地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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人間と神

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 ……怠い。
 邪魔者は現れるし学校は面倒だし。
 あーあ、これじゃあ復讐が進まないじゃない。
 私は学校の屋上で空を眺めて一人で黄昏れる。
 全ては過去が原因。
 奴らが悪い。
 我が一族を差し置いていった奴らが……。



 私の朝は早い。
 復讐を誓う儀式を始める為だ。
 この儀式を行い朝を迎えるのが日常だったが、邪魔が入った。
 おそらく私の正体に気づいたのだろう。
 地獄の妖を召喚出来なくなったのだ。
 何らかの術を使い召喚ルートを切り離しにかかって来たか……。

 朝の儀式が無駄になったとわかった私はおとなしく学校へ向かう。
 面倒だ。
 薄っぺらい友情、仲間……。
 どれもこれも全部が大っ嫌い。
 今日もカラクリみたいに同じ一日が始まり進んでいき、そして終わる。
 そんな日常に何があるのか?

 私たち……いや、私の先祖の無念が彷徨い続けるこの世に意味はあるのか?
 否、この世に意味はない。
 あるのは罪を裁く地獄だ。
 きっと私が殺した奴らも地獄に落ちて苦しい思いをしているのだろう。
 そう考えると滑稽な気分になる。

 だが、邪魔者は地獄の者たちだ。
 私はやって良いことをやっているのに何で妨害をしてくるのだろう?
 まぁ、邪魔者は消すだけなのだけど。
 さぁ、元から持っている式神たちを私と結合させよう。
 神と渡り合う為に。






 もうすぐ夜になる。
 今回の事件の犯人を倒すにはうってつけだ。
 犯人が来た瞬間に結界をもはる準備が出来ている。
 結界の中に入った犯人を捕まえる寸法だ。
 相手が動くのはおそらく今日の深夜だ。
 犯人を待つまで殺は気分を落ち着かせる為にチョコレートを舐める。

 犯人は自分の正体がバレたこと分かっているだろう。
 だからこそ今夜、自分たちを殺しにくる。
 だが、相手は人間だと侮ってはならない。
 奴は陰陽師の力を持つ特別な人間だ。


 ざっざっざっ……。

 地面を、草を踏みしめ歩く音が聞こえる。

「現れたか……」

 後ろを振り返ると一人の少女が薙刀を持って佇んでいる。
 緑の髪色に、光る黄色の目。それは人外の様に思えた。
 否、人外だ。奴の気配を辿ると式神の気配も感じとれた。おそらくは式神と己を融合させているのだろう。式神を外せば黒髪、黒目の普通の少女だ。

「邪魔者は排除」

 そうやって笑う少女は式符を取り出し、式神を大量に召喚した。

「式神たちは任せました。」
「「「「了解」」」」

 皆は散らばりそれぞれの立ち位置につく。
 さぁ、戦闘開始だ。

 その瞬間に殺は刀を放り投げた。
 素手で戦うと言ったところだろう。
 生きている人間を殺すのは禁忌に相当する。
 それに彼自身、人間が好きだから殺したくないのだ。

 だがその行為は少女にとっては挑発の様に思えた。
 少女は一瞬で殺の目の前に飛んで移動し薙刀を振るう。
 だが少女は目を疑った。
 なんと殺は素手で薙刀を掴んでいたのである。
 もちろん血が噴き出しているが、お構いなしに薙刀を掴んだまま一回転させて少女ごと放り投げてしまった。

 これが神の力か……少し怯むが今はこいつらを倒さなければならない。
 そう考えた少女は己の眼前までひとっ飛びでやって来た殺を見つめる。
 殺は拳を振るおうとするが少女が召喚した式神によって防がれた。

 少女は薙刀を手にして高速で斬撃を入れる。
 だが、それを殺は見切って華麗に避けていった。
 少女が焦りを覚えた隙に顎を殴り空に飛ばす。
 何が起きたか分からない少女はただ地面に落ちていき、口から血を流す。

 真っ赤な血が滴った。
 少女は顎をおさえて呻き声をもらす。
 それを見た殺は「これで神に刃向かう馬鹿な真似はしないでしょう」そう呟く。
 人間と神。
 力の差は歴然だ。

