地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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とうとう始まった不幸

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 我は皆の不幸を望まない。
 そして自分の不幸も望まない。
 幸せとは難しいものだ、望んでいるだけでは手に入らないとは酷いものだ。
 幸せを普通を我は望んでいるのに……。



 ある朝のことだった。
 一般の者にとっては普通の朝だ
 だが地獄と天界は違っていて混乱が巻き起こっていた。

「大変です!!」

「如何言うことだ!」

 朝から所々で焦り声が鳴り響いていく。
 混乱が渦巻く地獄では暫くの間は冷静な判断はとれそうにない。
 殺は朝からの厄介な事態に頭を悩ませる。
 地獄での立場が高い殺には情報がとても集まってくるのだ。
 それを一つ一つ見極めて指示を下さなければならない。
 疲れることだ。

「殺様!これはいったい何ですの?!」

「何だ、いったい……」

 少し遅れて出勤してきたMとサトリは地獄に何が起こっているのかがわからなくて殺に訊ねる。

「天界のお偉い姫が攫われたのですよ」

 頭を抱えて殺は静かに答える。
 それにMとサトリは何となく理解を示す。
 この二人は冷静だ。いや、この事実だけなら皆が冷静になれるのだ。
 何せ地獄に長く勤めている者ならわかる犯人だもの。
 前科付きの時点で疑いにあがってしまう。
 問題は姫をどう連れ戻すかなのだ。
 今回の犯人を倒すには軍隊が必要なくらいのレベルで、姫を連れ戻す為だけに国の軍隊を出すことは悩めることだ。

 国中の軍隊をかき集めて姫の下へ向かわせる。そんなことをして国の警護を怠るとテロが起こった際に対処の仕様がない。
 更には今は同盟関係を結んではいるが、魔界には気まぐれな魔王がいる。
 その魔王の気が変わって戦争が起きた場合、其の際に軍隊が居なければ困るのだ。

 だが名声がある、人気がある姫が攫われたと一般の者に知られると混乱が生じてしまう。
 だから皆が冷静ではないのだ。

「混乱だねー」

「閻魔大王、笑ってないで事態を収束させてください」

 呑気な閻魔に殺は溜め息を吐く。
 すると閻魔は背筋を少し伸ばして発言をする。

「今回の犯人はわかってるよね」

「冥王でしょう?」

「ご名答!」

 大体は察しがつく。
 証拠より先ず疑えが地獄のモットーだ。
 冥王……其は嫁にしたいが為に豊穣の神の娘、ペルセポネを勝手に攫った者。
 天界でも昔、今回攫われた姫を攫ったことのある人攫いのスペシャリストだ。
 だが姫は未遂に終わり「また会いに来る」などと言葉を残している。
 今回は捨て台詞を実行したのだろう。

「冥王は絶対に姫を返さないだろうね、そして彼は強い。だから厄介だ」

「私たちに行けと言うのでしょう?」

「その通り!」

「はぁ、準備をしてきます」

 軍隊が必要なレベルの敵に五人で立ち向かえと言う閻魔に呆れながら殺は残りの者を集めに向かった。




「冥王?!無理だろう!!」

「それでも行きますよ」

 冷静ではなく感情的に叫ぶ陽とは対照的に冷静な殺は今回の事件の資料を読み漁っていた。
 姫の家は外からの気配に気づける特殊な家、だから犯人はすぐにわかる筈だった。
 だが……。

「誰かが入った気配無しですか……」

「何でじゃろうな?」

 証拠が全く無いことに殺は苛つきを見せる。
 証拠が無いのにいきなり攻め入るのは流石に無理だ。
 だが御影は陽気に答える。

「本人に訊けばいいじゃろう?」

「は?」

「事情聴取なら問題ないですわね!」

 Mも呑気に声を上げる。
 殺は心底、二人に呆れるがそれでもどの道行かなければならないことを思い出し二人の意見を取り入れた。
 二人を止められないとわかっているとも言う。

