地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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新入りさんが入った理由

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 お母さん
 お母さん
 どこにいるの?
 暗いよ、怖いよ。
 助けて
 タスケテ



 今日も地獄の二十四時間労働が始まる。
 殺は苛々しながら溜め息を吐く。
 今回の仕事は供物をしまっている倉庫の清掃。
 もはや雑用だから彼は苛ついているのだ。

「はぁー。こんなもんですかね?」
「うん!お疲れ、殺ちゃん!」
「手伝わずに堂々とサボるなんていい度胸ですね。閻魔大王」
「そう?照れるな~」

 殺のドスのきいた声にも、ものともしないのは流石といったところだろうか。
 殺の機嫌は悪くなる一方だ。

「ん?これは……」
「供物の一つだけど。どうしたの?」
「いや、ちょっと気になって……」

 それは長い髪の美しい日本人形だった。
 まん丸の目がどこか可愛らしい。
 少し細い身体が気になるが。

「この人形だけ変な気がして……」
「それならこっちで供養しようか?」

 閻魔大王はそう話を持ちかけるが、殺は首を横に振った。
 殺が反対したことに何故?と閻魔はなるが、ここで殺の仕事への根性がわかる。

「こんなことで閻魔大王の仕事を妨害する訳にはいきません。これはこちらで供養します」
「そう?それならいいけど……」

 ここまでが平和な日常の物語。
 悪夢はこれからである。
 さあ、一体どんな悪夢が待っているのか?





 殺は自分の部屋に入る。
 この人形は危ない、本能がそう伝えてくる。自分がこの人形から皆を守らなければならない。
 被害を受けるのは自分だけでいい。
 これが皆の為だ。

 除霊の儀式を始める。
 神なのだから一応は除霊は出来る。
 だが殺自体は除霊を行ったことはない。
 だから殺は少しばかり不安だった。

 人形に除霊を施す。
 眩い光が殺の居る部屋を照らしていった。
 除霊が完了するとともに殺は疲れたかの様にその場でへたり込む。

 除霊を施したが人形は特に変わった様子はない。
 失敗したのか、と思った瞬間だった。

「うっ……急に眠気が」

 殺にいきなりの眠気が襲う。
 このまま意識を手放すのはまずいと殺は思った。
 だがそうは思っても眠気は増していく一方だ。

「こ……れは、やば……いな」

 殺はとうとう意識を手放し、その場で倒れた。




 お母さん!
 お母さん!
 なんで返事がないの?
 ねぇ?



「はっ!……此処は?」

 殺の意識が戻る。
 辺りを見渡すと殺の居る場所はどうやら地獄の街というのがわかった。
 だが人が誰も居ない奇妙な空間だ。
 まるで現実ではないかの様な空間。
 殺は辺りが暗いことで、今は深夜だと判断を下した。

「夜か……何か嫌な気配が……!?」

 グシャ

 何かが潰れた音がする。
 後ろを振り返ると塗装が所々剥げてぐしゃぐしゃの巨大な日本人形が口をパクパクとさせて此方を見ていた。
 目玉に使われているひび割れたガラス玉が殺を歪めながら映す。

 首は180°まわり体に手足が無数に生え、蜘蛛の様にになっている。
 それはトラウマを植え付けられそうなものだった。

「ぁぁぁぁぁぁ」

 人形が叫んで迫ってくる。
 殺はこのままでは自分が危ないと判断して逃げた。地獄の街の裏道に詳しいから逃げるのは案外容易いものだった。
 殺は人形から逃げ切って息を吐く。

「ふぅ、今日は疲れることが多いな」

 殺はこの状況に絶望など感じてないような態度をとる。 実際に勝算があったからだ。
 霊とは未練があって現世にいるもの。
 だが、この霊は供物に紛れ込み自ら地獄にきた。
 きっと何かしら地獄にまつわる事情があるに違いない。

