地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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貴方は耐えられますか?

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 これで何回目?
 何で私は死に続けているの?
 何でみんなは死んでいっているの?
 わからない。
 どうすればいいの?
 辛い。
 誰か私を殺して!!




「ここが問題の学校か……」

 殺は静かに呟く。
 遡ること数時間前。





「やっほー!人殺し課のみんな!」

「閻魔大王、一体何の用……依頼ですね。」

 殺はそもそも閻魔が開かずの間に来るときは、いつも依頼の時だと思い出す。
 まあ雑用や差し入れもあるのだが。
 陽は閻魔が来たことで姿勢を整えて真剣に話しを聞こうとする。

 その間Mは小夜子とお茶を淹れに行って現在残って居るのは殺と陽と御影とサトリだ。
 殺は「今度はどんな依頼ですか?」そう訊ねる。
 閻魔は微笑みながら「人間が何故か積極的に自殺をしているんだよ」と話しだした。

 笑んではいるが閻魔の目は真剣そのものだ。
 閻魔は溜め息を吐いてから「よろしく頼むよ」と、それだけ残して途中からやって来たMの淹れたお茶を飲み干して去っていった。
 Mも途中からだが話しを聞いていたから大体は理解している。

 御影は……相変わらず脳天気といったところだ。
 殺は閻魔の話を聞いて事件を解決しなければならないと、すぐに行動に移ろうとした。
 他の者も既にやる気満々である。

「さぁ、行きますよ!」

「「「「おー!」」」」






 そうやって現在は問題の学校に来ている。
 一見は普通の……いや、昼間は普通だった。
 だが夜がおかしいのだ。
 人間界特有の青紫色の闇夜というより地獄寄りの少し紅っぽい夜……夕闇が正しいだろうか?
 その時だった。

「殺!あれ!」

 サトリが屋上を指さす。
 そこには一人の男子高校生が屋上のフェンスを乗り越えてゆらゆらと蠢いていた。
 少年が屋上から飛び降りる。
 御影は必死に走り滑り込みセーフといったところか、ギリギリ少年を抱え助けられた。
 意識を取り戻したのか少年は叫んで逃げてしまった。

「これは重大な案件ですね……」

 前回は生きた人間が事件を起こしたが、今回は気配が違う。
 明らかに霊の仕業であることがわかってしまった。
 殺は静かに息を吐いて突撃の意思を固めた。

 学校は鍵がかかっているが、人間の作りしものくらい神や妖には関係ない。
 それはもちろん霊もだ。
 Mはドキドキですわね!と一人張り切っている。
 だが他の者は至って真面目に考えて行動をしていた。

 するとあることに気づく。
 そう足音が一人分多いのだ。
 嫌な予感がよぎる。
 其に何かの気配……まるで獲物を品定めする様にじっとりとしている。

 殺は振り向いた。
 だが自分たち以外誰も居ない。

「どうしたのじゃ?殺」
「……いえ、何も」

 その時、殺は気付いた。
 これは学校自体が悪霊に乗っ取られていると。

 殺たちは歩を進める。
 あの少年が落ちた屋上まで。

 カラン、カラン、カラン。

 下駄の音だけが響く。
 誰しもお喋りなんてする余裕はどこにもないだろう。
 無機質な音を響かせて屋上までの階段を上っていく。
 屋上に着くと酷い瘴気が漂っていて即座に悪霊の仕業だと判断した。

「これは……酷いのう……」

 御影すらも吐き気を覚える程の瘴気だ。
 たくさんの悪霊の気配を感じる。
 それらが全て屋上に集まっているのだ。
 おそらく何かに引き寄せられて……。

 殺が冷静に辺りを見回したときだった。
 女学生が一人屋上のフェンスを乗り越えていたのだ。
 殺は急いで走ったが間に合わなかった。
 殺は学校の校庭を見つめる。
 そこには屋上から落ちてぐちゃぐちゃになった少女がいた。
 だが次の瞬間、誰もが驚愕した。

 なんと少女の死体が消えていたのだ。
 するとまた目の前に少女が現れる。
 焦りを覚えた殺はその腕を掴んでしまった。
 少女はゆっくりと振り向く。

 首だけが振り向く。

 見えた表情はにんまりと笑っていて、顔は紫色であった。
 殺はこれは危険と判断を下して少女から離れようとした時にはもう遅かった。
 少女は殺を巻き込んで屋上から飛び降りたのだ。

 ひゅーん、グチャ。

 少女は潰れる。
 だが殺にとってはこれくらいの高さなら痛くも痒くもない。
 無傷の殺を見た少女はとても恨めしそうな目で殺を睨む。

 少女は一言。

「死んでしまえば良かった」

 そう答えた。

 少女はまた屋上に登る。
 それを殺は屋上まで飛んで、少女に追いついてみせた。

 屋上での彼女の姿を見た殺は即座に己の刀を構える。
 少女は憎しみを隠せていないといった表情で殺を見つめた。

 殺は冷静に刀を振るう。
 刀は風を斬った。
 少女は斬られていなかったのだ。
 少女は呆然と何が起こったのか理解出来ていない様子だ。

 だが一つ言えるのは少女の周りの悪霊が消えて瘴気も無くなっていると言うことだ。
 少女の顔も普通の女の子になってる。

「貴方の重い荷物は全て取り祓いました。悪霊が取り憑いて余計憎しみが湧いていたのでしょう。情状酌量の余地はありますから罪は軽くなるでしょう」

 少女は暫く呆然としていたが、理性を取り戻した時に叫んだ。

「何で私の罪が軽くなるの!?酷いことをしたんだよ!?情状酌量っておかしいじゃない!早く地獄に落としてよ!!」

 そう言った。
 少女は死ぬことで、罪を償うことで楽をしようとしていた。

 殺はそんな少女を平手打ちする。
 平手打ちをされた少女はただ頬をおさえ、呆然とした。

「何が地獄に落としてですか。貴方への罰は罪を償わさないこと。罪人の望むことをさせないのが罰なんですよ。罪人如きが口を開くな。汚らわしい」

 殺は更に淡々と喋った。

「それに、人を殺しておいて今更罪を償いたい?とんだ馬鹿だ」

 ついには少女は泣き出したが殺はお構いなく少女を地獄に連れて行ってしまう。
 その間、皆は少しだけ気まずそうであった。




 少女は結局、情状酌量が認められて比較的に軽い地獄に落とされた。
 裁判の間は少女はずっと地獄に落として!と泣き叫んでいたそうである。
 裁判の中、殺はただ機械的に働き少女のことには興味がないといった風だった。

 人間には興味があるが亡者には興味がない。
 それが彼だ。
 残酷な性格。
 仲間思いで人間を気にかけ優しく……。
 それが彼だが亡者には興味なく裏切り者はどれだけ仲良くしていたとしても躊躇なく殺す。
 彼は残酷だ。

 殺は仕事を一つ終えた風にお菓子を食べる。
 皆も少し休んだり馬鹿なことを喋ったりしている。
 そう、皆は亡者なんてどうでもいいのだ。
 彼らは笑う。
 無邪気に酷に笑う。
 其の光景は人間が見たらこう言うだろう。

「歪んでいる」



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