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不自然な日常
しおりを挟む「今日は早く帰りなさい。陽」
「え?」
そう殺に告げられた。
最近、僕は除け者にされている。
いつも帰る様に急かされたり、僕抜きでみんなヒソヒソ話をしている。
僕は一度だけヒソヒソ話に入ってみようと試みたことがあるが、皆は気まずそうに不自然に解散していった。
そんなに僕に聞かれたくない話だったのか?
もしかして僕の悪口?
悪口という考えに辿り着いたとき僕の身体に悪寒がはしる。
何故ならば、もし悪口なら僕は無意識に何か酷いことをしてしまったのかもしれない。
それに……嫌われていて、また一人になるかもしれない。
皆は優しいから今は一人にしないけど、いつ一人にされるか分からない。
だから僕は下手なことをしない様に不必要なことはしなくなった。
日常は変わらない。
僕抜きで世界は回るんだろう。
でも彼らは僕を見てはソワソワする様になった。
それは日に日に強くなっていき、最終的には声をかけただけで驚かれる程にだ。
流石に辛くなってくる。
僕はそんなに要らない存在なのか?
暫くの間は皆と共に過ごしていたから孤独から離れていたけど、また孤独に逆戻りと思うとゾッとする。
「陽。大丈夫ですか?」
殺が訊ねる。
殺は多分だが一応心配そうな顔つきだ。
これは仕事をする人数が減ったら困るとのことなのかと考えてしまう。
実際に殺ならありえそうで怖い。
「大丈夫だ」
「それなら良かったです。当日に主役が倒れたら……「何か言ったか?」
「え!……いえ、何も」
殺は何故だか少しだけ焦った表情をして足早に去っていった。
何を言ったのか気になるが、仕事関係のことだったら嫌なので深入りするのはやめることにする。
仕事が増えたらと考えると恐ろしいからな……。
重い足取りで家に帰る。
家には姉が雑誌を必死に読み込んでいる。
どうやら婚活特集を組んでいる雑誌の様だ。
「ただいま帰りました」
「あら、お帰りなさい。可哀想な家庭カースト最下位様」
「そう思っているならカースト制度を廃止してくれませんか?姉様」
「嫌よ、貴方は私の下僕よ」
「……」
姉様は僕を下僕と呼ぶ。
この発言の所為で色々と厄介な誤解が起こったものだ。 思い出したくもない。
姉様は所謂Sなのだろう。
うちのMなら喜びそうだ。
……少し寂しくなる。
皆のことを思い出すと一人になりたくないという思いが強まってしまい涙腺が限界になってくる。
嫌だ、一人は嫌なんだ。
「そんな顔して如何したのかしら?可愛い顔が台無しよ」
気づいたら僕は泣いていた。
泣き出したらもう止まらない。
ポロポロと大粒の涙が溢れていて、いつの間にか姉様に抱き締められていた。
「大丈夫よ……」
姉様の一言で救われた気分になる。
こうやって心配してくれるから嫌いになれないんだ……。
姉様に今までの事情を話してみる。
すると姉様は少し考えたあと何かに気がついたかの様に微笑みを浮かべる。
「何が可笑しいんですか!」
「貴方は愛されてるのね。ふふふ」
少し頬を膨らませながら文句を言う。
姉様はそれを面白そうに眺めて笑った。
「もうすぐわかるわよ、貴方が避けられていた理由が。……というか明日」
もうすぐわかると言われても如何すれば?
僕は晩御飯を作りながら考える。
考えても、明日の仕事を考えてしまってなかなか答えに辿り着けない。
「あぁー!もう分からない!」
すると何かが焦げた匂いがする。
僕は焦って調理する手に目を向ける。
如何やら焼いていた魚が焦げてしまった様だ。
その日の夕食は勿論の事だが姉様に文句を言われてしまった……。
「陽ーーーー!今日は遅い時間に仕事に行きなさい」
「はぁ?!」
朝早い時間に起こされて謎の命令をされた僕の心境を誰か代弁してくれ。
仕事があるのだから遅い時間に出勤する訳にはいかない。
だが……。
「同僚様からの命令よ」
その一言で絶望する。
僕と一秒でも長く居たくないのか……。
ならばと僕は今すぐ出勤する為に身支度を急いで整えた。
「ちょっと!これは命令よ!」
「五月蝿いです!命令なんかどうでもいい!……僕のことが嫌いならはっきりと言わしてやるんだ」
そうやって答えた瞬間に姉様が近づいてくる。
あ、これは殴られるパターンだ。
姉様はすぐに拳に頼る。
だからその点は嫌いと言える。
しかも強い、尋常じゃないくらいに怪力だ。
僕は死を覚悟する。
だが予想を反して姉様が振り上げた手はゆっくりおろされて僕の頬を撫でた。
「仕方ない子ね。早く答えを見てきなさい」
いってらっしゃい。その声で僕は仕事場へ向かう。
姉様は穏やかな顔つきで見送ってくれた。
~~~~
仕事場の前に着くと声が少し聞こえる。
「サトリ兄さん!それはここです!」
「これは何じゃ?」
「どうでもいいから早く!」
「陽様が来る前に!」
僕は除け者か……。
だが彼らの言葉で聞かなければ。
僕は要らないのかを。
本日二度目の覚悟を決める。
「おはよう!」
振り絞って出た言葉は震えていた。
僕の声を聞いたみんなは世紀末の様な表情をしている。
やっぱり僕は要らないのかと思った。
だがそれは間違いだったことに気づく。
飾り付けられた部屋。
用意されているクラッカー。
大きなケーキ。
ケーキのチョコレートには
『陽、お誕生日おめでとう!』
と書かれていた。
何だ、誕生日だったのか……忘れていた。
そうか、僕はまだ愛されていたのか。
僕は嬉しくて泣いてしまった。
「どうしたのですか!?」
「そもそも何故この時間に!?」
「お姉さんにも根回ししたのに!」
「取り敢えず泣き止んでくださいませ!」
それぞれが焦っている。
その焦った表情が面白くて少し笑ってしまった。
「僕は愛されていたのか……」
その一言にみんながギョッとして言葉をまくしたてる。
「愛してるに決まっているでしょう!」
「大切な仲間じゃからな!」
「自分を過小評価すんな!」
「皆が貴方のことが大好きですわ!」
その言葉がまた嬉しくて涙が止まらない。
そんな僕を見て皆は「産まれてきてくれてありがとう」そう言ってくれた。
「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
「ありがとう、ありがとう」
あぁ、今日は最高の誕生日だ。
ケーキを食べながら雑談を交わす。
仕事はしなくて大丈夫かと。
どうやら今日は特別と閻魔大王がノリノリで許可したらしい。
その時だった。
「殺!さっき陽に愛してるって言ったな!そういうことか?そうなのか?」
思い出した途端に顔が熱くなる。
殺は一瞬だが焦った表情を浮かべた。
だけど殺は少し黙ってから……
「……何か問題でも?」
そう答えた。
彼は否定しなかった。
寧ろ肯定をしていた。
殺は僕の方を向いて顔を近づけて囁く。
「これからも愛してますから、私の気持ちに答えてくださいね」
そうやって囁いてから顔を離す。
……僕は黙ってケーキを一口食べて自分を抑えることしか出来なかった。
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