地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
105 / 167

狂った三人

しおりを挟む

 殺は家族を殺し、変わった。
 それはほんの些細な変化である。
 誰も気づかないほどに些細な変化。
 彼を取り巻く空気、それが少しだが威圧的になったのである。

 だがそれは誰も気づかないのだ。
 ある二人を除いては、子供の勘を除いては……。


~~~~


「お前……変わったよな」

「どこがですか?」

 殺は仕事の書類を作成しながら遊びに来た真と美優の相手をする。
 人間界出身の殺とは違い、名家と名高い環境に身を置く二人は仕事などする必要もない。

 彼らは殺と違い、家の後ろ盾がある。
 それを殺は羨ましがりながらも閻魔の隣に立つ為に必死に努力をしてきた。

 殺は仕事をする必要のない者を少し恨みながらも真の何気ない疑問に耳を傾けることにする。
 本当に何気ない一言、子供の率直な勘だ。

「何がって言うかなぁ……」

「あんたを囲む空気が変わったわよ」

 美優が的確に殺の変わった部分を突いてくる。
 それを聞いた殺は少しだが焦った。
 この二人はなんとなくだが何かがわかっているのではないかと。
 二人は自分を調べているのではないかと。

 だがそれは本来ならば要らぬ心配だ。
 この二人、殺に何かがあったのではと心配になっていただけである。
 殺が家族を殺したなんて夢にも思っていない。

 だが殺は深読みをしてしまった。
 そうして悟った、この二人には隠し事は出来ないと。
 けれども殺は悩む、それはこの二人に話したら自分が閻魔の隣に立つことが出来なくなるのではと悩む。

「ちゃんと言えよ」

「あんたが何かを抱え込んでいるのはわかってるんだから」

 殺はこの言葉を深読みしすぎた。
 もう二人は自分が家族……だった者を殺したことをわかっているのだと勘違いしてしまう。
 そうして殺は逃げられないと一人で判断を下した。
 人とは隠し事があればあるほど深読みしてしまうとはこのことなり。

「家族だった……けれども閻魔大王を殺そうとした裏切り者をこの手で葬りました」

「「……え?」」

 二人は一瞬だが殺が何を言ったかわからずにいた。
 だが殺を取り巻く空気が一気に強張ることで真と美優は彼が何をやったのかがわかってしまう。
 そうして知った、この世界には裏切りが存在し、己の大切なモノを壊そうとしていることを。

「わかって訊いたのではないのですか?」

 殺は二人の反応を見て自分が警戒しすぎていたことに気づく。
 真と美優は怒りながら当然の反応をした。

「わかる訳ないでしょ!」

「お前な!俺たちは友達だろ?!だったら何か一言くらい言えよ!」

 一言くらい言え。
 その言葉に殺は笑った。
 それも普段からは考えられないほどに大声で狂い笑った。

「言ったら貴方たちは私を悪者扱いするでしょう?」

 そう笑顔を浮かべながら言う彼は脆かった。
 彼はもう狂っていたのである。
 だが狂ってしまったのは殺だけではなかった。

「お前は……悪くない!お前は地獄に有益をもたらしたんだ!そんな英雄が悪い筈がない!」

「そうよ!悪いのは私たちから大切な閻魔大王を奪おうとした奴よ!」

 狂った。
 とうとう空間までもが狂ってしまう。
 こんな世界の中で彼らは正義と悪を分けていく。
 自分勝手に善悪を分ける、それが偽善とは知らずに。

「でも私は悪いことはしました」

「そんなことはないわよ……」

「俺たちで証明してやるよ、お前がやったことは悪ではないと」

「如何やって?」

 少年少女は笑った。
 柔かな歳相応の笑顔で笑っていた。
 そうして言の葉を放つ。

「「お前と(あんたと)同じことをして地獄に有益をもたらしてやるから」」

 歳相応の笑顔は最高に美しく歪む。
 この歪みがまるで世界の真理を現している気がして彼らは恍惚とした。
 そうして始まる。

 彼らの裏切り者殺しが……。

 彼らは生きることによって裏切りを知った。
 世界が醜く汚されていっていることを知る。
 だがそれでも彼らは凛として歪みながら裏切りを裁いていった。


~~~~


「「はい、プレゼント!」」

「何ですか?これは」

「開けてからのお楽しみよ!」

 裏切りを殺して幾つかの年月が経った頃、殺は二人から贈り物を貰うことになる。
 綺麗に包装された包みを開けると、そこには黒いスーツとコートが現れた。

「これは……!」

「お前の白い服は夜闇に目立つからな」

「それに、あんたはもう白色じゃないでしょ」

 白い色ではない。
 その言葉に殺は少し笑みを浮かべた。
 笑んだと言っても自嘲の笑みだが。

「そうですね。素敵な贈り物をありがとうございます」

「その代わり今度は酒を奢れよ!」

「私は焼肉!」

「はいはい」

 彼らは皆が知らない顔で笑いあう。
 これからは殺は真っ黒な服で世界の闇に紛れ、赤く朱く紅く染まるのだろう。

 だがそれは皆が知らなくて良い話だ。
 皆は表の顔だけみて、表で笑いあえば良いのである。
 黒い顔がもたらすのは残酷な真実だけ。
 そんな真実はごみ箱に捨ててしまえば良いのだ。

 皆が幸せ、それの何が悪い。
 これで良い、今日も夜に染まり紅に染まればそれで良いのだ。
 彼らは決意を固める。
 それは地獄の為の決意である。

 誰も知らない崩されない決意だ。
 それが崩れる時は二度も一度もない。

 こうして三人は狂った世界の中を歩いていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...