地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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仕事

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 殺は仕事を淡々とこなす。
 その姿は周りの人が魅入ってしまう程だ。
 殺は仕事が好きなのでどんなに疲れてても進んでやっていく。
 人々は彼を心配するが、それは彼にとっては無用な心配だ。
 そんな心配をするくらいなら仕事を片付けてくださいと彼は言うだろう。
 さて、今日も仕事が始まる。
 彼は仕事を嬉しそうに片付けようとする。
 面倒な仕事が訪れることを知らずに……。



「頼もーー!」

 開かずの間の戸がバンッと開く。
 勢いの良過ぎる音で御影にいたっては驚き過ぎて茶を天井まで放り投げてしまっていた。
 因みに被害は殺以外の全員である。
 皆びしょ濡れでM以外は激怒の域に達している。
 何せ書類が駄目になり最初からやり直しになってしまったのだから。
 怒るのも無理はない。

 御影をサトリと陽が殴りMは「私もお願いしますわー!」と叫んでいるがサトリに五月蝿いと言われてビンタまでされている。
 部屋中に喘ぎ声が響いたのは言うまでもない。
 正直言って五月蝿いとは此方の台詞だと殺は考える。

 だがそんなことはどうでもいい。
 今、目の前には殺が敬愛する閻魔大王がいらっしゃるのだ。
 其方の方に意識を集中してしまう。
 もしかして自分に用があるのでは?
 自分にしか頼めない用があるのでは?
 殺の妄想は増大していく。
 其の妄想をひた隠し殺は閻魔に訊ねた。

「どうしたのですか?閻魔大王」

 最大限の理性をフル活用して振り絞った言葉だった。
 そんな殺の内情を少しも知らない閻魔は申し訳なさそうに言葉を発する。

「実は君たちに特別な仕事が入って……
 夏祭りの警備なんだけどね。やってくれる?」
「勿論」
「即答だね!ありがとう!じゃあ君たちに任せるよー。じゃーね!」

 そう言って閻魔は殺以外のブーイングを受ける前に走り去っていた。
 その速さは誰も追いつけないのでは?と思う程の速度だったと後にMは語る。

 殺は自分だけが頼られた訳ではないと理解して少しがっかりするが、仲間と連携をとることに決めようと考えた。
 連携がうまく取れなければ仕事どころではない。
 この馬鹿共をどうまとめるかが注目される。

「殺ー!勝手に仕事増やしやがって!」

 サトリが叫ぶのと同時に皆から集中砲火をくらう。
 だがそんなことは想定内な殺は臆することなくある言葉を言い放つ。
 馬鹿共をまとめる魔法の言葉。

「この仕事をしてくれれば私は一日、皆様の言うことを聞きます」

 するとニヤッと口角を上げた御影が「本当じゃな?」と訊ねてくる。
 それに首を縦にふるとそれぞれ何を想像したかはわからないが、皆ニヤついている。
 閻魔の期待に応える為だ。致し方あるまいと自分に言い聞かせて殺は耐える。

「決定ですわ!それでは、その仕事を引き受けましょう!」

 決定という言葉に安堵する。
 第一難関を突破したというところか……。

「……何を命令するかのぅ……」
「そうだなぁ……」

 ニヤニヤと不穏なことを呟く御影とサトリに殺は気づく余地もなかった。




 祭り当日……。

「サトリ兄さん……」
「何?」

 殺は苛つきながら思ったことを率直に言う。

「早速サボらないでください!お願いします!兄さん!」
「えー!」

 サトリは金魚掬いを本気でしていた。
 その姿はまるで本当の子供の様だ。
 ゆらゆらと揺れて泳ぐ金魚とうねうね動いて金魚の様子を探るサトリ……。
 どう考えても仕事をしている姿ではない。

