地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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仕事の後日談

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 殺は今日という日が来るのを忌々しく思っていた。
 その理由は簡単である。
 何故なら、前回の祭りの警備の仕事を受け入れてもらう為に一日命令を絶えずにこなすということになったのだから……。
 きっと奴等のことだ、堂々と仕事を押し付けてくるであろう。
 そう思っていたが実際は違った。

「殺!書類を持ってきて!」
「どうぞ」

「殺ー!茶が欲しいのじゃが」
「はい」

「罵ってくださりませ‼︎」
「黙れ、雌豚」

「殺、命令だ少し休め」
「え?」

 以外と普通に仕事もしてくれるうえに、陽に至っては休めと命令をしてきた。
 さりげなく命令にする心遣いに感謝しきれないほど感謝し仕事を少し片付けてから休む。
 かなり疲れていたのか今にも眠ってしまいそうだ。
 暫くは眠気と戦う殺だったが結局は負けてしまい心地良く浅い眠りについた。



「陽!」
「何だ?騒々しい」
「……腹立つ……。まぁいいや、ちょっと閻魔に用事があるんだけど代わりに行ってくれない?」

 サトリが苛つきながらも必死に堪えて話す。
 だがその顔はどう見ても鬼の形相だ。

「自分で行けばいいではないか」
「あっそー。なら殺に行かせようかなー?気持ち良さそうに寝てるけど」
「なっ!?」

 陽の表情が焦りに変わる。
 我ながら酷いことを言ってしまったとサトリは考えてしまうが、数秒後には別にいっか!となる。
 陽は憎そうにサトリを眺めている。
 何せ閻魔に会ったら最期……、長話に付き合わされるのだ。
 閻魔は仕事をサボって長い時間、人をお喋りに巻き込むのだ。
 これは絶対に行きたくないパターンである。
 だが行かねば殺が起こされてしまう。
 陽は仕方なく閻魔の下に赴くのであった。

「覚えてろよ!!」
「はいはーい!いってらっしゃい!」




「これで邪魔者は消えましたわね……」
「ああ、始めるぞ」
「「「第一回!早く殺と陽をくっつける会議!」」」

 説明しましょう。
 この無駄な会議はその名の通り殺と陽をカップルにしようと目論む会議です。
 主に馬鹿共が集まってお菓子を貪り食べながら雑談してる光景をご想像いただきたい。

「それで如何するのじゃ?」
「くっつけるにはねー……とっとと命令を使うとか?」
「それはいけませんわ!!」

 サトリの発言にMが食ってかかる。
 Mの怒りの顔つきにサトリは何事といった表情で御影に助けを求めている。
 だが御影は机に顔をつけて黙っていた。
 要するに見捨てたということだ。
 その間にMの一人語りが始まる。

「いいですか!?幸せ溢れるカップルに仕立てるには無理矢理は言語道断ですわ!!自然と好き合って付き合うに至る……この普通が重要ですわ!!」
「はぃ……」

 サトリは小さい消え入りそうな声で答える。
 御影は相変わらず机に突っ伏したままだ。
 サトリはそれを恨めしそうに睨んでいる。

「くっつける為に私たちはサポートをしなければなりません!例えば二人きりの時間を作るとか自然と好印象を持たせるとか!そのくらいでいいのですわ!」
「じゃあ、この会議は何の為に……」

 サトリは疲れたかの様な態度でMに問いかける。
 それに対しMは豊満な胸を張って答えた。

「結束して行動する為ですわ!」
「はあ……「ほう……」
「「「!?」」」

 思わず皆が背後に振り向く。
 皆が振り向いたその先にはなんということか、殺が立っていたのだ。
 殺のその表情は笑ってはいるが目が笑っていない。
 皆の様子はそれぞれだ。
 固まったままの御影、世紀末を迎えたかの様なサトリ、恍惚の表情を浮かべているM……。
 そんなことは如何でもいいと言わんばかりに殺は口を開ける。

「仕事しなさーーーーい!!」
「ひぃ!!」

 予想は大体はついていたが、その後に予想外な言葉が殺の口から発される。

「何故です……」
「「「え?」」」
「何故に私を呼ばなかったんですかぁぁぁぁぁぁ!?」
「「「ぇぇぇぇぇえ!?」」」

 皆が驚き、御影にいたっては呆然としている。
 この会議で一番の障壁となるのは殺だと思っていた分の反動が凄く大きかったから仕方がないことだろう。
 それはさて置き呼ばれなかったことに何故か怒っている殺に皆は驚きの白さの表情を浮かべている。