 その事情さえわかれば……。

「ぁぁぁぁぁぁ」
「きたか……!」

 人形は無数の手足をばたつかせ、建物を破壊し、攻撃をしてくる。
 其を武器を持ってない殺は攻撃や、飛んでくる瓦礫をみごとに避ける。

「お……かあさ……ん」
「!?」

 きた。これで事情がわかる。

「お……かあさ……ん。どこ……?」

 母を探しているのか。
 なら地獄にきたのは納得だ。供物として捧げられているということは、母は死んでいるのだ。
 死んだ母を追って地獄にか……。

 殺は人形を見て思う。
 こんな姿になってでも、母に会いたかったのかと。

 少しだけ……、少しだけ力を使う。
 人形の過去を見るためだ。
 なんでこんなことをしているのか自分でもわからない。
 ただ、知りたいと思った。

 母親という、殺が知らないものを探す人形が気になってしまったのだ。

「ぁぁぁぁぁぁ?」

 眩い光に照らされる。




「新しいお人形さんだー!私が貴方のお母さん!よろしくね」
『お母さん?』
「貴方の名前は美鈴!どう?いい名前でしょう!」
『うん!』
「一緒に遊ぼう!」

『いつも遊んでくれてありがとう。私の声は聞こえないと思うけど感謝してるよ』
『結婚おめでとう。お母さんの娘だからこそ嬉しいよ』
『大切にしてくれてありがとう。これからもよろしくね!』

『お母さん?なんで倒れているの?誰か!助けて!』
『人形だからだ。私が人形だからお母さんが死んだ』

『会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい』

『会いにいくね。お母さん』

『お母さんどこ?わからない!誰か一緒に探してよ!!』


 殺には全てが見えた。

「お母さんを探したいのですね」
「あぁ!ぁぁぁぁぁぁ」

 殺は人形の思いに向き合う。
 人形は真剣なのだ。それなのに自分が真剣じゃなかったら失礼だろう。

「お母さんという思い出は正直羨ましいです……。私には居なかったから」
「……ぁぁ」

 人形は殺の悲しげな表情を見て、動きを止める。
 更には顔を地面につけ、目線を殺に合わした。
 その様子を見て殺は、やはり優しい人形なんだなと心から思った。

「貴方は幸せを知った分今の不幸に耐えられてない」
「……」

 人形は黙る。

「私は貴方を支えたいと真剣に思ってます。それに探し物は大勢で探したほうがいいですよ!うちには体力が自慢の馬鹿が集ってます。貴方も私たちと一緒にきませんか?優しい貴方が居れば私は嬉しいのですが……」

 殺は思いついた言葉を嘘偽りなく言う。
 その様は必死すぎて殺を知る人物はあり得ないと言うだろう。
 普段は冷静沈着、それが殺だ。
 だが今の殺はクールな態度を脱ぎ捨て、必死に人形に向き合っている。
 普段とは違った。

「えーと、とにかく私が言いたいことは母親探しも手伝うし仲間になりませんか?ということです!」

 人形は殺の真剣な目を見て、必死な態度を見て、言葉を聞いて思った。
 この方は信用出来ると。
 お母さんと同じ気がすると。
 だから人形は手を伸ばした。

「こんな無力な私でもいいのですか?」

 涙を浮かべる者はもはや無力な人形ではなくそれはそれは見目麗しい女性だった。

「無力な者などいませんよ。誰しも力を持っているものです。貴方は優しい力を持っている。美鈴さん……これからよろしくお願いします」

「……貴方の名は?」

 人形、もとい美鈴は訊ねる。
 それに対し殺は笑顔を見せ、答えた。

「私は殺……人に忌み嫌われる存在です」

 美鈴は殺の悲しげな笑顔に触れた。
 彼女はそんなことないですよと、殺を慰めるかの様に言う。
 そんな美鈴を殺は抱きしめる。

「今までお互い苦労してきたのですね……。これからは皆が居ますから大丈夫ですよ」
「殺様の自慢の仲間に会うのが楽しみです」
「きっとすぐに仲良くなれますよ」

 二人は笑いあって眠りについた。




 目が覚めると自分の部屋だった。
 人形は普通の人形にもどっていた。
 あれは夢だったのか?妙にリアルな夢だなと思いながら横に向くと美しい女性が眠っていた。

 嗚呼、夢ではなかったのか。
 これからよろしく。
 美鈴
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