地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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魔王の登場

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 魔王がやって来る。
 そう報告が来たのはつい先ほどのことだった。
 魔王が来る事実に殺は頭を痛めて胃を痛める。
 魔王とは我儘なのだ、気にくわないことがあれば癇癪を起こし殺を罵倒する。

 魔王こと彼は真面目が嫌いだ、だからこそ真面目な殺を毛嫌いして罵倒する。
 今度はどんな罵倒がくるかと思いながら殺は溜め息をついた。

 彼が気にいる食事、お土産。
 どれも面倒臭い、そう思っていた時だった。

「予定を早めて、やって来てやったぞ!」

 高めの男の子の声が響き渡る、眼前に広まる光景は沢山のお付きを従えた魔王の姿だった。
 小学高学年くらいの身長の少し長めの髪の少年、それが魔王である。
 橙色の髪をさらりと揺らしながら彼は殺に近づく。

「先ほど報告が来たばかりなのに、すぐ来るとは……」

「私が早く日本へ来たかっただけだ。そう怖い顔をするな、全く、これだから真面目は……」

 彼は殺の不機嫌さがわかり早速だが罵倒を始めた。
 だが殺も罵倒ばかりされては仕事がままならない。
 殺は彼を閻魔大王か、そこらへんの従者に任せようとした。
 すると彼は焦ったかの様に一緒に居ろと殺に命ずる。
 それは今まで殺が彼に地獄を案内してきたから彼は殺を罵倒するも、信頼していたからだ。

「では……最近出来た新しい私の課に向かいますか?」

「行ってやるよ!」

 彼は目を輝かせて答える。
 魔王とは面倒臭いが単純な存在、殺はそう思っていた。
 人殺し課への道を魔王とお付きと進んでいく。
 途中で新しい課の名前を訊かれ『人殺し課』と答えれば少しだけ魔王は身を震わせた。
 おそらく怖かったのだろう、見た目と同じ様に彼は幼かった。

「つきましたよ」

「ここが……!」

 人殺し課の扉をゆっくり開ける。
 そこに広まっていた光景は仕事に必死な美鈴と陽が居るにも関わらず仕事をサボって小夜子と冥王が持ってきた菓子を貪る馬鹿三人の凄惨な光景だった。

「貴方達……!」

「やべっ!」

 サトリが最後まで言い切る前に殺は三人に鉄拳制裁をくだす。
 その光景が面白かったのか魔王はケラケラ笑っている。

「魔王、久しぶりだな」

「ああ、久しぶり。冥王」

 冥王と魔王は顔をあわしたことがあるのか懐かしそうに話しを進めている。
 その間に、小夜子と美鈴は茶と菓子を持ってきて魔王をもてなした。
 魔王は茶菓子を食べながら居心地良さそうに畳に転がる。

「居心地良さそうですね、そんなにここが気に入りましたか」

「ああ、不真面目な馬鹿も居て楽しすぎる!つまらない役立たずなお前とは大違いだ!」

 つまらない、役立たず、その言葉は殺には何も辛さをもたらさない。
 だがこの発言に人殺し課は全員が怒ってしまった。

「殺がつまらない男な訳がない!人を導く存在にお前如きの不真面目な奴が口をきくな!」

「人を役立たず呼ばわりとは最低ですわね」

「儂の弟の殺を馬鹿にするな!」

「本当に役立たずなのはお前なんじゃない?不真面目らしいしさ」

 皆が魔王を罵倒する。
 罵倒をする立場に慣れていた彼はいきなりのことに戸惑い涙目になる。
 涙目になればあとは簡単、目から大粒の雫が溢れおち頬を濡らす。
 そんな魔王を見て、先ほどまで威勢良く罵倒していた四人は狼狽える。
 子供相手に、ここまでするべきではなかったと頭を悩ませた。

 だが冥王と小夜子、美鈴はそんなことどうでもいいかの様に魔王に怒鳴った。

「殺様はお母さんを探してくれる約束をしてくれた!そんな殺様を馬鹿にするなんて許しません!」

「冥王様と一緒に居させてくれた殺様は優しい、それとは正反対ですね、貴方」

「我をちゃんと理解してくれた殺を馬鹿にするな!」

 魔王はついに大声をあげて泣き始める、だがお付きは罵倒を止めない。
 きっと日頃の鬱憤が溜まっていて内心ざまあみろと思っているのだろう。
 だが、そんな彼を助けてくれる者が現れる。

「もういいでしょう、お止めなさい」

「なんでだ!殺!」

 止めたのは馬鹿にされた張本人の殺だった。
 殺は魔王の涙をハンカチで拭き座らせる。
 そして殺は答えた。
 罵倒を止めた理由を……。

「魔王様がなんだかんだ言っていても私を信頼してくれているのはわかっています。だから私を信頼してくれる人を罵倒されるのは嫌だったのです。まぁ、暫く止めなかったのは反省させる為でしたがね」

「殺……」

 皆が殺の言った通りに罵倒を止める。
 それどころか「ごめんなさい」とまで言い始める。
 それに対し魔王は声が途切れ途切れになろうとも謝りかえす。
 殺はそんな光景を見ながら心を穏やかにした。

「殺……ごめんなさい」

「……!良いのですよ」

 殺は素直に謝ってきた魔王の頭を撫でて彼の暴言を許した。
 魔王は「子供扱いするな!」と言っているが、見た目も中身も幼い彼にはつい子供にする対応をとってしまう。

「たーのもォォォォォォォ!!」

 人殺し課の扉が勢いよく開く音が響いた。
 この声は誰もがよく知っている声である。

「閻魔大王……どんなご用事で?」

「仕事の話しー!」

 珍しい仕事の話しに殺は閻魔の発言を待つ。
 すると閻魔は満面の笑みを浮かべて仕事内容を話していく。

「地獄と魔界の合同ダンスパーティーをしようかと思って!」

 拒否権はないよと笑う閻魔に殺は苦笑いを浮かべる。
 魔王は嬉しそうに「いいな!それ!」などと答えている。

「人殺し課もダンスパーティーに参加ね!」

 皆がダンスパーティーに楽しみそうにする。
 それを見て殺は密かに笑った。
 たまには仕事も放り投げてもいいかと。
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