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すべてを知るまで
しおりを挟む殺の力は昔より強くなっていた。
それは冥王と渡り合えるくらいに。
本人は自覚はある、そしてそれは確実に今もゆっくりと膨れ上がってきている。
殺は己の力をどうすべきか常日頃ずっと考えていた。
今は制御出来るが、もし制御出来なくなったら……。
彼はまた悩み頭を抱える。
こんな時はチョコレートを食べよう。
そう思い殺は一口サイズのチョコレートを取り出して口の中に含む。
口の中でゆっくり溶けていく其は悩みごとまでは溶かしてくれないようでまたもどかしい思いに戻される。
自分の家に居るんだ、仕方ないから少し休もう。
そうしたら答えが出てくるかもしれない。
彼は畳の部屋で寝息を立てながら眠りに落ちる。
「……?」
殺は知らない部屋にいた。
だが少し自分の家にそっくりな気がする。
殺は瞬時にこれは夢だと判断してちょっとだけこの場所で休むことにした。
その時だった。
殺は瞬時に起き上がり身構える。
何者かの気配を感じたからだ。
その瞬間にこれは夢ではない可能性を孕みはじめて殺を警戒させる。
すると……。
「直接会うのは初めてですね」
雅とも言えるどこか幻影的な女性が姿を現す。
優雅に歩き近づいてくる女は殺の警戒心などに怯むこともなく、慈しむかの様に彼の目の前に立つ。
殺は何故だか逃げられなかった。
冥王のときの恐怖とは違う……彼女の前では安心してしまったのだ。
殺が力を緩めたときにはもう女性は殺の頭を撫でていた。
殺は呆然としながら問いかける。
「貴方は……不幸の鬼?」
「よく気づきましたね」
不幸の鬼はゆっくりと笑う。
殺はやはりかと呟き鬼の手をはらいのける。
鬼はおやおやと言った風に微笑んだ。
殺は声でわかると少し睨みながら発言をする。
「ここは?」
「私の家です、では本題に移りましょう」
不幸の鬼はそう呟いた。
本題?それはどういうことだ?
殺は再び体を身構える。
だが鬼は、そんなに緊張せずともと笑う。
「貴方の力についてです」
「私の力……?」
鬼は真剣な顔つきに変わった。
殺も思わず釣られて顔が強張る。
「貴方の力は英雄に選ばれたときに私の力が混ざって出来たのです」
殺は一瞬で理解する。
彼の判断能力と冷静さはもはや一級品だ。
すぐに自分がより強くなった理由が解明出来て彼はのんびり、なるほどなと考えていた。
鬼は殺が混乱すると考えていたのか、「おや、理解が早いですね」そう話しかける。
殺はいつもの真顔で不敵に答えた。
「これくらい冷静ではないと神の上に立てませんからね」
鬼は少し笑った。
なるほど、どおりで私の力を受け入れられたほどだと考えながら。
不幸の鬼は笑顔で問いかける。
「私の力を使いこなせずに死ぬ可能性がありますが、覚悟はありますか?」
殺はにやりと笑った。
「死にたくありませんからね、死なない様にします。だから覚悟なんてありません」
予想の遥か上を向いた答えに鬼はしばらく唖然とする。
鬼はとうとう笑いを堪えられなかったのか優雅だが大きな声で笑う。
本当に面白い方だ……そう思いながら。
殺は何故、鬼が笑っているのかがわからずに少し苛ついて持っていた煙草を吸う。
不健康なのは分かっているが、今現在は中毒者になっている為やめられない。
鬼は健康に悪いですよと煙草を奪いとる。
殺は怒ろうとするが鬼の優しい笑みに調子を狂わされる。
結局は怒れなくて溜め息を吐く殺は少し疲れていた。
それを見た鬼はここで暫く休んで良いのですよと囁く。
殺は仕方がなくこの世界で休むことに決めた。
「私の家は現在は貴方の家になっているのですよ。まあ、私が住んでいたのは今の閻魔殿でしたが」
驚きの言葉だった。
どおりで似ていると思ったら……彼はまた一人納得する。
鬼は少し懐かしそうに部屋を見渡す。
鬼は独り言をたくさん呟く。
けっして独り言ではないがあまりにも悲しい内容の為に独り言と思い黙る。
昔は閻魔と遊んだとか人間はすぐに死んだとか……。
私は閻魔に重荷を背負わせてしまったとか。
そう呟く。
殺は鬼の隣に座り先ほどのお返しとでもいうように頭を撫でる。
不幸の鬼は少し驚いたようだがすぐに嬉しそうに微笑んで殺の肩に顔を埋める。
殺は可愛らしいと思いながら撫でる手を止めない。
この時が、幸せが永遠に続けば……?
ん?、おかしい。
幸せ?
ここに居るのは不幸の鬼だ。
不幸を呼ぶのだぞ。
殺は疑問が浮かび少し考えこむ。
すると鬼は「まだ知らなくて良い。もっと後で良いのです」そう答えた。
殺はまだ、知る時ではないということかと判断を下してゆっくりと目を閉じる。
ゆっくりと深淵に落ちていく感覚がした。
足場も無い、先程の安心感もない。
でも彼は笑った。
これが私の日常だと……。
「殺ーーー!!」
誰かに名前を呼ばれる。
重たい瞼を開けば、そこには人殺し課の職員が集っていた。
いつの間に人の家に入りこんだんだ?という疑問はもう考えないことにした。
何せ考えても門番が入れたに違いないのだから。
「ずっと眠っていて不安になったぞ」
サトリはそう話す。
殺は急いで外を見るともう夜になっていた。
彼はもうこんな時間になったのかとぼーっと考える。
先ほど見た夢は感覚が残るほど鮮明に覚えている。
サラサラの髪を撫でた手は温もりを求めている。
あの暖かな温もりがまた欲しいと願ってしまう。
殺は手を見る。
するともう温もりはもらっていたではないかと思い出す。
握ってもらった手は確かに暖かかった。
殺は静かに微笑む。
殺は振り返る。
皆を見つめて今日は泊りませんか?そう訊ねる。
皆は何故かわからないがご馳走になれるなら!と未だかつて見たことない笑顔ではしゃいでいる。
もちろん馬鹿三人が騒いでいるだけだが。
殺は少し呆れながらも、夕飯はもうすぐですよと囁く。
殺は皆で夕飯を食べに部屋を出た。
その部屋は誰も居ないが何故か誰かが守っているかの様な温かい空気に包まれていた。
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