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悪食の末路
しおりを挟む男は肉を食べる。
そうだ、食べることは生きることに繋がる。
生きる為に強くなる、強くなる為に食べる。
男はそんな普通のことを行うが為に同族を殺して食べてきた。
異常だと思うが男にとってそれは普通なのだ、だから悪気も起きない。
悪いと思うなら最初からこんなことに手出しなどする筈も無いのだ。
さあ、悪意のない悪はどうなるのか?
~~~~
長い階段が終わりを告げる。
どれだけ階段を登ったのかはわからないが登り切るまでにサトリは息を切らしてしまう程だった。
長い道のりを終えれば目の前に現れるのは一つの扉だけであった。
おそらく扉の向こうにいるのだろう、今回の事件の犯人が。
殺は扉にゆっくりと手をかける。
ギイーッと音を鳴らして重い扉が開けば血生臭い臭いが部屋から香った。
鼻腔をくすぐる嫌な臭いと言えばいいのだろうか?戦に慣れた者が嫌う臭い。
「ようこそ!人殺し課の諸君!」
部屋に入れば五月蝿い声が反響する。
広い部屋いっぱいに積み重ねられたくず肉に骨。
殺されたばかりなのか下には新しい血が滴り落ちて悪臭を放っている。
「おおっと!名前を名乗らなければ!俺の名前は宮木だ!よろし……もう死ぬから関係ないか」
死ぬから関係ない、男がそう言い放った直後だった。
言い放った殺たちの頭上に術がかけられた岩が浮かぶ。
浮かんだと思えば殺たちをめがけて岩が落ちてきたのだ。
術がかかっているせいかスピードが速くてサトリが避けられきれずに腕に傷をおう。
深く切り刻まれたのかぱっくりと割れている様に見え血が流れ出ている。
「うぐっ!」
痛みが腕を支配する。
堪らず声をあげて腕を抑えた。
「大丈夫ですか?!サトリ兄さん!」
殺が血相変えてサトリの腕を見る。
深く切られたが命に関わるものではないことに安心を殺は覚えた。
安心を覚えた瞬間に殺の顔が変わる。
例えるならば般若、それしか言い様がなかった。
「サトリ兄さん、殺さなければ別に何やっても構いませんよね」
そう言い終わるか否かの時に殺は敵を殴り飛ばしていた。
そう一瞬であった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声を荒げる者を何とも思わずに掴み上げる。
一応だが言っておこう、今回の敵は御影が言う様に強いのだ、だが殺はそれを忘れてしまいそうなほどに強かった。
圧倒的、それが彼に相応しいのだろう。
彼は剣をゆっくり抜く。
般若の表情を浮かべる殺は敵の頭を割るかの様な力で掴む。
グサリと男から音が鳴る。
眼球を、骨を砕いた剣は真っ赤な色に鮮やかに染まってゆく。
耳をつんざく悲鳴を彼は面白そうに笑い飛ばせばまた剣を刺してゆく。
どれほど剣を刺すのか?敵が穴だらけになるまで刺すのか?
だが殺は理性を保っている、だから殺さない。
理性を持って残酷なことが出来るとはある意味だが恐ろしい。
ドカンと破壊する音が聞こえる。
宮木が地面に減り込んだ音だった。
何回も何回も殺は地面に宮木を打ちつける。
打ちつけられた宮木は声を上げることすら出来ずに体を痙攣させている。
意識を手放したり覚醒したりの連続と体の外傷で彼はもう限界だった。
こうなるまでにまだ五分もかかっていない。
強者と弱者、彼らは今この関係で成り立っている。
相手を仕留めようとする強者の殺、息も絶え絶えで逃げ出そうとする宮木。
だが逃げられないのが現状だ。
両腕を両足を粉々に砕く。
もう何を言っているかわからない声が部屋中に響き渡り鼓膜を震わした。
血が部屋を染めていく、赤い絨毯が敷き詰められたかの様な部屋で彼らは地獄絵図を繰り広げる。
「助かりたいですか?」
悲鳴だらけの部屋で殺の声が低く響く。
助かりたいですか?の声に縋る様に宮木は首を縦に振り続けた。
「そうですか……」
にっこりと優しい笑みを浮かべて宮木の頭を放して彼は囁いた。
「助かる訳がないでしょう」
宮木は絶望の表情を浮かべる前に目の前が真っ暗になり……否、目の前が真っ赤になり意識を手放した。
助かる訳がないと言った直後に殺に深く斬り刻まれて倒れたのだ。
「この程度か……まあ、殺してないので良いでしょう。後は警察に身柄を引き渡しましょうか」
真っ赤に染まった彼は笑顔で御影とサトリのもとへと向かった。
~~~~
警察が駆けつける頃には宮木の力は弱まり廃墟も元の広さに戻り、式神も元の紙に戻っていた。
血に汚れた部屋に無残な姿の犯人、あまりにめ悲惨で凄惨で気を失う者も相次いだ程だ。
「殺!大丈夫だったか?!」
「殺様!まさか怪我を?!」
真っ赤な返り血だらけの殺の姿を見て怪我をしたのだと勘違いして陽とMが焦る。
それを見て殺は少し笑いながら「返り血です」と答えた。
だが、それを聞いて陽とMはいったいどんな凄い戦い方をしたのだろうと考えて少し怯えてしまった。
そのくらい彼は血に染まっていたのだ。
「……まあ、無事で良かった」
陽が怯えを振り切り殺に声をかける。
声をかけられた殺は嬉しそうに「はい」と答えた。
もう普通だ。
彼を纏う空気が普通に戻っていた。
いつも通りの彼を見れば先程までの怖さを御影とサトリは忘れてしまう。
だが、これで良いのだ。
これこそが普段の日常で、大切なものなのだ。
だからこれで良い。
そうやって彼らは進んでいく。
さあ、日常を大切に過ごそう。
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