地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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狂った三人

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 殺は家族を殺し、変わった。
 それはほんの些細な変化である。
 誰も気づかないほどに些細な変化。
 彼を取り巻く空気、それが少しだが威圧的になったのである。

 だがそれは誰も気づかないのだ。
 ある二人を除いては、子供の勘を除いては……。


~~~~


「お前……変わったよな」

「どこがですか?」

 殺は仕事の書類を作成しながら遊びに来た真と美優の相手をする。
 人間界出身の殺とは違い、名家と名高い環境に身を置く二人は仕事などする必要もない。

 彼らは殺と違い、家の後ろ盾がある。
 それを殺は羨ましがりながらも閻魔の隣に立つ為に必死に努力をしてきた。

 殺は仕事をする必要のない者を少し恨みながらも真の何気ない疑問に耳を傾けることにする。
 本当に何気ない一言、子供の率直な勘だ。

「何がって言うかなぁ……」

「あんたを囲む空気が変わったわよ」

 美優が的確に殺の変わった部分を突いてくる。
 それを聞いた殺は少しだが焦った。
 この二人はなんとなくだが何かがわかっているのではないかと。
 二人は自分を調べているのではないかと。

 だがそれは本来ならば要らぬ心配だ。
 この二人、殺に何かがあったのではと心配になっていただけである。
 殺が家族を殺したなんて夢にも思っていない。

 だが殺は深読みをしてしまった。
 そうして悟った、この二人には隠し事は出来ないと。
 けれども殺は悩む、それはこの二人に話したら自分が閻魔の隣に立つことが出来なくなるのではと悩む。

「ちゃんと言えよ」

「あんたが何かを抱え込んでいるのはわかってるんだから」

 殺はこの言葉を深読みしすぎた。
 もう二人は自分が家族……だった者を殺したことをわかっているのだと勘違いしてしまう。
 そうして殺は逃げられないと一人で判断を下した。
 人とは隠し事があればあるほど深読みしてしまうとはこのことなり。

「家族だった……けれども閻魔大王を殺そうとした裏切り者をこの手で葬りました」

「「……え?」」

 二人は一瞬だが殺が何を言ったかわからずにいた。
 だが殺を取り巻く空気が一気に強張ることで真と美優は彼が何をやったのかがわかってしまう。
 そうして知った、この世界には裏切りが存在し、己の大切なモノを壊そうとしていることを。

「わかって訊いたのではないのですか?」

 殺は二人の反応を見て自分が警戒しすぎていたことに気づく。
 真と美優は怒りながら当然の反応をした。

「わかる訳ないでしょ!」

「お前な!俺たちは友達だろ?!だったら何か一言くらい言えよ!」

 一言くらい言え。
 その言葉に殺は笑った。
 それも普段からは考えられないほどに大声で狂い笑った。

「言ったら貴方たちは私を悪者扱いするでしょう?」

 そう笑顔を浮かべながら言う彼は脆かった。
 彼はもう狂っていたのである。
 だが狂ってしまったのは殺だけではなかった。

「お前は……悪くない!お前は地獄に有益をもたらしたんだ!そんな英雄が悪い筈がない!」

「そうよ!悪いのは私たちから大切な閻魔大王を奪おうとした奴よ!」

 狂った。
 とうとう空間までもが狂ってしまう。
 こんな世界の中で彼らは正義と悪を分けていく。
 自分勝手に善悪を分ける、それが偽善とは知らずに。

「でも私は悪いことはしました」

「そんなことはないわよ……」

「俺たちで証明してやるよ、お前がやったことは悪ではないと」

「如何やって?」

 少年少女は笑った。
 柔かな歳相応の笑顔で笑っていた。
 そうして言の葉を放つ。

「「お前と(あんたと)同じことをして地獄に有益をもたらしてやるから」」

 歳相応の笑顔は最高に美しく歪む。
 この歪みがまるで世界の真理を現している気がして彼らは恍惚とした。
 そうして始まる。

 彼らの裏切り者殺しが……。

 彼らは生きることによって裏切りを知った。
 世界が醜く汚されていっていることを知る。
 だがそれでも彼らは凛として歪みながら裏切りを裁いていった。


~~~~


「「はい、プレゼント!」」

「何ですか?これは」

「開けてからのお楽しみよ!」

 裏切りを殺して幾つかの年月が経った頃、殺は二人から贈り物を貰うことになる。
 綺麗に包装された包みを開けると、そこには黒いスーツとコートが現れた。

「これは……!」

「お前の白い服は夜闇に目立つからな」

「それに、あんたはもう白色じゃないでしょ」

 白い色ではない。
 その言葉に殺は少し笑みを浮かべた。
 笑んだと言っても自嘲の笑みだが。

「そうですね。素敵な贈り物をありがとうございます」

「その代わり今度は酒を奢れよ!」

「私は焼肉!」

「はいはい」

 彼らは皆が知らない顔で笑いあう。
 これからは殺は真っ黒な服で世界の闇に紛れ、赤く朱く紅く染まるのだろう。

 だがそれは皆が知らなくて良い話だ。
 皆は表の顔だけみて、表で笑いあえば良いのである。
 黒い顔がもたらすのは残酷な真実だけ。
 そんな真実はごみ箱に捨ててしまえば良いのだ。

 皆が幸せ、それの何が悪い。
 これで良い、今日も夜に染まり紅に染まればそれで良いのだ。
 彼らは決意を固める。
 それは地獄の為の決意である。

 誰も知らない崩されない決意だ。
 それが崩れる時は二度も一度もない。

 こうして三人は狂った世界の中を歩いていく。
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