地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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昔と今と

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 閻魔には慈悲が無い。
 慈悲は地蔵様に任せているので面倒な感情を置かない様にしていた。
 彼は慈悲を与えるのが嫌だった。

『私は悪くない!どうかご慈悲を!』

 その言葉は彼の大の苦手な言葉である。
 いつもいつも慈悲を求める者は罪人たち、そんな奴らに慈悲など与えたくないのだ。
 そう思いながら今日もずっと罪人たちを裁いていく。





『はじめまして。閻魔大王』

 ふと閻魔は思い出す。
 自分の中の最愛で厄介な子供を……。
 彼が来てから閻魔は調子がおかしい。
 まるで時が遡りした時計の歯車といったところか?失ってしまった自分の大切な者に似ている彼を見て昔に戻ってしまった様な感覚に溺れているのか……。

 彼は自分と正反対だった。
 無慈悲に見えるその姿、本当は優しく儚い……それが彼であった。
 慈悲も、あの日の惨劇から感情も置いてきた閻魔にはそれがとても美しく春の花の様に見えてしまう。
 優しく儚い花……まるで桜の花の様だ。

 カラン、カラン、カラン……。

 今日も彼の下駄の音が響いてくる。
 閻魔はそれが近づく度にソワソワして緊張してしまい最終的には若干だが気分がいつもよりご機嫌になる。
 本当に若干。
 だが彼は普通に見抜く。

 誰も気づかない些細な感情の差を彼は見抜いてくれる。
 それだけ閻魔を見ているのだ。
 その事実に閻魔は毎回、嬉しさ、安心を覚えさせられる。
 まだこんな最低の者を見てくれる者が居るのだと……。
 たとえそれが彼だけだったとしても良い、そう思えていた。

 初めて出逢った頃の最高の思い出を振り返る。

『はじめまして。閻魔大王』
『初めまして。君の名前は?』
『私は殺。この紅い惨劇の引き金となった忌々しい存在です』

 ……あぁ、彼は自分を嫌っている。
 そう閻魔は久々に気づく。
 だから気づいたときに甘やかす。
 なんて残酷なのだろうか……殺は閻魔を毎日支えているのに閻魔は自分のことだけなのだから。
 そんなことをどうでも良いかの様に閻魔は淹れたてのお茶を一気に飲み干して仕事に目を向けた。
 だがそんな彼も変わるときがくる。

 殺に友達が出来たのだ。

 閻魔は焦る。
 自分は捨てられるのでは?
 そう考えた瞬間に今まで自分はどれほど酷いことをしてきたかが分かった。
 自分のタイミングで殺のことを考えずに甘やかしたり放って置いたり……。

 差が激し過ぎたのだ。
 ずっと殺に依存してきたくせに自分は玩具の様に彼を扱っていた。
 そんな事実を知った閻魔は更に絶望に覆われる。
 もう嫌だ。大切な者が離れていくのは……。
 あの人の様に失うのは、もう嫌だ。





 閻魔は暫く泣き暮らした。
 その間はずっと殺は閻魔の自室に立ち入らなかった。





 ……泣き暮らしてどれほど経ったか?
 殺が閻魔の下から離れていくつ経ったか?
 あるときだった。
 殺が閻魔の前に現れたのである。
 閻魔は目を見開き口をパクパクとしていた。
 殺は彼の前で少し申し訳なさそうに頭を下げる。
 その行為が閻魔にとってはさようならに思えてしまった。

『殺ちゃん!!お願い、私が悪かった!だから私から離れていかないで!!!』

 閻魔は殺に縋ろうとする。
 殺は慌てて閻魔を宥める。

『閻魔大王……私は離れませんよ』
『なら何で今まで離れてたの?』

 殺は困った表情を浮かべて答えた。

『私は貴方に自分勝手さを直してもらいたく思ってわざと離れてたのです。ですが、まさかここまで反省しているとは……』
『反省しすぎて、もはや体の水分が抜け切ったよ……』

 閻魔はカラカラの喉を震わせて言葉を放つ。
 彼はもう言葉を発する気力も無いかの様に殺に縋り付く。
 そんな閻魔の頭を撫でながら殺は語る。

『貴方は自分勝手の慈悲の無さだ。無邪気なのは良いが、無邪気過ぎるのも人を傷つける。慈悲が無いのは結構。それが貴方ですから。ただ、自分勝手な王は人々を纏められない……。それをわかってもらいたくてつい』

 閻魔は更に泣いた。
 それは嬉しかったからだ。
 自分のことを考えて動いてくれたのがとても嬉しくて涙が止まらなかった。

『よしよし、これではどちらが大人か分かりませんね』

 殺は閻魔を抱き締めてずっと頭を撫でるのであった。




 あれから何年経っただろうか……。
 今日も閻魔殿は騒がしい。
 あれから無邪気な無慈悲は変わらないが、自分勝手なところは変わったつもりと閻魔は自負している。
 今日も仕事をサボり、人殺し課に押し付け様と殺のもとへ行く。
 事前に電話で連絡を取れば何やら彼は焦っていた。

 人殺し課の面々の声も聞こえてくる。
 すると『なーに?』と低い声が聞こえてきた。

 ……なるほど、冥王を匿っているという訳か。
 殺はなんとか時間を稼ごうとしているが閻魔は殺に意地悪に告げた。

『冥王の監視よろしくね!』
『~~!!!???』

 殺の声にもならない声が聞こえてから電話を切る。
 少し笑みがこぼれる。

「あーあ、私も甘いなぁ!」


 別に危害を加えてくる訳ではないし、良いや!
 それに……。







 大切な人から大切な宝を引き剥がせないよね。


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