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少年との戦い

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第一章 九話

「さぁ、何方でしょうね?」

殺と少年の戦いの火蓋がきって落とされる。
少年が刀を投げてくる。
どうやら元からの能力は刀を無限に出すという能力の様だ。
殺は慣れた手つきで刀を薙ぎはらう。

カキィン、キィン

擦れ合う金属音が鳴り響く。
剣戟を用いて相手を斬り刻もうとする。
気づけば周りが刀だらけだ。動く場所も限られてくる。
無限に刀を出されるのはまずい、殺は一気に本気を出した。

少年のもとまで走り、飛んで攻撃を入れる。
それまで空中にいた少年は攻撃は防げたものの地面に足をつけることになった。

「やるな!ならこれは?」

ボウッと何かが光る。
殺の周りを囲んだのは黄色の炎だった。

「!?」

炎が迫ってくる。
殺は少し息を吐いてから炎を斬ってみせた、炎を斬ることができるのは精神力が強い証拠だ。

炎の攻撃は続く。
空中から火の玉が降り注ぎそれを避けながら少年に斬撃を入れる。だが、あっという間に防がれてしまう。炎を避けながらの一方攻撃は通用しない。まるで弄ばれてるかの様だ。

「もうワンステップ上がろうか!」

炎が走っている殺を追ってくる。
追跡機能ってアリなのか……と呑気な考え事は本気で置いてかねばならない。
だが好都合だ、炎が追ってくるならばと殺は笑う。

「サトリ兄さん!避けてください!」
「えっ!?うん!」

サトリが戦っている混合者の元へ向かう。
炎は殺が混合者の前で直前に避け混合者にあたる。
それを見て少年は舌打ちをした。

「チッ、追跡は要らないな……。なら……」

ガキィ!!

少年は自ら殺に突っ込む、少年の激しい一方攻撃が続く。
至近距離から無限刀を投げる少年に殺は困り果てる。
避けきれない、そう思っていたら少年は消えた。
厳密に言うと殺の視界から消えただけである。
そう、少年は下に居たのだ。

少年は殺の足を掴むと針山まで投げてしまった。
殺は針山に貫通してしまい、無残な光景が広がる。血が滴り、肉が突き破られて穴が開く。通常なら殺は動けないだろう。だが今は通常の事態ではない。
執念が殺を突き動かす。
その執念という名の力で体の再生を早めた。

「うぉぉぉぉぉお!!」

針山に貫通した体を起き上がらせる、その光景は見ただけで気絶しそうだ。

「やっぱり起きたか……面倒くせぇ!」

少年は殺の腹に炎を直接に食らわせようとする。
だが、その手は殺によって掴まれた。

「お仕置きだって言いましたよね?」
「は?」

殺は少年の右手首を掴みくるくると高速で振り回す。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
「ほーらほら、謝りなさい!」
「誰が謝るか!!」

「謝ったら許そうと思ってたのに……」

ドガッ!

少年は遠くまで殺に飛ばされた。だが少年はそれでも諦めない。

「平等王様の為に……!」
「……哀れな。ですが貴方の気持ちはわかります」
「何がわかるって言うんだ!?」
「……一つ昔話をしましょう」
「昔話?」

昔話という言葉に少年は若干だが反応を示した。
それを見て殺はあることを語る。

「昔々あるところに特別な木から産まれた童が居ました。ところがその童は誰も見たことない禍々しい目をしていて仲間からも恐れられ、除け者にされてきました」

「……それがなんだ?」

少年は反応は示したが、それ以上のことはなかった。
寧ろ少年は何故、殺がこの話をしたかが気になった。

「禍々しい目の童は激しい憎悪を持ち、それを隠して生きてきました。憎悪が酷すぎて死ぬ寸前までいった程です。ですが、ある馬鹿がその童に向かってこう言ったんですよ」

『君の目は美しいね!君は何も悪いことしてないんだから自由に生きなよ!』

「……」

少年にはこれが誰の話かわかった。
だからこそ、目の前の人物は自分と同じなんだと理解する。

「貴方の平等王を敬う気持ちはよくわかります。ですが貴方は今悪いことをしている、私の敬う方の愛する地獄で!ですから私は貴方を裁かなければなりません。私の信じる者の為に!さぁ、ごめんなさいと言いなさい!」

