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人間の友と不穏な影
しおりを挟むとても小さな子供の頃、殺はある人間の小さな少女と契約を結んだ。
当時の殺は溢れ出る人間研究の欲が抑えきれずに人間の世界へ降り立ってしまったのだ。
だが何かを間違えて、いつの時代に来たのかわからずに彼は困ってしまう。
一人で勝手に人間界に来てしまい、見たことの無いものをその目に焼き付けて人間の世界を恐れてしまったのだ。
彼は少しだけ泣きそうになるが、普段から仕事をこなしている分ある程度は冷静に行動が出来る。
殺は一人で歩道を歩いていた。
街行く人間は殺の着ている狩衣が珍しいのか自然と彼を見つめていた。
だがコスプレと思われていて特には何もなかった。
とうの本人は地獄への帰り道から離れてしまい迷子になってしまったっていた。
殺はやはり、また心細くなる。
その時だった。
「どうしたの?迷子なの?」
殺と同じくらい小さな少女が話しかける。
少女は心配そうに殺を見つめる。
だが殺は強がって「迷子ではありません。さっさと離れてください」と強めに発言してしまう。
これも寂しいが故にでた言葉なのだろう。
だがそれは少女には伝わる筈もない。
少女は言葉をそのまま受け取り泣いてしまったのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
少女と殺に人間の視線が集まる。
流石に目立ちすぎるのはまずいと考えた殺は少女の手をとり走って街をあとにした。
気づけば少女は泣き止んでいて人気のない場所についていた。
殺はまた困り果てる。
何せ地獄への帰り道から遠ざかってしまったのだから。
殺が頭を抱えて悩んでいると少女は「私も迷子になっちゃった!お揃いだね!」と、そう楽しそうに発言した。
そこで、また殺は酷く後悔して頭痛と胃痛が両方襲ってきてしまう事態になる。
何で人間の少女まで連れてきてしまったのか……。
自分だけが街をあとにしたら良かっただろうと。
だが少女は楽観的でそこらに飛んでいる蝶々に夢中になる。
殺は今すぐにでも置いていってやろうかと考え始める。
だが少女は「お揃いだから私は怖くないよ!」と言いながら殺を強く抱き締めた。
殺は結局のところ情が湧き、少女を置いて行けなかった。
殺と少女は歩く。
木々が生い茂り太陽が遮られている森を歩いていく。
少女はどうやら冒険気分で張りきっている様だ。
殺はそれを見ながら帰る為に歩いているだけなのにと少々だが苛ついていた。
木々が生い茂るそこは雑草も生い茂り肩までの高さに育っている。
雑草を払いのけながら帰り道を探す。
すると木々が周りを囲む吹き抜けの空間が現れた。
雑草はそれほど生えてなく寧ろ麗しい花々が咲き誇っているなんとも温かみのある落ち着ける場所であった。
少女は何かを思い出したように殺にドヤ顔で自慢する。
「ここ、実は私の秘密基地なの!」
殺は「あっそう」と返すとすぐさま立ち去ろうとする。
そんな殺の腕を掴みながら少女は「一緒に遊ぼう」とせがんでくる。
殺的には少女はもう家に帰られると分かったのだから今度は自分の帰り道を探したい気分だった。
だが、少女はしつこい。
結局は殺は根負けをしてしまい遊ぶことになってしまう。
少女は笑顔だ。
「鬼遊びをしようよ!」
「鬼遊び?」
殺は疑問に思い鬼ごっこのことかと訊いてみたがどうやら違うようだ。
少女が言うには少女のお祖母様の作った遊びらしい。
ルールは簡単。
鬼を呼び出して鬼と仲良く遊ぶことらしい。
殺は正直言って胡散臭い遊びだと思っていた。
そう、思っていた。
少女が紙と筆を取る。
よく筆を持ち歩いているなと思えば紙に呪術に使う陣を書いてゆく。
胡散臭い、そう考えていた。
だがそれは紛れもなく本物だった。
何せ召喚されたのは殺自身だったのだから。
少女は目をパチパチさせると状況を理解したのか「鬼さん見っけ!」そう叫んだ。
少女は殺に鬼だったんだーー!と笑いかける。
だが、とうの殺は少女を叱りつけた。
何せ本物だったのなら危険すぎるからだ。
だが少女は悪びれもせずに殺にまた笑いかける。
「この陣は優しい鬼しか召喚出来ないんだって!」
殺は再度、陣を確認してみる。
確かに悪いものを呼ぶような陣ではなかった。
殺は安心を覚えるが少女に無闇に鬼を召喚するなとも伝える。
何せ無害な鬼の殆どが獄卒だからだ。
仕事を邪魔されてはいけない。
それにしても何故、地獄の者を召喚出来るのか?
