地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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牢獄にて

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 とある牢獄。
 重罪を犯した妖や神しか入れない場所に殺は立っていた。
 そこは昔は酷く汚い環境で悪臭が漂う最悪という言葉が似合う場所であった。
 だがそれは昔の話だ。
 今現在は何故かとても清潔で暮らしやすい環境になっていて、わざと犯罪を犯してでも入りたいと思うくらいなのだ。
 だからこそこの環境は秘密にされている。
 殺はこれを良く思わないからこそわざわざこの牢獄に赴いた。

「罪人に似合わないほど生活レベルが高いですね……」

 殺は人間の罪は気になるが、妖たちには全く興味が無いどころか寧ろ早く処刑の制度を作りたいと思っているほどだった。
 彼は優しいが、残酷。
 前にも記述したとおり裏切り者とはどれほど仲が良かったとしても即座に裁いてしまう。
 殺はそれを繰り返してきた。
 全ては閻魔大王の為に。

「妙に騒がしい……」

 ガヤガヤと騒がしく賑やかな声に嫌悪感を抱く。
 殺はすぐに声がする方向に向かって歩く。
 そこに広がっていたのは平等王を中心に皆が笑っている光景であった。
 殺はすぐに理解した。
 環境が変わったのは平等王の所為だと……。
 殺は平等王の方を見つめていると平等王が気づいたのかこちらへ駆け寄ってくる。
 殺は溜め息を吐きながら平等王に近づく。

「罪人相手に何をしているのですか?平等王様」

「雑談を交わしていただけだよ!」

 純粋無垢に答える彼に殺は調子を狂わされる。
 平等王は腐っても平等王なのだ、罪人と一緒に居られてはこちらが困る。
 殺は頭を悩ましながらどう話すべきか考える。
 すると平等王は言った。

「彼らは本当は優しいんだよ」

「は?」

 殺は呆れてしまった。
 罪人が優しい?そんなことはどうでもいい。
 どれだけ優しくても重罪を犯したからこそ今、この牢獄に彼らは存在するんだ。
 性格なんて関係ない。
 殺は目線を広間へ合わせ、どうでも良さげに罪人を見つめる。
 平等王はそれを悲しそうに見つめている。
 悲しそうに見つめながら彼は呟いた。

「閻魔は……。僕にそそのかされて重罪を犯す寸前だったよね」

 殺は面倒そうに、それが?と返す。
 平等王は更に悲しそうにまた喋る。

「みんな、罪は犯したくないんだ。でも……そうでもしなきゃ駄目なときがあるんだ」

 殺はとうとう鼻で笑ってしまった。
 平等王という立場を持ちながら少年に同情して罪を犯し、挙句には罪人を庇う発言。
 殺にとっては馬鹿らしくなった。
 それを見ていた平等王は彼をこう例えた。
  歪んでいると……。

 だが今更の話だと平等王は悟った。
 人殺し課は全員歪んでいるのだ。
 優しく歪んでいる……そんな彼らに自分の常識は通用しない。
 そう考えている平等王に対し殺は堅苦しい顔つきで、「この牢獄で一体何をしているのですか?」と訊ねる。

 すると平等王は少し嬉しそうに「人生相談にのっていたんだ!」と話し始める。
 人生相談といっても彼らにはもう人生も何もないのに何を相談にのるんだと殺は疑問に思う。
 平等王は嬉しそうにこんなことがあったんだ!とかあんなことが!と話し始めているが、殺にとって正直どうでもいいとことで最終的にはつまらなさそうにぼーっとしていた。
 それを平等王は見て憐れみの目を殺に送る。

「君は裏切りに慣れてしまったから辛さを忘れてしまったんだね……」

「そういえば最初は辛かった様な……?」

 殺は何かを思い出す。
 どこか辛い昔を……。
 最初は辛かったのだろうか?
 殺は考えていくうちに思い出してきた。
 最初はとても辛かったこと、裏切り者が出ないことを願っていた頃を……。

 その瞬間に恐怖が彼を襲った。
 親しい仲間や閻魔が罪を犯したらと……。
 殺は急に焦った。
 前回、御影とサトリが消霊を行おうとしていたことを。
 あの時御影が止めなければ……。
 彼らは罪を犯すことになっていた。
 その瞬間に罪人が罪を犯す理由をだんだんと理解していっていた。
 殺は顔色が悪くなる。
 それを見た平等王は「やっとわかったんだね」と呟いた。

 殺の頭はごちゃ混ぜになり始める。
 彼の常識が覆されたのだから。
 いや、本当に優しかった頃に戻され始めているのだから。
 平等王はそれを見つめて、それでいいんだと語りかけた。

「その思いを抱えながら罪を裁くんだ。相手を無機質に裁くのではなく生きているものとして裁くんだ。亡者は生きていた者と考えて裁くんだ」

 彼の言葉は大きかった。
 殺は早めに出された答えに戸惑いながらも頷いていた。

「答えなど自分で考えなくてもいい。答えを出してもらって意味を自分で考えればいいんだ」

 殺は自分の頭の中を見透かされている様だった。
 平等王は笑う。
 殺は頭を撫でられながら考える。
 平等王の言葉を考える。
 殺は何かを掴んだ気がしたが、何を掴んだのかわからずに思考を停止する。
 それを見ていた平等王はこれは宿題だと囁いた。
 上に立つ者としての宿題。
 宿題……。
 殺は本当は意味をわかっているが、敢えてまた後で考えることにした。

 殺は少し変わった。
 やはり無慈悲ではあるが後で考える様になった。
 考えるだけだが、それでも充分だ。
 殺は上に立つ者だ。
 その資格を取る為に宿題についても考える。
 彼はしっかりと上に行くべく学んでゆく。
 上に立つ為には考えながら生きていくのが大切だ。
 だから学びながら殺は生きていく。



 殺はまたあの牢獄に行く。
 罪人に肩入れはあまりしないが、ちゃんと彼らを生きている者として、権利がある者として認識しながらお喋りに花を咲かす。
 それを平等王は楽しそうに見つめて、輪に入る。
 平等王が参戦したことによってお喋りもより盛り上がり皆が笑顔になった。



 数時間経った頃だった。
 殺と平等王は二人きりになっていた。
 そう、殺は平等王に呼ばれたのだ。

「どうしたのですか?」

 少し殺は身構えて話しを聞く。
 すると平等王は答えた。

「秦広王は危険だ」

 殺は冷静だが言葉の意味が分からなかった。
 秦広王?どういうことだ?
 その疑問が頭をよぎる。
 平等王はそのまま続けた。

「あれは目的の為なら手段は選ばない。気をつけて……」

 手段を選ばない……?何か目的があるのか?
 殺は少し考えた。
 だが今は出来ることはない。
 平等王の言っていることは彼の顔を見る限り嘘ではないことはよく分かる。
 殺は暫くの間は秦広王のことを警戒することにした。




 嗚呼、殺殿!
 なんと麗しく、勇ましいことか!
 殺殿……彼の方は私の物……。
 他の者には渡さない。
 だって私を愛してくれているのは殺殿だけだもの。
 あの日、私に向けてくださった笑顔……。
 絶対に忘れはしません。
 殺殿も忘れてませんよね。
 私たちが愛しあったあの日を……。


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