 少女はそれでも立ち上がり殺を殺しにかかる。
 その時、殺は後ろを指差した。
 少女が振り向いたさきには式神を倒し終わった四人が刀を突きつけていたのだ。
 少女は式神を召喚出来ない状態になり、己が身に纏わせた式神を戦わせれば自分が弱体化して負けてしまうような状況になる。
 どの道は負けというものだ。

 少女は死を悟り走馬灯が頭をよぎる。
 復讐……。
 出来なかった……。
 そうやって未練を残して死んでいくのだろう。
 最期まで。

「この世界に意味はなかったなぁ……」

「……ふざけるな!」

 殺が言葉を投げかける。
 その言葉に少女は呆然とする。
 だが殺は話すのを止めない。

「貴方への罰は生きることに決定です!この世界に無意味なことはない。みんな意味を探す為に生きているんだ!貴方も復讐の為に生きていたでしょう?!それが貴方の意味でした!だいぶ歪んでいましたけど!」

「私にも意味があったの?先祖の復讐すら出来なかった私に……」

 少女は昔を思い出す。
 廃れた陰陽師……栄えた分家。
 自分たちを置いて栄えた分家へと復讐をする日々。
 私にもやることがあって生きていたんだ。

「それに平和を祈る儀式をして村の人々を守っていました。貴方は歪んでいたけど立派な陰陽師です。貴方は先祖の復讐の為だけに生きているわけではありません。寧ろ先祖は復讐を望んでいません。聞きますか?先祖の声を……」

 先祖の声が聞ける?
 少女は喜びに胸が打ち震える。

「聞かせてください!先祖の本音を!」

 殺は口笛を吹く。
 口笛を吹いたら草むらから蛇が現れた。
 突如現れた蛇に少女は恐れ慄く。
 先祖というのは嘘で、本当は食い殺されるのではと恐怖した。
 だが蛇は少女の体をつたい、登り、頬をチロリとひと舐めするだけであった。

 蛇の仕草に何故だか安心してしまう。
 何だかとても懐かしい気がして、少女は蛇を直感で先祖と判断した。

「先祖様?」

 蛇、もとい先祖は語る。

「私たちは唯、平和を願っていた。復讐など望んでいなかった。そして……貴方の憎しみがなくなるのを願っていた。もう苦しまなくていいから。生きて幸せになって」

 少女は今までのことを振り返る。
 少女は泣いた。
 只々、泣いた。
 自分に生きる意味があるんだと、自分は復讐の為に生きなくてもいいんだと。
 幸せになっていいんだと……。

 蛇はゆっくりと消えていく。

「分かりましたか?先祖は復讐を求めていない。
 分かったら早く生きる意味を見つけて老衰して地獄へ落ちなさい。二十四時間の労働はキツイですよ」

 少女は精一杯の笑顔で答えた。

「地獄に落ちたら、今度はゆっくりとお喋りしましょうね」

 その笑顔を見て殺は「早く酒が飲める歳になってくださいね」そう言葉をかけて陽、サトリ、御影、Mと地獄へ帰っていった。

 その様子を少女は少し羨ましそうに眺めて自分の家へ帰っていく。
 その足取りはかつてない程、軽かったと少女は涙を拭いて闇夜に消えていった。




「閻魔大王」

「なんだい?殺ちゃん」

 にっこりと笑う閻魔は少しだけ威圧感を放っている。
 おそらく仕事が多い為に機嫌が悪いのだろう。
 だが本題を出さねばならない。
 殺は痛む胃をおさえながら話を切り出す。

「あの事件の少女が死んだ後は私の部下にしたいのですが」

「部下ね~……」

 閻魔は少し顔つきがキツくなる。
 だが少しは考えてくれている様だ。

「少女は平和にも貢献しております。
 罪はそれでだいぶ減る筈です。
 更に死んだ後はそれなりに強くなっている筈です。きっと仕事に使えます」

 閻魔はずっと唸り声を上げているだけだ。
 だが数分経つと……。

「良いよ」

 そう答えた。
 殺は若干の安堵を覚える。
 だが、これだけで終わる訳がなかった。

「条件つきね!ちなみに条件は一日に三回、朝、昼、晩……その子を殺すこと!どうせ再生出来るんだから良いよね!罪を犯した亡者には罰を与えなきゃ!」

 ……まぁ、そうなるとは思っていた。
 そう一人で悩んだ殺は結局、閻魔の条件を受け入れるしかなかった。
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