地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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癒し

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「見てください!式神の犬を飼うことにしたんですよ!!」

 Mはそう仕事場で嬉しそうに叫んだ。
 皆は何だ何だと気になってMに近づく。
 彼女が抱えている犬はとても小さな体に、白い艶やかな毛並みで、つぶらな瞳をしている、か弱いのというのが印象の狛犬だ。

「うちの実家はペット禁止で!特にお父様が……」
「ん?」
「いえ、何も有りませんわ」

 そういうMの顔は少し沈んだ表情をしている。
 そんなMのことが少し気掛かりな殺は彼女の頭を撫でた。
 Mは殺を珍しいものを見るかの様な目で見つめる。

「殺様?大丈夫ですか?」
「撫でただけで心配しないでください」

 殺は頭を撫でる手を強める。
 それはもはや掴む域に達してしまっていた。
 Mはそれでも嬉しそうにしている。
 寧ろ恍惚とした表情を浮かべているほどだ。
 御影は慣れた様にそれを眺める。
 陽やサトリに至っては無視を決め込んでいた。
 これが彼らの日常……。


 一週間後……。


「テメェェェェェ!このクソ犬!」

 もう別の職場のアイドル、クソ犬へと進化している。
 よく開かずの間に居るが時々、別の部署へ入り浸っていた。
 度々の悪戯が有名になりクソ犬という称号を得ている。
 だが勿論、ちゃんとMがつけた名前もある。
 桜子という名前だ。
 桜が好きで犬につけた名前らしい、犬の名前をもう少し考えろと陽に叱られていたが、特に問題は無いので桜子で決定した。

 クソ犬と呼ばれているが嫌われている訳ではない。
 時に桜子は自分なりの差し入れをいれてくれる。
 差し入れは犬らしくビーフジャーキーとか骨だ。
 桜子はこれでもちゃんといろんな者を気遣っているのだ。
 その心遣いに感謝してみんな愛情を込めてクソ犬と呼んでいる。

 今日も桜子は差し入れをいれる。
 この日の差し入れは小さな向日葵(ひまわり)の花であった。
 花は人殺し課や他の部署のみんなにも配られる。

「クソ犬!いや、桜子!ありがとう!」
「綺麗な花だなぁ」

 人殺し課以外の声が聞こえる。
 人殺し課の彼らに至っては桜子を抱き締めに行っていた。

 彼らには癒しが無かったのだろう。
 桜子という存在が癒しになった今、人殺し課は和やかだ。
 平和で喧嘩が少ない日々……。
 彼らにとって桜子は宝物以上の存在だ。

 桜子がもたらしてくれた平和に周りは感謝をしている。
 何せ、いつも騒動を起こしていたのは人殺し課だ。
 そんな人殺し課を一気に鎮めた桜子には感謝をしきれないと他の者は語る。

 彼ら人殺し課の日常に花を添えた桜子は満足した様に仰向けになって、撫でろといったふうに腹を見せる。
 もちろんそれを見せられ撫でない者はいない。
 保護者のMが本当に一瞬の刹那、目にも留まらぬ速さで桜子に駆け寄り腹を撫でた。
 桜子は気持ちよさそうに鳴いている。

 桜子は皆に癒しを届けたかったのだろう。
 だから花を選んだ。
 単純な思考がまた可愛らしくて仕方がない。
 それら全てが愛おしくて仕方がないといったところだ。

 桜子は常に周りを気遣う。
 皆が疲れているときは元気を与える為に己の餌を分けようとする。
 それを見たら最後、撫でまくるしかない。
 桜子は常に元気でいつも遊んでいる。
 時々、人殺し課の者や他の部署の者に相手をしてもらっている。
 桜子は散歩に行くときは必ずMの後ろを歩く。
 やんちゃだが主従関係はわきまえているからだ。

 ちゃんとMを主人と認め、人殺し課を、他の部署の者を家族と思い慕っている。
 彼らを信頼しているのだ。
 桜子は自分の幸せを噛み締めて生きている。
 自分が如何(いか)に愛されているか、どれだけ環境が良いかが分かっているからだ。
 桜子は言葉が話せたらこう言うだろう。

『私は幸せだよ』

 そう言葉で伝えたい。
 だが出来ない。
 ならば態度で示そう。
 だから今日も元気に桜子は駆け回るのだ。

 だが、桜子には気掛かりなことがある。
 それは己が主人、Mのことだ。
 いつも明るいが時々、本当に偶にだが暗い表情……いや、冷たい表情をしているからだ。
 そのときに一度だけ彼女に近づいたことがある。

 彼女は瞬間に自我を取り戻したのか優しい手つきで桜子を撫でた。
 桜子はその時に、これは自分だけでは解決出来ないことだと直感でわかった。
 だからいずれ彼女を救う者が現れたなら、その者に力を貸そう。
 そう心に誓った。

『ねぇ、ご主人様……私は幸せだよ。だから……』









 お願いだからご主人様も幸せになってよ……。



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