地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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 殺たちは時空の歪みを利用して台風の中心に行く。
 時空の歪みを潜り抜けた先は、立つのもやっとなほどに風が荒れ狂う海辺の崖だった。
 五人はあまりの強風に、目も開けられずに、その場で立ち尽くす。

「はぁー、ゴーグルを持ってきた方が良かったですわね」

 風の中だから声はあまり聞こえない。
 ただ風の音がビュービューと響くのみ。
 海の荒波の音すら聞こえない。
 だが、御影は耳が良かったのか、Mの声がそれなりに聞こえた。

「ゴーグルなんて持ってきても意味ないと思うぞ。この風じゃとレンズが割れて悲惨なことになるじゃろう」

 御影にしてはまともな答え。
 殺も二人の会話が少し聞こえていて、御影もごもっともなことを言うのだなと呑気に考えた。
 だが一言で片付けると、どうでもいい。

 殺は無駄口を叩かずに敵を倒せと言いたくなった。
 実際に御影の答えはMには聞こえていない。
 ならば無視で良いだろうが。

 そう思っていた時だった。

 世界が無音になる。
 先ほどまでは風が荒れ狂う音が聞こえていたのに、今では無音だ。
 風は止んでもいないのに静かだ。
 いや、不自然なのは波の音も聞こえないことだ。

 仮に、今の状況を風が止んだことにしよう。
 元々は荒い海、風が止んでも大きな波打ちの音が聞こえるだろう。
 だが、それも聞こえないのだ。
 これはおかしい。
 そう考えていると声がした。

 視覚も嗅覚も閉ざされ、聴覚に集中がいく。

「暫くぶりだな、五人の英雄。俺の名は罪、お前たちが来る前に街を壊すつもりだったんだがな」

 低い声は五人を蔑む。
 全てを憎んでいるかの様な圧に押し潰されそうになる。
 皆はこの声の主を姿だけ見たことがあった。
 前回の祭り、邪を引き摺って帰っていった者。

 それを確信したら、やはりこの事件は翠の仲間の仕業とわかった。

 声は嘲笑う。
 姿は風で見えない、だが声を聞く限りは奇妙に嗤っていることは確信出来た。

「どうだ?この風。俺は風の神だったんだ。神々しい神気に満たされているだろう?気分は爽やかといったところか?」

 声は自信満々といったところだろう。
 だが殺には言いたいことがあった。
 言わずにはいられないこと。
 我慢が出来ない、言いたい。
 そうしてそれを声に出してしまった。

「爽やかどころか、じめっとしました。不愉快です」

「なっ!?」

 声は、罪は動揺する。
 自分は風を司る神聖な神。
 それがじめっとするだなんて……。
 信じられないでいた。
 するとサトリが追い打ちをかける。

「その風、悪意に満たされてるからじゃねーの?」

「馬鹿な!?……いや、殺したいという思いもあったし、憎しみとか?……いやいや、嘘だ!」

 皆は声だけで罪が百面相をしていることを察する。
 罪はぶつぶつと独り言を延々と喋る。
 それは最近のストレスの内容。
 しかもかなりえげつない。
 思わず殺も同情する。

「……心のかかりつけ医を紹介しましょうか?」

「よけいなお世話だ!」

 同情して思わずよけいなことを言う。
 そして、またサトリが追い打ちをかける。

「だから風が濁るんじゃねーの?」

「ぐっ!」

 罪は言葉に詰まる。
 そうして思った。
 やはり此奴らは嫌いだ、早く殺したいと。
 殺とサトリの歯に衣着せぬ言葉に罪は苛立ちを隠せないでいた。

「もういい!お前ら殺す!ゴフッ!?」

「どうしました?噛みましたか?」

「血を吐いたんだよ!」

 殺たちには見えないが、罪は布巾で口元の血を拭っている。
 そして薬を飲んで、五人に立ち向かうつもりだった。
 だが……。

「病気キャラは流行りですよね」

「安易に流行りに乗るのもどうかと思うぜ」

 罪はこの二人の口撃(こうげき)に、また胃に穴が空けられる気がしてならなかった。
 だから、早々に話を終わらせた。

 ヒュン、ヒュン

 風の音が大きく聞こえた。
 殺と御影と陽とMは目が効かないから何が起こっているかわからなかった。
 だが、また風の音がした。
 殺たちに微かな風がいく。

「……目が見えないのにちびっ子が俺の攻撃を防げるとはな」

「言っただろう、お前の風には悪意があるって。その悪意がある限り、お前の攻撃は防げるし、お前の場所も特定出来る。お前は悪意という名の殺意が動力源だから俺からは逃げられねーよ」

 どうやら殺たちは先ほど、罪に攻撃をされていた様だが、それをサトリが防いだというところだった。

「不意打ちはゲームだけで充分だぜ」

 サトリはやれやれという風な態度で罪の方を向く。
 罪の方を向いたサトリは子供の姿ではなく、全身に程よく均等に筋肉がついた大人になっていた。
 唯一、風の中でも目が開けられる罪は、その変身っぷりに少し警戒した。

 だがすぐさま堂々とした態度をとる。

「お前、よっぽどのゲーム好きと見た。ならばゲームしようぜ、命を賭けたゲームを。リスキーなものは楽しいだろ?」

「生憎、俺はリスクを現実で負うのは嫌なんでね。楽にのんびりと生きたいのさ」

 サトリは口元を引き締めずに緩めさせ、ちゃらんぽらんなことを言う。
 そして、それを見た罪は自分が馬鹿にされていると思い、憎しみに身を焦がす。

「俺は、殺意が強いからな。お前にはすぐに見つかるだろう。さあ、ゲームは強制だ。油断せず」

 油断せずとはサトリに言ったのか、はたまた自分自身に言ったのか。
 そんなことはどうでもいい。
 さあ、とうとう始まったのだ。
 お互いの命、世界を賭けたゲームが。

 二人は争いの準備を始める。
 勝者には栄華、敗者にはゴミ屑。

 戦いは狂気を孕む。
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