地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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悍ましい紅

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「殺様……いや、殺」

「何が言いたい?真」

 目の前には赤が広がる。
 酸素を取り入れて褐色と化した赤の中で映える悍ましい紅色。
 刀から滴る黒い血の中を見て笑うのは、その悍ましい奇妙な紅。
 彼は真っ赤になりながら微笑む、殺しを躊躇しなくなった彼には情けなど残っていない。

 裏切り者に新しい薬を使って拷問して、最期は新しい武器の試し斬りに終わらす。
 全ては新しいものを試す為に殺した。
 だが彼には罪悪感は無い、何せ裏切りは……裏切りこそが彼にとっての悪行だからだ。

 今の十王が統治するこの世界、揺るぎない世界を揺るがそうとするゴミクズは捨ててしまえば良いのだ。
 それが彼の考え方。

「何も文句なんて無いさ、今のお前が本来なんだから変わる必要も代わりも要らない」

「普通なら咎められると思ってました。矢張り貴方は私にとって居心地のいい存在だ」

 彼らは笑う。
 この世界は正しくて絶対、それが今の時代の摂理であるからしてそれに刃向かう必要も意思もない。
 いや、意思は必要だ。
 必要最低限の意思を持つことは重要であり世界を廻すのに意見は絶対である。

 より良い世界は人の意見を聞き入れることによって出来るのだから。
 刃向かうことさえしなければ考えることは許されるのだ。

 殺は少しだけ顔を歪める、まるで自分の考え方は不幸の鬼の家族の方の考え方の様な気がして。
 否、一緒なのだろう。
 その世界の摂理に反さない様に完璧な姿で居ること……。
 だが今は彼らのことはどうでもいい。

 今の世界に必要な者は閻魔大王であり十王だ。
 それ以外はすべての歯車を回す一部としてしか必要がないのかもしれない。
 歯車の自分は昔の摂理とやらを殺しにいくだけだ。

「なあ、真」

「なーに?」

「完璧って何でしょうね?」

「知らね」

 殺は慣れた様に死体の処理を式神に命じながら「完璧」という言葉についてどう思うか訊いてみたが、あっさりと返された言葉に呆れて溜め息を吐いた。
 だが彼はすぐさま「完璧なんて今の世界には無いんだから知る訳が無いだろ」と言葉を訂正してきた。

 確かに、十王である閻魔大王は元は人間でありこの世界には不完全が多いのだ。
 だから「完璧なんてあるわけない」に辿り着く。
 ならば、閻魔の前の世界……今の摂理ではない時代は完璧だったのだろうか?

 だが殺はすぐに興味を無くす。
 何せ今の世界とも摂理ともに関係のない時代なのだから。
 唯、自分は閻魔大王の為に戦うだけ。
 それ以上も以下もない。
 殺は笑う、世界の摂理と共にある自分を信じて笑う。

 生きている限りは摂理に反しない、閻魔大王と共に。
 理想を追い求めて、かの王の隣へ立てた自分を誉れに思い生きていく。
 完璧がない今の時代だが完璧の他に何かがある、殺はそれを信じて今日を生きている。

「お前な、仕事があるんだから血塗れでいくなよ」

「分かってますよ」

 いつも狩衣を着ていたが、今日の彼は黒いコートを纏って血に染まっている。
 いったい、血塗れた服は誰が洗っているのだろうか?と真は気になりだすが口には出さない。
 彼らはお互いのプライベートには干渉しない、だからこそ永年の友人だ。

「血も滴る良い男ってか?」

「物騒ですね、良い男は否定しませんが」

「堂々としてるな」

「お陰様で」

 良い男という言葉に少し機嫌が良くなる殺を見て単純だと思うことを隠す。
 まあ、仕事を終えたばかりなのだからそうなるのも当たり前と言えばそうだが。
 血生臭い仕事は幾らでもあるが故に仕事を終わらせたらストレスが溜まっているのだろう。

 こんな風に殺してみたかっただとか。
 殺はいろんな殺し方を考えるのが好きだと言うことを閻魔が知らないのが信じられない。
 おそらく殺は猫をかぶっているのだろう。

 今日も裏切りを殺す。
 そんなことが日常なのは自分たちがこの世界の摂理の歯車だからだ。
 だが、それが嫌ではないから今日も生きて殺す。
 それで良いのだ、生きている証拠だ。

 いつも裏切り者を殺したり裏で動くときに着ている黒いコートを脱ぐ。
 毎回だが、どうやって着替えている工程が見えない程に早く着替えられるのか?
 いつもそんな疑問を浮かべながらも真は着替えを見送る。

 黒い洋服から白い狩衣に変わる。
 殺は爽やかな笑顔で仕事に向かうのだろう。
 黒い顔から白い顔に変わった様に見えたがあながち間違いではない。
 これから普通の顔で態度で表の仕事をこなす。
 それが異常に感じながらも普通にも思えてわからなくなる。
 だが一つ言えることは「彼は狂っている」
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