61 / 167
術者
しおりを挟む肉を切る。
手から滴り落ちる血の雫をひと舐めすれば男は恍惚の表情を浮かべた。
肉を、骨を叩き粉々に食べやすい大きさで揃えれば皿に綺麗に盛り付ける。
真っ赤に染まっているそれは自然の赤色で見る者の目を惹き付けてしまうだろう。
肉とは何て芸術的な食べ物だ、美味しくて美しい。
男は同族の肉を食べながらこれから男を倒しに来るだろう者を待つ。
楽しみに楽しみに待ちわびる、強い者の肉を食べることを……。
~~~~
殺たち、人殺し課は草木が生い茂る廃墟の前に立ち尽くしていた。
小さい、公共施設であっただろう場所。
廃村に建つそれはもうボロボロだ。
今にも崩れそうな外壁、落書きがされていないそれは人が立ち入らないということを現していて逆に不気味で仕方がない。
そんな奇妙な建物にも動じずに足並み揃えて彼らは中へ入って行く。
だが中へ入ると彼らは思い思いの驚愕の表情を浮かべることとなる。
「……中が広い」
「空間を操っているのか?」
見た目からかけ離れた広さをもつそれに警戒を抱く。
妖術に長けた御影はここまで空間を操れるということはそれなりに強いのだろうと見解を示した。
するとサトリが顔を歪めて言葉を放つ。
「ここにいる敵は一人じゃない」
「なんじゃと?!」
少し声をあげて驚く御影に静かにする様にと殺は宥める。
サトリは「話を続けて良い?」と訊ねる。
勿論のことだが聞かない訳にはいかないということでサトリの話に皆んなが耳を傾けた。
「複数の敵はおそらく式神だと思う、今回の敵は相当な術者だよ」
強い術者という言葉に皆が納得する。
この空間を操る術を見れば強いというのは一目瞭然であった。
それなら強い術者が従える式神も相当な強さなのだろうと陽は顔を顰める。
すると沢山の足音が聞こえてきた。
がしゃりと鎧が耳障りな音を響かせる。
おそらくはサトリが今話していた式神が気配を察知して集まり始めたのだろう。
四方八方からがしゃり、がしゃりと音が鳴り周りを囲んだ。
殺たちを囲んだそれは古い鎧兜を纏った骸骨の様なものだった。
あの短い時間に囲まれるとは、してやられたと殺は頭を悩ませる。
するとMが笑顔で鞭を取り出した。
その瞬間に一部の式神が吹き飛んで骨をバラバラに崩した。
「ここは私と陽様にお任せください」
「何で僕も?!」
「貴方も強いですから大丈夫かと」
「うっ……」
陽は焦りながらも逆らえないと本能で察知する。
仕方がないと言いながら彼は冷たい笑みを浮かべた。
殺はそれを見て二人なら任せられると信じて御影とサトリと先に行く決意を固める。
「無茶はしないでください」
「わかっている」
この会話を交わした直後にお互いの進むべき方向へ彼らは向かった。
殺たちは唯一の階段へ向かい、陽とMは眼前の敵へ向かう。
「数には数を」
陽は笑いながら何かを唱え始める。
その瞬間に地面が渦を巻いて黒く歪み始めた。
歪みから這いずり出てくる者は敵の式神と同じ見た目の骸骨。
「やはり貴方もお強いですわね」
「これくらい出来なければ駄目だろう?」
二人は黒く嫌味な笑みを浮かべれば敵の方へと足を向かわせる。
何十と数えられない程の沢山の式神はいったいどれほどに保つかと楽しそうにMは考える。
「さあ、始めよう」
陽の言葉を皮切りに戦いの火蓋が切って落とされた。
「……階段が長すぎる気がしてしまうのですが?」
「実際に長すぎると思う」
敵大将の下へ向かう殺たちは長すぎる階段と暫く戦うこととなる。
~~~~
やっと戦いに来た。
嗚呼、楽しみだ。
どうやって調理をしようか?今から悩んでしまう。
強い者を食べれば更に強くなれるんだ、早く、早く殺させてくれよ。
殺したい、食べたい、待ちきれない。
この気持ちはお前らにわかるか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
辺境の無能領主、聖女と信者に領地を魔改造されて聖地と化した件〜俺はただ、毎日ジャガイモを食って昼寝したいだけなんだが?〜
咲月ねむと
ファンタジー
三度の飯より昼寝が好き。特技は「何もしないこと」。そんなグータラ貴族の三男、アッシュ・フォン・バルバドスは、ついに厄介払いされ、狼が出るという噂のド辺境「ヴァルハラ領」を押し付けられた。
「これで心置きなくグータラできる」と喜んだのも束の間、領地は想像を絶する貧しさだった。今日の食事も、裏庭で採れたジャガイモだけ。そんな絶望的な日々を送るアッシュの元に、ある日、王都から一人の美しい聖女セレスティアがやってくる。
政争に敗れて左遷されてきたという彼女は、なぜかアッシュを見るなり「神託の主よ!」とひれ伏し、彼を現人神として崇め始めた!アッシュが空腹のあまり呟いた「天の恵みはないものか…」という一言で雨が降り、なけなしのジャガイDモを分け与えれば「聖なる糧!」と涙を流して感謝する。
こうして、勘違い聖女による「アッシュ教」が爆誕!
「神(アッシュ様)が望んでおられる!」という聖女の号令一下、集まった信者たちが、勝手に畑を耕し、勝手に家を建て、勝手に魔物を討伐し、貧しい村を驚異的なスピードで豊かにしていく!
俺はただ、ジャガイモを食って、昼寝がしたいだけなんだ。頼むから、俺を神と崇めるのをやめてくれ!
これは、何の力もない(はずの)一人の青年が、聖女と信者たちの暴走する信仰心によって、意図せずして伝説の領主へと成り上がっていく、勘違い領地経営ファンタジー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる