地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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小さな英雄

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「アイスがなぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「五月蝿い」

 悲痛な叫びが上がるが殺のドスの効いた一言に掻き消されてしまう。
 人殺し課に響いた叫び声の主、サトリはただ部屋で崩れ落ちていた。
 ただでさえ炎天下の真夏なのに人殺し課にはエアコンが完備されていない。

 そんな中で仕事をするのは大変だ、だから人殺し課にはエアコンが無い代わりにアイスを食べる権利があるのだ。
 普段ならMが自費で買ってきたクーラーボックスにアイスが沢山入っているのだが、今回は記録的な猛暑が続いている為にアイスの消費が激しくアイスが無くなるという現在に至る。

「でもアイスが無いと仕事の効率が下がるのではないか?」

 陽がそう呟いたのをきっかけに「そうだ!!」とやじが飛び交う。
 皆はアイスが無いと仕事が出来ないどころか熱中症で倒れる可能性がある為に必死でアイスを要求した。

「ですが、誰が買いに行くのですか?まさか仕事をサボるとでも?」

 仕事をサボる、その一言を言っている殺は笑顔だが目が笑っていない、その顔の恐ろしさに皆が後ずさる。
 だがそんな中に救世主が二人現れることとなった。

「私たちが買いに行きましょう」
「買いに行きたいです」

 人殺し課に可愛らしい高い声が二人分響き渡る。
 声の主の方を殺は向く。
 そこにはニコニコと笑顔を向けている小夜子とおつかいに心を踊らしてそわそわしている美鈴が居た。
 二人の楽しそうな空気に殺は少し和まされておつかいを頼むことを決める。

「では、頼みますよ。お金はこちらに」

「はーい!」

 小夜子の陽気な声が上がると同時に美鈴は財布を持って小夜子と一緒に外へ出かけた。


~~~~


 真夏の日差しを日傘で遮る。
 日傘をさしたおかげで大分暑さが軽減される。
 だがそれでも暑いので二人は足早に動いておつかいの任務を早く完遂しようとする。

「暑いですね、美鈴ちゃん」

「そうですね、早く帰って皆んなでアイスを食べたいです」

 他愛の無いことを話す仲になっている二人は普段から一緒に出かける様になっていた。
 人殺し課にやる事もなく居座っているので一緒にお喋りをする時間が長くなり気づけば気兼ねなく居られる友人という関係になっていて楽しい時間を毎回過ごしているのだ。

「新作のチョコ味のアイスクリームが殺様に良さげだと思うのですが、どうでしょうか?小夜子ちゃん」

「良いと思いますよ、私たちは何にしましょうか?まだお店に着いていないけど悩みますね」

「いちごアイスが食べたいです!」

「美鈴ちゃんは甘いものが大好きですね、私はバニラアイスが良いですねぇ。滑らかなものが特に大好きです!」

 二人は幸せそうにアイスクリーム談義に花を咲かせている。
 いつも人殺し課の部屋で和やかに会話をしてアイスを頬張るのが二人だ。
 この二人にいつも人殺し課はエアコンが無いことでの殺人的空気を清浄されて平和に仕事が終わらせられる。

 お店までもう少しの時だった。
 坂道から野菜が転がり落ちてきたのだ。

「誰か拾うのを手伝ってください!」

 お婆さんが腰を痛そうにしながら下り坂を下りてくる。
 美鈴は急いで袋から落ちてしまったであろう野菜を拾いあげて集めてお婆さんに渡す。
 お婆さんが野菜を落とした瞬間に機敏に拾いあげ てしまったので小夜子は何も出来ずにいたが美鈴への賞賛の声をあげた。

「ありがとうございます」

「困った時はお互い様ですから」

 美鈴は笑顔でそう答えた。
 お店までの道のりはあと少し、美鈴はおつかいに戻る。

「凄い!偉かったですよ」

 小夜子は素直に賞賛を送った。
 それには尊敬も込められていて、褒められた美鈴は少し照れて「ありがとう」と言うしかなかった。

「殺様みたいになりたいから」

「殺様みたいに?」

 美鈴が小さな声でそう呟いた。

「だって私は殺様に救われたから」

 美鈴は今現在は母親探しを手伝ってもらっている身、小夜子はそれを思い出した。
 そして救われたのは美鈴だけではない。

「私もですよ、私たちは同じですね」

 にこりと小夜子が笑えば美鈴は笑顔になる。

「同じ……、私たちは一緒!」

「そう、一緒!そして美鈴ちゃんは殺様みたいになれますよ。だって頑張ってますもの」

「本当?嬉しいです!」

 猛暑の中で元気に美鈴は走り回る、嬉しそうに。
 走っていればいつの間にかお店に辿り着いてしまっていた。
 それに美鈴は気づいて「アイスクリーム!」と叫んでいる。

「帰ったらすぐに皆でアイスを食べましょうね」

「はい!」

 嬉しそうにアイスを選ぶ美少女にお客たちは和まされたのは言うまでもない。



「やったぁぁぁぁぁぁ!!アイス!」

「五月蝿いですよ、サトリ兄さん」

 美鈴と小夜子がおつかいを終えて帰ってきたらサトリが待ちきれずにアイスを奪いに行く。
 奪われたアイスは人殺し課の面々へと渡っていった。

「お疲れ様です、よく頑張りましたね」

 ぽんっと擬音がつくかの様に殺が美鈴の頭を撫でる。
 美鈴はそれがとても嬉しくて笑って答える。

「殺様みたいになりたいですから」

「……私で良いのですか?」

「ええ、殺様が良いです」

 殺はそれ以上は何も言わなかった、言えなかった。
 自分を目指してくれる者が居ることが嬉し過ぎて、涙が出そうだったからだ。

 小さな英雄は皆の為に今日も頑張る。
 大きな英雄を志して一日を奮闘する。
 美鈴も、いつか大きくなるときがくるだろう。
 その時を殺は楽しみに待ち続けることを心に誓った。

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