「絶対に嫌だ!」

少年は殺の話を聞いてもなお、頑なだった。
それは己と同じ立場なら信じる者の為に止めてみよ、とのことか。
殺が少年のもとへ近づく。
刹那に攻撃を入れるが防がれる。
ここからはお互いの意地のぶつかり合いだ。
攻撃が防ぎ防がれる、一向に進展がない。

無限刀を撃つ度に少年は体力が消耗される。
少年の無限刀も決して無限というわけではなかった。
殺も針山の所為で力を消耗している。更に紅い刀も己の妖力を吸い込んで力に変える物だったのだろう。
体力の消耗が激しい。

「はぁ……はぁ、平等王様ぁ……」
「くっ……閻魔大王……」

二人の目は真剣だ。
己が救世主を助ける為に信じる為に戦っているのだから。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」

先に攻撃したのは殺の方だった。
瞬間に刀の力で少年と妖は切り離されていく。

「うぐぁ!……まだだ。負けたらいけないんだよ!」

妖と切り離されてでも少年は斬りかかってくる。
生前武術を嗜んでいたのか、攻撃には芯がしっかり通っている。

「平等王様!俺に力を!」
「いい加減にしなさい!」

バキャ

折れてしまった。

折れてしまったのは、殺の紅い刀だった。

「嘘……でしょ?」

「あ……は……ははは、ははは!」

少年は笑う。
己の勝利を確信して笑っていた。

(勝った!勝ったんだ!俺は勝ったんだ!これで世界は俺が!平等王様も救える!……!?

体が……動かない!?)

少年は体が動かなくなったことに焦る。
焦ったままでは暫くは正常な判断はとれないものだ。
少年は意地でも体を動かそうとしているだけであった。
そんな少年を見て殺はにやりと笑う。

「その油断を待ってました。この刀は貴方の油断を誘う為の物と影に教えられましたからね」
「お前……何をした!?」

少年は声をあげる。
そうしたら殺は背後を指差した。

「背後を見たらわかりますよ。」
「後ろだと……!?呪符!?」

少年の背中には呪符の欠片が四つ貼られていた。
貼ったのは勿論だが……。

「儂等じゃ!」

御影たちが胸を張りながら答える。
少年は慌てて周りの混合者を見渡す。

「混合者は……!?縛られて……」
「私が縛りましたわ!何度も再生されるならばらばらの内に皆で協力して縛っちゃおうとなりまして!」

「……くそっくそっくそぉぉぉぉぉぉぉ!」

少年は動けない体に縛られた混合者を見てもう勝てないことがわかって悔しさに身を歪ませる。
そんな中で殺は最後の呪符を手に取り少年に近づけた。
真紅の刀とは少年の油断を誘い、呪符を安全に貼る為のものだったのだ。

「最後は私の手で……安らかに浄化されて罪を償ってください」
「償う?」

ペタ
呪符が少年に貼られる。
その際に白い光と飛び巡る烈火が少年を包んだ。
訳のわかっていない少年は叫び、苦しんだ。

「ぁぁぁぁぁぁあ!?」
「安心してください。ただ浄化されるだけですから」
「聞こえてないのではないか?」

陽がそう言ったのをきっかけに殺は何かを喋ることを決意した。
それは少年の為の言葉である。
更に強いて言うなら救済の言葉だ。

「……聞こえてないのなら独り言いっても大丈夫ですね!いいですか!?人の命は平等ではない。平等とは偽善だ!まぁ、そんな偽善も悪くないですが、命は不平等なのです!虫に生まれれば、動物にも生まれる!そんなものなのです!人間に生まれたのがどれだけ幸福か!……出来れば貴方にはもっと人間として生きてほしかった」

人間として生きてほしかった……。
その言葉を生きているときに聞いていれば何か変わったのかと少年は考える。

変わらなくても少しはマシだったのか?
こんな俺が浄化されるだけでいいのか?

