地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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糸の暗殺者

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 殺と悠斗が刀を抜く。
 殺は葛葉を帰してもらいたい一心で彼女の父親と戦う覚悟を決めたのだ。
 悠斗は奇妙な笑みを浮かべる。

「殺しに特化した者に貴様が勝てるか?」

 その瞬間に悠斗は殺の目の前へ現れた。
 暗殺者として速さに優れた悠斗はかまいたちを明らかに超えている。
 悠斗の初撃が殺に降りかかろうとするが、殺はそれを見事に避けてみせた。

「ふむ、この速さでもついてこられるのか」

 殺の前でゆっくり喋る悠斗に殺は刀を構えて攻撃態勢を整える。
 ほんの一瞬、殺は悠斗と同じ速さで彼に攻撃を何度も与える。
 だがそれは殺さない様に力加減をしていたからこそ悠斗に全て防がれてしまった。

「この状況で手加減をするな!」

 今度は悠斗が殺に斬撃を与えようとする。
 先ほどまでとは比べ物にならない速さで追い詰めようとした。
 だが殺はそれを全てにおいて華麗に避けていく。

「チッ、速さでは駄目か」

 殺が悠斗の隙をつこうと刀を振り回そうとした時だった。
 悠斗は殺の攻撃を避けて後ろに下がる。
 その際に何か丸い物を投げていた。
 幾度となく戦場に立ってきた者ならば、その正体はわかる。

 爆弾。

 しかも強力な物で当たればひとたまりもないことは明白だった。
 殺はそれがわかり急いで爆弾の導火線を斬る。
 しかし強力な爆弾を投げるとは、悠斗は自分がどうなってもいいのかと考えてしまう。
 殺は悠斗の考えがわからないでいた時だった。

 白い煙が殺を覆いつくす。
 どうやら悠斗は他にも煙玉を投げていた様だった。
 真っ白な煙に包まれ前が見えない、悠斗は殺が爆弾の導火線を斬ることを見切っていた。
 だからこそその隙に煙玉も投げて殺の目の前を見えない状況にしたのである。

 こうなればどこから攻撃が来るかわからない。
 相手は百戦錬磨の暗殺者、気配すら完璧に隠せるだろう。
 だが殺は笑った。

「そこですね」

「なっ!!」

 殺は勘だけで悠斗の攻撃を防いだのだ。
 これも不幸の鬼が殺にもたらした能力。いや、それが無くとも彼も百戦錬磨だから防げただろう。
 どの道、有り得ないに等しい能力だった。

 だが殺に異変が起きる。
 体が痺れはじめて動き辛くなってきたのだ。
 どういうことだと殺が思っていれば悠斗は笑う。

「この煙玉の煙には毒が込められている!どうだ?辛いだろう?」

 悠斗は愉快そうに笑い続ける。
 自分たちは毒に慣れているから効かないと悠斗は笑う。
 だが殺は毒に痺れた体を起き上がらしてこう言った。

「痛みにも痺れにも慣れているのはこちらもですよ」

 殺は瞬時に悠斗のもとへと走りだす、さっきと全く変わらない速さでだ。
 殺の目に紅い光が灯る。

「ならこれは!!」

 瞬間に殺は糸に行く手を阻まれる。
 空間と空間、糸を繋ぐものはない筈なのに糸は殺の周りを囲む。
 だが殺は即座に理解した。
 これは時空の歪みを利用して、糸を異空間で繋げて自分を囲んでいるのだと。
 しかもその糸は少し動いた殺の服さえ斬ったことから考えると斬れ味が鋭い。

「我が潜木家の糸技だ。これで動けないだろう」

 悠斗は勝ちを確信した。
 だが殺は笑う。

「閻魔大王に給いし刀に斬れぬものはない」

 そう言った瞬間だった。
 糸がバサリと音を立てて斬れ落ちていく。
 それに悠斗は驚愕した。
 そして閻魔の恐ろしさを体感した。

「さあ、貴方の負けです」

 殺の気迫、悠斗は初めて恐怖を覚えた。
 毒も効かない、速さも技も通用しない、おまけに手加減もされている。
 悠斗は初めて死を覚悟した。
 だが殺は悠斗を斬らずに葛葉の方へと向いた。

「M!!貴方は如何したい?!」

 殺は葛葉に問いかける、それを止めない。

「貴方は親に強制的に暗殺者にされたいのですか?!それとも私たちと楽しく過ごしたいですか?!」

「私は……」

 葛葉は殺を静かに見つめる。
 それはまるで何かを考えていくかのように。

「私たちは貴方の辛い顔は見たくない!皆が笑顔で過ごしたいのです!その皆に貴方は含まれているのですよ!私たちは貴方と一緒に居たい!貴方が選べ、私たちと共に生きるか……掟に縛られるか!」

 葛葉は少しずつ顔をあげていく。
 顔をあげて言いたいことを言おうとする。
 どうやら彼女の中で言いたいこと、やりたいこと、全てが決まったようだった。
 葛葉は殺に投げかける言葉が決まったのである。

「私は……皆と笑顔で過ごしたい……。馬鹿なことをやって、また叱られたい」

 ブチリ

 葛葉を縛っていた縄が千切れる音がする。
 縄が一本ずつ千切れていく。
 彼女は己で選んだのだ、自由を、皆と過ごしたいと。

「そんな馬鹿な……!」

 葛葉は己を縛っていた縄を全て引きちぎる。
 すると同時に悠斗のもとへ、ひとっ飛びで駆け寄った。

「葛葉……!」

「お父様の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」

 葛葉の拳が悠斗の顔面へと当たる。
 葛葉は悠斗に馬乗りになり彼を殴り続ける。
 彼女は大粒の涙を流してずっと殴り続ける。

「お母様の約束もやぶって、私を勝手に連れ去って!自分勝手すぎますわ!!」

 葛葉の口調はいつもと同じになっていた。
 親子の一方的な喧嘩を見ながら殺は刀を鞘に戻す。
 もう戦う必要がないと判断したまでだったからだ。

 相変わらず馬乗りになって葛葉は悠斗を殴る。
 だが、それも終いの時が来た。

「葛葉……!」

「……!」

 悠斗が葛葉を抱き締める。
 葛葉は未だ泣き続けたままだ。

「そろそろ大切な人と交わした約束を話す時なのではないですか?」

「ああ、そうだな」

 大切な約束とはいったい?
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