 取り敢えずMが宥めてから、これが何の会議か知ってのことかと訊いた。
 殺は首を縦に振る。
 その瞬間にMがパァっと明るくなるが殺が「陽と仲良くなりたいだけです。他意はありません」と言って「チッ」と舌打ちをしてから会議を始める。

 だが御影は思った。
 M、お前は見逃しているぞ……確かに殺は表情には出さなかったが声が若干焦ってたぞ……と頭の中で考えていた。

「まぁ、始めますわ!もう殺様が知ってしまったので堂々としましょう!」

 Mは生き生きとした表情で始める。
 殺は待ってましたと言わんばかりの表情だ。
 つまり真面目に楽しんでいる。
 目はキラキラと輝いているが、その目は獲物を狙う肉食獣の目であった。

「手っ取り早く陽と仲良くなる方法を教えなさい」

 殺が急かす。
 だがMは普通に一言で返した。

「殺様が自分の感情を認めて素直に優しくなればいいのですわ」
「なっ!?」

 流石の殺も固まる。
 ここまで直球でくるとは思わなかったのだろう。
 未だに混乱している殺に少し同情しそうになるが、別に如何でもいいやとサトリは斬り捨てる。

「……まぁ、認めるのは置いといて、優しくはしてみましょう」

 この日はこれで幕を降ろした。
 次の日に殺は陽を甘やかすつもりだった。

 だがそれは水泡に帰す。





「殺、書類が溜まっているぞ。持って来てやる」
「ありがとうございます」
「殺、そろそろ甘いものが欲しくなっただろう?
 ココアを淹れてきたぞ」
「えっ!……ありがとうございます」
「殺、疲れただろう。肩揉んでやる」
「ありがとうございます!」

 甘やかす前に甘やかされていたのだ。
 殺は嬉しさと悔しさという複雑な思いに陥らさせられて再起不能だ。
 そして、萌えという感情が湧き上がり思わず鼻血を出してしまう。
 再起不能になる前に鼻血で紙にこっそり遺言を書いていた。
『かわいい』
 陽はその遺言に気づかずにいきなり鼻血を出して倒れた殺にオロオロしている。

 御影とサトリとMは、お前ら夫婦かよと突っ込む衝動に駆られている。
 すると陽が遺言に気づいたのか殺の袖を掴んで少し赤い顔で「男に可愛いとか普通は言わないぞ」と言った。

 更には言い終わった後に顔を背けて「お前はかっこいいな」と言う。その言葉で殺がトドメを刺されて本格的に倒れた。
 必殺、夫を駄目にする嫁。

「お主は何をやっとるんじゃぁ!」
「この状態の殺にトドメを刺すなんて……!」
「外道ですわ!ありがとうございました!」
「え?え!?」

 陽は混乱している。
 普段は猫の様な素っ気ない態度なのに今は子犬の様な愛らしい目で如何しようかと困っている。
 罵詈雑言と絶賛の言葉がとめどなく投げかけられる。
 陽は訳がわからなくなり、泣きそうになったその時だった。
 陽が急に誰かの胸に引き寄せられる。
 誰かなんて一目でわかった。

 殺だった。

「皆さん何をしているのですか?」
「いや、お主が死んだと思ってつい……」
「私を勝手に殺すな!!」
「でも……お前の仇打ちの為……」
「そういうの要らないです!」
「罵って!!」
「黙れ雌豚!!」
「あぁん!」

 殺は怒った顔で皆を見事に叱りつけていく。
 一人は「もっと!」と叫んでいたが、殺は敢えてスルーした。

 殺は皆を叱り終わってからすぐに陽に駆け寄る。

「陽、大丈夫でしたか?」
「殺ぁ……」

 訳もわからずに泣きそうになっている陽にまた鼻血を出しそうになるが堪える。
 陽は殺の胸に顔を埋めて泣くのを我慢している。
 時々現れる上目遣いに殺はノックアウト寸前だ。

「怖かったでしょう……。大丈夫ですからね。私が居ますから」
「ああ……」
「ん?……何か言いたいことが?」

 陽は恥ずかしそうに小さな声で呟いた。

「お前が怖いときも僕が居てやるから怖がるな。そして感謝しろ……」

 陽の謎発言に殺は口をポカンと開けるもすぐに笑顔で「ありがとうございます」と言った。
 陽は泣きそうだが嬉しそうに笑っている。
 その姿を見た者は後にこう言った。

 こいつらもう付き合ってるのでは?と……。
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