(罪は償わないとね)

ふと少年の頭の中に平等王の声が聞こえた。
その声は償わないとと促す。
これは平等王が少年を後戻りさせる為の声なのだろうか。
平等王の声に少年は申し訳がつかなくなる。

「その声は平等王様?ごめんなさい。こんな結末を迎えてしまって……」

(結末はわかってたよ……。はぁー悪役って疲れるね!)

平等王は己の役目を果たしたのか、先ほどまでとは違う優しい喋り方をしていた。

「疲れさせて申し訳ありません」

少年は平等王に対して真剣に謝る。
それほど真摯な対応をとることは少年にとって平等王は尊敬に値する存在ということだ。

(あわわわ!謝らないで!それに謝る相手は私じゃないし!)

「……ははは、そうですね」

少年はこの後に自分がすべきことがわかっているかの様に答えた。

(一足先に牢獄で待ってるよ!)

「貴方と一緒の牢獄ですか。楽しみです」

少年は全てを受け入れた。

(一緒にごめんなさいしよう!)

「……はい!」



「……ごめん……なさい……」
「ようやく聞けました。ちゃんと平等王と一緒に償ってくださいよ!」
「ありがとうご……ざいます」

~~~~

その後からはトントン拍子だった。
獄卒たちが後から集まってきて少年は地獄の牢獄へと連行された。
その際に殺は、また少年にありがとうと礼をされていた。

「やっと終わったのですね……」
「ああ、終わった」
「疲れましたわー」
「腰がぁ!」
「流石年寄り」
「主も同い年じゃろう」

「……はっ!?同い年!?」

御影とサトリが同い年と知って驚いた陽が声を上げたと同時にカオスな状況がまた起こる。
九尾の狐とは長い年月をかけて成り得る存在。
そんな年寄りと見た目が小学生のサトリが同い年ということに陽は驚きを隠せないでいた。

陽が驚くとMが揶揄いにいって五月蝿くなる。
だが、こんなのも偶には良いか。
そう殺は物思いに耽っていた。



~~~~


後日の話。
五人の勇敢な者が事件を解決に導いたと新聞で世に出始めた頃の閻魔殿の話だ。
何故かあの日の五人がまた閻魔の命令で集められ、閻魔の自室へ向かっていたのだ。
閻魔の自室の扉を開ける。
すると閻魔は五人に気づいたのか勢いよく皆に駆け寄った。

「皆ー!私の容疑が晴れたよー!」
「わー、残念」
「殺ちゃん酷い!お父さん泣いちゃう!」
「仕事さえしてくれればいいです」

殺の毒舌っぷりにMが罵ってくれと集るが踏まれて死す。だが顔は恍惚としていた。

「それと重大発表!」
「なんですか?便秘でも治ったんですか?」

殺は如何でも良さげに話を振る。

「そうなんだよー!って違う!てか何で知ってるの!?」
「さぁ?」
「我が子が怖い!……は置いといて、新しい課が出来るんだけど……それにみんなを指名します!代表は殺ちゃんで!」
「嘘でしょう!?」
「嘘じゃないよー!五人だけだけど頑張って!」

「嘘だぁぁぁぁぁぁ!」

カオスなのが日常だなんて絶対嫌だ!



~~~~


「この世界の者は一部が不死身だからってこんな異変を起こし、亡者に情けをかけるとは……地に堕ちたものですね、平等王?」
「地に堕ちたのは君もじゃないかな?秦広王……」
「ふふっ……なんのことですか?まさか私に妨害されたのを根に持ってるとか?」

二人の王は奇妙に互いを見つめ合う。
平等王の目には嫌悪、秦広王の目には嘲笑が。
その目は互いを見つめていても、互いを映していない。

「……」

「まぁ、君もいずれ私と同じ様になる。それまで精々頑張りたまえ」

「私は貴方と同じようにはなりませんよ。邪魔者は徹底的に潰す主義なので。……あの子を使いましょう。役に立つかはわからないですが、使わないよりはマシでしょう?」

「君は本当に末恐ろしいな」


~~~~

秦広王は恍惚とした表情をする。
恍惚としながら誰かに連絡を入れる。
その際に通話相手に聞こえないように、通話口から口を話して悦に浸った声で言った。



「五人の英雄……。そんなことはどうでもいいです。嗚呼、殺殿!いつか貴方を我が手に……!」
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