地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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新入りさん

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「今日から皆さんの同僚になる方をご紹介します」


 いきなりのことだった。
 同僚が増える?
 この課に?
 人殺し課は独立した課だ。
 何故、人殺し課に五人の英雄以外の者が勤められるのか?

 そう誰もが思いながらも話は着々と進んでいく。
 殺は饒舌にことを進めていき、堂々とした態度で同僚となる者を呼び出す。
 その顔は何故か優しくまるで保護者を連想してしまうほどだった。
 彼はその名を呼ぶ。

「美鈴、こちらへ来なさい」

「はい」

 戸を開ける音。
 ゆっくりと戸から姿を現わす少女の姿……。
 美鈴と呼ばれた女は其は其は艶めいた黒く長い髪を揺らし瀟洒な姿で殺の横に立つ。
 体は少し細めだが標準的な体格でまん丸の大きな瞳が特徴的だ。

 その姿を見た者はこう言うだろう。
 美しいと。
 実際に少女は美しかった、其は見る者全てを魅了するほどに。
 まん丸の大きな瞳は相手を見て捕らえ、艶めいた黒い髪に巻かれたいと思い、華奢な体を見て守りたいと思ってしまう。

 そんな誰でも引き寄せてしまうだろうほどの美を兼ね備えた少女……。
 いったい殺とどんな関わりがあるのか?
 そう気になっていると殺が彼女に自己紹介をするようにと語りかける。
 少女はとても緊張しているかの様な赴きで口を開いた。

「初めまして!美鈴と申します。今日からこの仕事場でお手伝いを担当します。どうぞよろしくお願いします!」

 美鈴という少女は大声で自分をアピールした。
 その必死な姿に思わず皆が好感を持ってしまう。
 美しいだけではなく可愛らしさまで備えているとは……。
 とてもハイスペックな女だ。
 少女の完璧すぎる美しい外見とのギャップがあり、皆は興味を唆られる。
 すると殺は笑顔で言葉を発した。

「監視役が出来たから、これで仕事はサボれませんね」

 陽以外の三人には絶望的な死刑宣告であった。
 三人は少し面倒臭そうに手元にある書類に目を通す作業に戻っていった。

 美鈴は自己紹介以降、三人がサボらない様にと必死に監視役を勤めている。
 その様子に殺だけでなく皆が若干和みながら書類を片付けていく。
 彼女は監視役だけではなくお茶まで運んだり雑用も見事にこなしていった。

 頑張っている姿を見つめる殺は柔らかな笑顔を美鈴に向けている。
 その様子を見るとやはり保護者としか思えない。
 この二人は如何いう関係だろうかと本気でサトリと御影は気になりだす。

 この殺の顔……まるで自分たちが殺の世話を任されて、仲良くなった時に自分たちが見せた顔と一緒な気がした。
 殺は新入りの世話を任されて仲良くなったのか?
 いや、それ以上に殺は美鈴に親身だ。
 それと殺は新入りの世話をしている様子など露ほど見せなかった。
 ならば美鈴は何者?

 サトリと御影に凝視されている美鈴、まだまだ初日だから慣れていない彼女はあたふたと忙しそうだった。

 次の日も彼女は甲斐甲斐しく働いていた。
 綺麗になっている開かずの間と少し髪が乱れた美鈴を見ると皆が来る前に念入りに掃除をしていたのがよくわかる。
 Mは嬉しそうに美鈴にありがとうと言いながら抱きついている。

 それを御影とサトリは悔しそうに見つめた。
 そりゃあそうだ、女に抱きつけるのは女の特権だもの。
 殺と陽はそんな二人を呆れたかの様に見ながら自分の席につく。

 席につけばいつも通りの仕事地獄。
 それぞれ己の大量の書類とにらめっこしながら美鈴が淹れてきたお茶を飲む。
 このお茶が妙に美味しい。
 美味しいのでつい、ごくごくと飲み干してしまう。
 人殺し課の皆は何故かほぼ同タイミングで飲み干し、茶のおかわりを要求した。
 それに美鈴は笑って、急いで茶の用意を再び行った。