「閻魔に時空の歪みを作ってもらって今日中には行こう!」

 外国にすぐさま行かなければならない状況に殺は疲れを覚えたがそれを隠した。
 さあ、冥王の下へと向かう。





「時空の歪みは作ったよ!あとは皆に任せまーす!」

「「いってきまーす!」」

 サトリとMは朝から元気に戦場へ向かう準備をする。
 真っ赤な炎に包まれた時空の歪みという名の国と国を繋げる入り口を入れば更に真っ赤な世界に包まれる。

「さあ、行きますよ」

「「「「了解!」」」」

 只管長い一本道を歩いていく。
 赤い炎に包まれた道が冥王の世界へと案内する。

「つきましたよ」

 赤い炎を通り過ぎた先の世界は歪みに歪んでいた。
 冥王の住む世界は暗くどんよりとした空気が漂っている。
 何もかもが歪んだ世界で殺は冥王の城を探す。
 あの閻魔のことだ、きっと冥王の家の近くに時空の歪みを繋げてくれている筈だ。
 夜の闇を掻き分けるかの様にゆっくりと進んでいく。
 何が起こるかわからないからこそ慎重にゆっくりになるものだ。

 腰までの高さの黒い花をはらう。
 いろんな奇妙な植物に恐れを抱きながらも進む。
 すると暗い闇の世界……濃い霧から大きな城が姿を現した。
 そこには人影も見える。
 人影に警戒をして剣を構えれば影は手を振った。

「おーい!そんなに身構えなくていいぞ!我が城へようこそ!ゆっくりしていってくれ!」

 明るい男の声が響き渡る。
 瞬間にギギィーっと音を鳴らしながら大きな門が開く。
 殺たちは謎の男に明らかに歓迎されていた。

「さあ、疲れただろう!休め休め!」

 大きな人影が近寄ってくる。
 近づけばわかる。
 優しそうな綺麗な顔、青い澄んだ目、キラキラ光る金髪。
 全てが完璧だった。

「我は冥王!よろしく頼む!」

 冥王、そう男は名乗る。
 殺たちは冥王という男に押されながら城へ入っていった。





「クッキーあるから食べていいぞ!紅茶も今淹れるからな!」

 冥王は嬉しそうに久しぶりの客人に心踊らせる。
 殺は美味しそうなクッキーに手を伸ばしたが、陽に手を叩かれて食べることを断念をする。

「食べていいのだぞ?」

 冥王は光る目で殺を覗きこむ。
 純粋な子供の様な姿に殺は本当にこの方が犯人なのかと疑問になり訊ねる。

「貴方が姫を攫ったのですか?」

「そうだが」

 彼は何も隠さずに答えた。

「小夜子!此方へおいで!」

「はい!」

 美しい女性が扉を開ける。
 歪んだ月の明かりに照らされる青い髪は幻想的だ。

「小夜子だ!我の自慢の娘だ!」

 冥王は姫を自慢の娘などと紹介する。
 姫も満更ではない顔で冥王の側に寄る。
 姫の冥王への従順な態度に殺の頭の中では洗脳の可能性がよぎった。

「姫を返していただけませんか?」

「やだ」

 殺の単刀直入な発言を即座に切り捨てる。
 姫を返せと殺が言った瞬間に冥王の顔が変わった。

「やっぱり我から小夜子を引き裂きに来たのか……」

 冥王はどこか残念そうな顔をして下を向いては手を上へと伸ばし何かを唱える。
 すると殺たちの足元が沼の様になりだんだんと体を闇が包み込んでいった。

「なっ!これは!」

「何だ?!」

「お前たちが悪いんだ……だから」

 冥王の闇に全身が包み込まれる。

『許してくれ』

 すぐさま闇に飲み込まれて殺たちは何処かへ消えていってしまった。
 最後の冥王の言葉は勿論、殺たちに聞こえる筈もなく広い宮殿に木霊していった。







 真っ暗な闇の中で皆は目覚める。
 そこらかしこから轟音が響き渡る。

「ここは何処ですの?」

「暗い……」

 そう皆が口々に呟いていると背後から気配がした。

「起きたのですね」

 そう話す真っ黒な少女に皆が身構える。

「私は敵ではありません。貴方たちに真実を教える者です」

 少女はにっこりと笑う。

「早く二人を救ってください」

 そう言う少女は慈愛に満ち溢れていた。



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