地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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幸せな休日

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 殺は疲れていた。
 それはもう誰もが見ただけでわかるくらいに。
 足下はふらつくどころか最早震えている。
 それでも仕事の為に歩くのは流石と言ったものだろう。

「殺ちゃん!疲れたでしょう?偶には休んだらどう?」

 閻魔が殺に話しかける。
 その様子はどこか心配そうだ。
 それもそうだ、閻魔にとって殺は大事な子供同然なのだから。
 心配するのも無理はない。

「そうですね……では仮眠室へ……」

 よろよろと歩いて仮眠室に向かおうとする殺に閻魔は急いで違うと叫ぶ。
 その叫び声は閻魔殿中に響く程の大きな声で、近くに居た殺の鼓膜は破れそうになった程だ。

「……違うとは一体?」

 殺は閻魔の大声にトドメを刺されたのか膝から崩れ落ちている。
 手足も痙攣していて今までどれほど大変だったかが考えさせられるくらいだ。
 それを見て閻魔は溜め息を吐きながら答えた。

「そんなに疲れているのに仮眠だけで済まさせる訳ないでしょう。休みを与えるってことだったんだよ」

 休み……。
 その言葉を数秒後に理解した殺はぱぁっと顔つきが明るくなる。
 普段おとなしくて感情をあまり出さない殺にしては珍しいことだ。

「おや?珍しいね。殺ちゃんが笑うなんて」

 殺は立ち上がり閻魔に一礼してから残りの仕事を片付けるために開かずの間に行く。
 その足取りは最初とは打って変わりしっかりとリズムを刻んでいた。




 開かずの間の前に立つと大きな声が聞こえてくる。
 その声はどこか楽しそうだ。
 何か良いことでもあったのだろうかと殺は思いながら戸を開ける。

「皆さん、何かあったのですか?」

 殺は機嫌が良いのでいつもの仏頂面ではなく笑顔で訊ねる。
 御影は一瞬そんな表情を浮かべる殺にギョッとしたように身を竦めた。口には出さないものの怯えている様だ。だが、すぐさまサトリが嬉しそうな顔で答える。

「俺たちに休みが貰えるらしいんだぜ!」

「ほう……」

 どうやら休みは人殺し課の全員に与えられたものだった。
 暫くの間ずっと仕事漬けであったものだから、それを閻魔が見るに耐えられなくて休みを与えたのだろう。

「休日なんて久しぶりですわぁ」

「休日は有意義に使わねばなぁ」

「家で紅茶でも飲むとしよう」

「俺はゲーム!」

 各々が休日について楽しみに話しているなか殺は自分は如何しようかと考える。
 その結果は自宅の縁側で庭の花を見ながら茶を飲むことに決めた。
 皆それぞれ休日の過ごし方を計画している中、楽しそうに殺は呟く。

「休日が楽しみで仕方がないですね……」




 待ちに待った休日が訪れた。
 殺は縁側にゆったりと座り茶を飲んでいる。
 太陽が暖かく光を放っている。
 地獄から離れた場所にある殺の家では朝と昼と夜があるのだ。
 太陽のその暖かな光に包まれて、気持ち良くて眠ってしまいそうになる。
 庭の花も美しく咲き誇りまるで輝いているかの如く錯覚してしまう。

 殺は茶菓子を口に含んだ後、茶を口に含む。
 すると茶の苦味が少しはっきりとするのだ。
 甘党の殺には駄目なのではと疑問に思うだろう。
 だがしかし、寧ろ茶の味が際立って良いとのことだ。

 このまま平和な時間が続けば良いなと思っていた時だった。

「相変わらずの大豪邸じゃのう!」

 殺にとって厄介な声がする。
 嘘だと言ってほしいと思いながら殺は声の方向を向いた。
 案の定だが御影が居た。
 御影だけなら良かったと殺は頭を悩ます。
 何せ人殺し課の全員が集結してたのだから。

「茶菓子を俺にも寄越せー!」

「はいはい、客人はもてなさないといけませんからね……」

 殺は面倒臭いと思いながらも茶菓子を皆に用意する。
 それは皆が殺のテリトリーに入って良いことを示していた。

「殺様の家は初めてですわ!私は寮暮らしなので新鮮な光景ですわ!あっ!お菓子を持ってきましたの。手作りの上生菓子ですわ」

「クオリティが高いですね……ありがとうございます」

 Mの高い女子力を見て、殺はMが意外と大雑把ではないことを知る。
 殺はMがいつも仕事をサボろうとしていたところを見ていた為に性格が大雑把で、無責任に思えていたのだ。
 すると今度は陽が殺に話しかけて来た。

「……僕もお菓子を持ってきた。あと紅茶も……
 マドレーヌ美味しいぞ」

「明らかに手作りですね。美味しそうです。ありがとうございます」

「本当か!?」

「ええ、本当です」

 殺と陽は楽しそうに笑っている。
 殺は陽の前だと最近よく笑顔なのだ。
 Mが私も手作りですわとプンプンと擬音がつきそうな勢いで拗ねていた。

「結局こうなるのですね……」

 皆、縁側に座って茶を飲んでいたり茶菓子を嬉しそうに食べていたり自由に寛ぎ楽しんでいた。
 それでも、まあ良いかと思う辺り殺も結構皆に毒されているものだ。
 殺は陽が作ったマドレーヌを食す。
 甘くてふんわりしっとりとしている。
 優しい甘さが口の中に広がって幸せとはこういうものだろうなと考えさせられてしまった。

「美味しい……」

「良かった」

 陽の穏やかで優しい表情にやはり陽は良い嫁ではないかと殺は考えてしまう。
 殺は陽が嫁に来ればどうなるか妄想に耽っていた。
 でも結婚はお互いの合意の上に愛し合う関係にならなければいけない……。
 殺は妄想だけで終わらすことにした。

 ふと隣を見るとMがうとうとしながら茶を飲み、御影は横になって日向ぼっこをしている。
 その様子はとても気持ち良さそうで見てる側が癒されるものだ。
 御影は気持ち良さそうに尻尾を揺らしている。
 その尻尾に触れてみたいと思い、殺は手を伸ばす。
 だが先客がいた様だ。

「驚いた……まさかサトリ兄さんがいるなんて……」

 サトリが御影の尻尾の中で眠っている。
 確かに触れてみたいのはわかるが中にまでは入らないだろう……。
 サトリは寝息を立ててしっかり寝ていた。
 勿論のことだが茶菓子は食べきっている。
 微笑ましい光景に心癒されながら茶を口に含む。
 今の殺の姿はとても穏やかにみえる。

「殺様の家にいつかみんなで泊まりにいきたいですわ……」

 うとうとしながらMが呟く。

「お泊まりも悪くないですね」

 そうやって殺は答えた。
 実際に今みたいに平和的ならお泊まりはやってみたいと考えてたところだ。
 いつもの悪ふざけが過ぎる様なら泊まらせはしないが、今日みたいに穏やかだと考えてしまう。

 陽の持ってきた紅茶を口に含んで幸せな夢を殺は見る。
 平和を願う夢だ。
 人殺し課がいつか別の名前になる夢。
 その時はどんな名前をつけるのだろうか?
 そんなことを考えて殺は胸を躍らす。
 幸せな考えごと…いつか叶いますようにと。





 時計は五時を刻むところだ。

 殺以外みんな寝入ってしまっている様だ。
 しかも起きそうにもない。
 殺は少し微笑んで呟く。

「今日はお泊まりですかね……」

 とても幸せそうに笑う。
 どうか彼らの幸せが続きますようにと……。



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