 お茶のおかわりを何回もして暫く経った頃、休憩に入る。
 この時間は恒例の愚痴大会だ。
 今日は仕事が多過ぎるだの、給料を上げろだの、罵れだの、主に馬鹿の三人衆しか文句を言っていない。
 殺にいたっては愚痴を聞く側になっていた。
 殺は愚痴を溢さないあたり、この環境に感謝しているのだろう。
 殺は三人の愚痴を聞くのも己が役目としていた。

 そんな殺は何かを思ったのか美鈴の方を向いて訊ねた。
 仕事のサボリ魔だらけの仕事場で大変ではないか?と。
 確かに此処の仕事場は、仕事のサボリ魔だらけで気を緩められない。
 それは監視役にとってはとても疲れることで苦行を現していた。
 だが美鈴は笑顔で答える。

「皆さん私に優しくしてくれますから何も嫌なことはありません。皆さん、いつもありがとうございます」

 美鈴は純粋無垢な顔で恥ずかしげもなくお礼を述べる。
 殺はそんな美鈴の頭を笑顔で撫でながら「お菓子でも食べましょうか」と嬉しそうに語りかける。
 美鈴はその瞬間にぱぁっと顔が明るくなりお茶菓子の用意を始める。

 今日は如何やらよもぎ餅の様だ。

 口に含むとよもぎの少し苦い風味がするが、餡子と合わせているからかちょうど良い味加減になっている。
 更に美鈴が淹れてくれたお茶と一緒に食べると現実を忘そうなくらい美味しくて自然と笑顔になってしまう。
 馬鹿な三人は仕事まで忘れそうになる。
 まあ、そこは殺と美鈴が許さないが。

 お茶菓子を食べ終わりまた仕事を行う。
 今回の仕事は地獄のイベントのことだ。
 実を言うと閻魔に押し付けられた雑務なのだが……。

 子供向けのイベントでもっと地獄に関心を持ってもらいたいことから始まった。
 イベントの進行やら業者に発注やら他にも沢山の仕事をイベント前に片付けなければならない。
 美鈴は殺の仕事を見て何かを思いついたのか、わたわたとする。

「如何したのです?美鈴」

 殺は百面相をしている彼女に何かあるのかと訊ねる。
 すると美鈴は元から大きな目を更に見開いて答えた。

「子供向けの玩具!!先着の方々に配りませんか?」

 殺は美鈴が自分たちの仕事のことまで考えていたのかと少しだけ嬉しげになる。
 そうして美鈴の積極的な姿を見た殺は予算を考えて実行をすると、取り組んでみるといった風に言葉を返した。
 殺はどんな玩具が良いか考えながら仕事をする。
 その結果はどれが出るかはお楽しみのランダムな玩具になった。

 玩具のことは閻魔にも許可を頂いた。
 殺たちは更に仕事へと意識を集中させる。
 イベントの数日前は人殺し課は戦場の様になっていた。
 美鈴も手伝い以外の仕事も次第に覚えて本格的に仕事をこなす様になった。
 なんとのみこみの早いことか。

 その後のこと。イベントは無事に大成功を収めて皆で飲みに行くという話になった。
 皆は飲み会で美鈴を功績者として褒め称えた。
 だが本人はそのことで照れてしまい机に顔を突っ伏してしまう。
 まだ酔ってもいないのに、時折見せる顔は真っ赤だ。

 その姿がまた可愛くて仕方がない。
 皆で美鈴の頭を撫でながら良くやった!と本人に語りかける。
 彼女は嬉しそうに机に顔を突っ伏したまま少しはにかんでいた。







 美鈴は思う。
 一人で人間界から地獄へさすらった頃は寂しかったと。
 だが今は寂しくない。
 皆が私を受け入れてくれるからと。




 ああ、幸せだ。
 この場所は暖かい。
 お母さんも居ればもっと暖かい。
 殺様、ありがとう。
 私を一人にしないでくれてありがとう。
 私は貴方様の為に、大切なものの為に動きます。
 私に幸せを与えてくれてありがとう。

 けれども、まだ幸せには少し遠い。
 早くお母さんに会いたいな。
 そうしたら本当の幸せが……。
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