少女は少し落ち込んだ風に「はーい……」と答える。
そんな少女を見て殺は少し言い過ぎたと思い、「仕方がないから遊んであげます」と呟いた。
そこからは休憩無しで二人で遊び、交流を深めた。
殺は遊び道具を召喚して少女と遊ぶ。
少女は蹴鞠が気に入った様だ。
美しい見た目にも惹かれて少女は鞠を手放さなかったので殺は結局あげることにした。
遊んでいる最中に殺は思い出す。
何故、あの陣を知っていたのか。
何故、鬼を呼び出す必要があったのか。
殺は少女に訊ねる。
少女は笑って答えた。
「うちの家はご先祖様が鬼と契約してるの!その鬼は悪い鬼なの!だから良い鬼を呼び出して私たちを守ってもらってるの!」
悪い鬼に殺は反応する。
少女は話を続けていく。
「じゃないと昔、ご先祖様が願いを叶えてもらったまま逃げちゃってね。契約違反だから良い鬼に守ってもらわない限りその鬼に子孫を食べられちゃうの!」
殺は少し考える。
暫くの間、静かな時間が流れた。
殺は何かを閃いたかのように少女の手を取る。
殺は「悪しき鬼との契約を破棄しましょう」そう呟いた。
殺は博識だ。
知識ならいくらでもある。
あの静かな時間は頭の引き出しから知識を引っ張りだす為だったのだ。
殺は少女から筆を借りて陣を書く。
彼は筆を置き呪文を唱えていった。
「人間に取り憑きし悪しき鬼よ、善と呼ばれ生き永らえてきた我等の命令に従え」
殺は続けて言葉を放った。
「この一族から去れ!!」
その時であった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
陣の中から姿を現したのは真っ黒の闇であった。
姿は闇の所為で見えないが、どうやら声的には男の様だ。
鬼は苦しみ悶える。
「俺はこの者の先祖の繁栄の願いを叶えたんだ!生肝くらいもらっても構わないだろう?!」
鬼は苦しそうな声で話すが殺は知らん振りだ。
「……!?貴様、五人の英雄の一人か!許さない……!あの方の邪魔をするのは許さない!!」
五人の英雄?
この時の殺はまだ五人の英雄のことを知らなかった。
だが混乱しながらも術を鬼に放っていく。
「人間界から去るが良い!」
「うぁぁぁぁぁぁぁ?!」
とうとう術が完成して少女の一族が悪しき鬼の呪縛から放たれた。
少女は純粋に殺に礼を言う。
殺は初めて人間に礼を言われて少しだけ舞い上がった。
そして少女を見ながら静かに小さな声で呟く。
「私と契約しませんか……?それと……」
殺は煮えきらない態度で言葉を詰まらす。
それを見た少女は嬉しそうに殺の手を握る。
殺は若干戸惑いながらもその手を離せないでいる。
橙色の空に地面に伸びる長い影。
花はまた違う一面を見せている。
「契約はもちろんだけど、先ずは友達になろうよ!!」
殺の考えを見透かしていたかのように少女は幸せそうに語りかけた。
殺にとって、友達という言葉は嬉しすぎて幸せの限界を余裕で超えてしまった。
殺はもじもじしながら「じゃあ、友情の証として握手しましょう」と堅苦しい言い方だが勇気を振り絞って言葉を出した。
少女は迷うことなく殺の手を更に握り「約束」と囁きながら殺を見つめた。
殺が少しはにかむと少女の後ろから声が聞こえた。
どうやら少女を探していた様である。
「美咲ちゃん、大丈夫?お祖母ちゃん心配だったよ」
美咲か……可愛らしい名前だと思っていたら少女に名前を聞かれた。
「殺」
それだけ答える。
意味を知られたら離れられる気がして。
少女は綺麗な名前と楽しそうに笑うが殺にとっては良くない名前だった。
「貴方はどうしたの?」
少女のお祖母様に訊ねられると少女は嬉しそうに殺のことを優しい鬼さんと答えた。
その言葉で殺が鬼であることを察したのか少女のお祖母様は「忙しいのにこの子と遊んでくださりありがとうございます」と言いお辞儀をした。
殺はやっと帰られることに気づく。
一回召喚されれば戻るときは自動で地獄にいく。
つまり少女が召喚を解けば地獄に戻れる。
殺は少し寂しいが少女に解除を願った。
少女は寂しそうな顔をしながらも陣が書かれた紙を破いていく。
すると殺の体は少しずつ薄れていった。
ちゃんと地獄に帰れている証拠だ。
「さよなら。また今度遊ぼう」
殺は精一杯の笑顔で言い放った。
少女も手を振りながら「またねー!」と叫んでいる。
こうして少女と殺の迷子の物語は幕を閉じた。
懐かしい記憶。
確か……あや?とかいう鬼と遊んだ。
その思い出は優しくて今でも私の宝物なの。
あやさん……また会いたいよ。
何で会えないの?
また遊ぼうよ。
懐かしい記憶です。
美咲さんと遊んだかけがえのない大切な記憶。
その思い出は今でも私を温かい気持ちで包んでくれる。
美咲さん、また会いたいです。
地獄の仕事が少しでも減ればまた会える。
また会えるんです。
会えたらまた遊びましょう。
嗚呼、憎い。
奴等の先祖の願いを叶えたのに生肝は食いっぱぐれるは契約は破棄されるは……。
それにあの紅い髪の野郎……五人の英雄だと!?
それならばあの方の敵だ。
幸の切り札は全て絶対にズタボロにして殺してやる。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
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