「はぁーー!大量だぜ!」
「はぁ……」

 今現在の状況を言うとすると、サトリの右手には金魚とチョコバナナとリンゴ飴。
 左手にはヨーヨーとフランクフルトとクレープが……頭には狐の面……。

 明らかに祭りを楽しんでいる。
 その間もずっと警備している此方の身にもなれと言いたくなる程だ……。
 まぁ、元から期待などあまりなかったのだが……。

 すると逆方向から陽と御影が歩いてきた。
 御影のことだからサボると思っていたが、どうやら陽がサボらない様に見張っていたらしい。

 やつれた顔の御影はサトリを見た瞬間にニヤついていた。何か悪巧みをしたところだろう。
 勿論のことだが殺の予感は的中した。

「おー!サトリは良えのぅ!そうだ儂とも一緒に警備に回らんか?」

 サトリは御影の考えがわかっているのか気味の悪い笑みで答える。

「いいぜー!じゃあ、殺は陽と見回りしなよ!じゃあな!」

 そう言って一目散に走り去ってしまった。
 陽は何が起こったかわからない顔で「どうすればいい?」と訊いてくる。
 いや、私もわからないのですがという状態に陥った殺は取り敢えず見回りに行きましょうかと提案した。
 陽も頷いて殺の一歩後ろを付いていく。

「夫婦かぁぁぁぁぁぁ!?」
「M!落ち着け!」
「そうじゃぞ!今はまだ荒ぶるときではない!」

 さぁ、真実を言おう。
 全てはMの計算通りだったのだ。
 くじ引きで誰と一緒に見回るかで絶望的だった結果、警備中に出会った時にさっきの様に取り替えるということになったのだ。
 名付けて《早く付き合え作戦》

 だがしかし……。

「何も起きないですわ……」
「まさかの真剣な警備」
「何か起これば良えのに」

 何も起きないのだ。
 これでは警備をサボった意味がないとそう三人は頭を悩ます。
 その時だった。

「何ぶつかってきとんじゃぁぁぁ!?兄ちゃんよぉ?!」
「すまない……人が多くて避けられなかった。許せ」

 陽が柄の悪い男にぶつかってしまったのである。
 男は酒に酔っているのか中々たちが悪い。
 目つきは虚ろでフラフラしている。

「さっきから機嫌が悪くてなぁ~……一発殴らせろやーー!!」

 男が拳を振り上げ、陽が困り果てた瞬間だった。
 男が吹っ飛んだのだ。
 陽も男も何が起こったかわかってない様子だ。
 男がドサッと派手な音を響かせ地面に落ちてから誰がやったかがわかった。

 殺であった。
 その目は怒りに満ちていて、今にも人一人を殺しそうな勢いだ。

「仲間が傷付けられるのは嫌なので……すいませんね。私たちに対する公務執行妨害で警察に引き取られてもらいましょうか」

 そうやって男は警察に引き取られていった。
 殺は全てが終わった後、陽に「大丈夫ですか?」と訊ねる。
 陽は少し呆然としながら「大丈夫だ……」と答えた。

 その顔はどこか嬉しそうで浮かれている。
 そんな陽を殺は不思議そうに見つめた。
 見つめられていることに気づいたのか陽は思わず殺から顔を背けてしまう。
 Mたちから見えた陽の顔は真っ赤だった。

「ああああ!もう!煮え切りませんわ!」

 Mが思わず殺たちの前に出る。
 殺は「如何しました?」と訊ねた。
 するとMは怒鳴りをあげる。

「何でそんなに初心なんですか!?これじゃあ私の作戦が台無しですわ!!サトリ様や御影様にも協力して頂いたのに!!」
「……その話を詳しく」
「だから、二人の為に祭りをサボっ……あ……」

 そこでMは気づいた。
 自分が作戦を口走ったこと、祭りの警備をサボったことを宣言したことを。

「これは違うのですわ!ねぇ!御影様!サトリ様!」
「こっちに話をふるな!!」
「全員……歯を食いしばれ!!」
「「「え?」」」






 空に大輪の花が咲き誇る。
 その花はどれも色とりどりで自分というものを表現していて美しい。

「綺麗だな……」
「えぇ。綺麗です」

 それは花火に向けた言葉なのかは殺にはわからない。だが美しいものを愛でるのは良きことだ。
 殺は少し屈んで導火線に火をつけようとする。

「待って!?殺!これはヤバイ!!」
「そうじゃぞ!本気で死ぬ!」
「早くしてくださりませ!ハァハァ」

 状況はサトリ、御影、Mが大砲の中に入れられているところだ。

「待て!話せばわかる!」
「さぁ、火をつけましょうか……」
「「「あ……」」」




 その日は大輪の美しい花火と共に人の影が浮かび上がったと密かに話題になったそうな……。
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