から止めてください!」

 風の神は悲痛に叫ぶ。
 だが閻魔は知らん振りだ。
 閻魔は殺の忠誠心が見たかっただけなのだ。
 殺の忠誠心を見れたことで満足している。

「それはさておき、気象のことしか調べてないようじゃないか!だがビッグなニュース」

 閻魔は部屋に置いてあった椅子にどっしりと腰を据えて話しだす。

「うちの救助メンバーが一部行方不明なんだ。これが人災だとしたら、行方不明になった場所が怪しいと思わない?」

「確かに……」

 職員全員が考えだす。
 そして閻魔は用件を話す。

「場所はざっくりしかわからない。だが君たちに伝えたら台風の僅かな強弱がわかり、中心がわかる筈だ。だから私たちの情報を受け取ってくれないかい?」

「勿論!」

 職員が一斉に返事を返す。
 誰もが閻魔の提案を受け入れた。
 そのことに閻魔は笑みを浮かべる。

「じゃあ、頼んだよ」

「はっ!」

 皆は気象を調べだす。
 事件を終わらせる為に。

「閻魔大王……」

「何?殺ちゃん」

「いえ、何も」

 殺は風の神が何もしていないとわかっていたなら、もっと早く止めてくださいと密かに思っていた。




 ~~~~





「閻魔大王!中心がわかりました!」

「ご苦労」

 そう言うと閻魔は異空間から何かを取り出す。
 それは浄玻璃鏡だった。
 中心が、場所がわかったことで浄玻璃鏡でその場所を映しだし、犯人を暴こうという魂胆だ。
 だが……

「風が青色で見えないね」

「そうですね……」

 そう答えながら殺は考えていた。

 風に想いを馳せられるのは風の神くらい。
 それ以外の者には出来ない。
 ならば、如何やって風の神以外の者が?

 殺は考える。
 これは地獄や天界の者の仕業ではないと。
 そうしたら答えは簡単に浮かび上がった。

『翠の仲間』

 彼らは未知で、強大だ。
 これは彼らによる、地獄への攻撃だろう。
 そう思えば殺はすぐ閻魔に提案していた。

「私たちを時空の歪みでこの場所に送り込んでください」

「何か、わかったの?」

「これは翠の仲間が起こした事件です」

 殺がそう答えたら、閻魔は少し悔しそうな顔をした。
 それは事件の真相がわかっても、自分ではなんとか出来ないからか。
 閻魔は彼らを戦いに送り出すことしか出来ない。
 死地に送ることしか。

 皆は武器を既に手に取っていた。
 それを見た閻魔は、これが運命なんだと諦めるしかなかった。

「じゃあ、時空の歪みを創るよ」

 閻魔は時空の歪みを創る。
 用意が出来たら進むだけ。
 皆は進む決意を固める。
 だが閻魔は一度彼らの歩みを止めた。

「閻魔大王?」

 皆は不思議がる。
 そんな彼らに閻魔は一言を言った。

「生きて帰ってね」

 声は震えていた。
 殺はそんな閻魔を見て笑いかけ、頭を撫でる。
 まるで子供をあやすかのように。

「私たちは死にません」

「僕は生きたいから」

「ゲームもしてえな!」

「帰ったら飲み会じゃぞ!」

「じゃあ焼き鳥を頼みますわ!」

 彼らは運命を受け入れていた。
 残酷な運命が当たり前になっていた。

 閻魔は望む。
 いつか残酷なことが当たり前ではない日常を。
 幸せを。

 そう思いながら閻魔は彼らを死地に送り込む。
 だが一言。

「死んだら許さないからね!」

 ありきたりの言葉で皆を戦場に送った。

 さあ、平和とは?

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