地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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男となれば

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「本当に男になったのじゃなぁ……」

 御影は殺をじろじろ見ながら呟く。
 久遠の呪縛を解くために男になった殺の判断を悪くは思わない。
 だが、女になりたい時期が殺にもあったことがある。
 だから御影は呪いを解く手立てを考えていた分、少し複雑な気持ちだった。

「身長も高くなりやがって」

 サトリが笑顔で殺に身長はいくらになったかと訊き始める。
 男になったからといって彼らは何も変わらなかった。
 寧ろ暖かく迎えてくれた。

「身長は185cmです」

 殺は高くなった身長を自慢するかの態度で話す。
 もう妖術で誤魔化さなくなった身長が殺にとっては嬉しくて仕方がない。
 体も以前よりがっしりとして男と一目でわかってしまう。

「かっこいいですわ」

 うっとりとした目を殺にMは向ける。
 実際に殺はかっこよかった、女の時も凛々しくバレンタインには大量のチョコレートを貰っていた。
 そんな殺が男になれば惚れない女など、まず居ない。

 だが殺には一つ不満があった。
 それは陽がかっこいいと言葉に出してくれないことだった。
 何故、大好きな恋人がかっこいいと言ってくれない?それどころか目を合わせてすらくれない。

 殺は陽の前に立ちはだかる。

「どうです?かっこいいでしょう」

 だが陽は即座に後ろを向いて顔を合わせない。
 それが殺にとってはひどく悲しいことだった。
 だが殺は諦めない、再び陽の前に立ち「どうですか?」などと訊ねる。

 だが陽は何も言わずに顔を手で覆っていた、その態度にMが気づき陽の耳もとに囁きかける。

「素直な気持ちを」

 静かに囁いたMは満足そうに自身の仕事場である机の前に座った。


~~~~


 殺は苛立っていた、Mが陽に馴れ馴れしく耳もとに囁きかけるなんてと。
 それだけではない、今日は一言も言葉を交わしていない。
 その事実にとても腹がたつ。

 こうなれば陽に徹底的に話しかけてやろう、そう殺は決意する。

「あれ?パソコンが」

 早速だが陽は困っていた。
 これはチャンスだと殺は立ち上がる。

「これは、こうするのですよ」

 見事に殺はパソコンの調子を整えていく。
 それもこれも陽の為に、かっこいいと言われる為に。
 けれども返ってきた返事はあっさりしたものだった。

「……ありがとう」

 それだけ?殺は陽を思いっきり凝視する。
 まさか、これだけとは……いつもなら会話はもっと続く筈なのにと殺は項垂れた。


~~~~



 時計は午後の昼ご飯の時間を刻む。
 この時間まで殺は陽に沢山尽くしてきた。
 失くなった資料を探したり、仕事を手伝ったりなどと沢山。
 どれもこれも陽と話したいと思ったからだ。
 もう、かっこいいと言われなくてもいい、ただ話をしたい。

 だから殺は決意を決めた。
 殺は陽の腕を引き強引に人気のない場所に連れて行く。
 途中に聞こえる「殺!痛い!」なんて悲鳴は無視をする。

 だれも居ない場所につけば殺は陽を壁に打ちつけた。
 殺の目つきは怒りと悲しみに満ち溢れていて、それはそれは悲惨だった。
 陽はそんな殺の目に気づき胸を痛ます。
 自分がこんな事態を引き起こしたのだと自分を責める。

「何で、私と話してくれないのですか?」

 余裕のない顔が陽の顔に近づく。
 今までで一番余裕がないのではないかと思う表情に陽は心臓を早く打つ。
 緊張感が陽を襲っていた、だが何故話せないのかは陽自身、恥ずかしくて言えない。
 だけれど言わねばならない。

 陽は自分の心に決着をつけることにした。

「……お前がかっこよすぎて直視出来なかったんだ」

「はぁ?!」

 陽の震える声が殺の耳にしっかり響く。
 今、何て言った?かっこいい?
 殺は今までの状況を理解する。
 そして改めてこの恋人は可愛いと思った。
 殺を見ることも話すことも出来ないほど陽は殺のことを愛おしいと想っていた。

 そのことが殺にとっては嬉しくてたまらなかった。
 瞬間にリップ音が陽に降り注ぐ。
 それは殺が陽に口づけをした証拠だった。
 陽はぷるぷる震えながら顔を赤く染める。

「朝、話せなかった分ですよ。これからは私に話しかけないなんてやめてくださいね」

 男らしい低音の心地よい声がそう言った。
 その心地よい声に陽は酔いしれながら呟いた。

「やっぱりお前が大好きだ」

 その声はしっかりと殺に届いていた。
 殺は思わず顔を背ける、赤く染まった顔などかっこよくないと思ったからだ。
 だが陽は殺にこっちを向く様に求める。

「赤く染まった顔も見たい、お前の全てを知りたい」

 そう言われてしまえば陽の方を向いてしまう。
 まだ赤く染まった陽の顔は人形の様に可愛らしかった。

「これから毎日、一緒に居よう」

「……はい」

 彼らは静かに笑う。
 愛おしい者が居るとは幸せなことだ。
 殺は願う、陽を幸せに出来る様にと、自分も幸せでいられる様にと。
 今でも幸せなんだが。

「お二方!お昼の時間が短くなりますよ!」

 Mの声が響く、それだけではない。
 御影もサトリも姿を現わす。
 どうやら陽を連れてきた時からあとをつけていた様だった。

 殺は静かに怒りを見せる。
 先ほどの笑顔はどこにいったのやら。

「貴方達……見てたのですね」

「「「見てた!」」」

 元気よく答える三人に殺の鉄拳制裁がくだる。
 一人にはご褒美になってしまったが、残りの二人には効いた様だ。
 殴られた頭を抱えてうずくまる馬鹿を殺は怒鳴る。
 容赦がないとはこのことだ。

 そんないつもの日常を見て陽は笑う。
 やはり日常は愛おしいと。

 馬鹿を怒鳴った後はご飯を急いで食べる。
 今日のご飯も美味しい、皆で食べるご飯は美味しいと陽は笑顔になる。

 どうか、この笑顔が止まなくなる様に……。
 陽だけではなく皆が密かにそう願った。

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