地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
123 / 167

死神の力

しおりを挟む

 陽は何かを詠唱する。
 その際の彼の顔は悍ましく、オーラだけで人を殺せそうな勢いだった。
 その恐ろしい顔に悪は若干だが怯む。
 だがそれが彼を立ち止まらせる理由にはならなかった。
 悪は叫ぶ。

「今更、何をしようってんだ!無駄だ!」

「それは如何かな?」

 陽は作り笑いを浮かべた。
 その瞬間に何処からともなく突風が吹き荒れる。
 それは皆の視界を奪うには充分だった。
 風の所為で目を閉じる。
 目を開けた頃には誰もが驚愕する光景が広がっていた。

「これは……!?」

「如何だ?かっこいいだろ」

 陽は相も変わらず作り笑いだ。
 悪の目の前に広がっていた世界、それは体長二十メートルほどの鎧を纏った大きな骸骨が佇んでいたのである。
 骸骨は雄叫びをあげる。
 その大きな声で鼓膜が破れそうになるほどだ。

「行け、がしゃどくろ」

 その瞬間にがしゃどくろは雄叫びを更にあげて悪に立ち向かう。
 がしゃどくろは大きな腕を動かし、周りを薙ぎはらった。
 振り乱れる腕から強風が吹く。

「何なんだよォォォォォォォ!」

 悪は狂い叫んだ。
 大きながしゃどくろの手により分身が壊され、殺されていくさまに狂った。
 分身の一人一人ががしゃどくろに掴まれて粉砕されて消えてゆく。
 その光景に悪は怒りが隠せないでいた。

 分身が消えていく。
 最後に喰われるは自分自身。
 それが悪にはわかった。
 陽にもそれがわかりきり悪役じみた笑みを貼り付ける。

 自分が殺されるかもしれない。
 悪はそう考えて屈辱の選択をする。

「今回はこの位で済ませてやるよ!じゃーな!」

「あっ!待てっ!」

 陽が待てを言い終わる前に悪は突如現れた黒い闇の中へ消えていった。
 悪は逃げることを選んだのだ。
 もう戦う必要がないことを知り、陽は刀を鞘に収める。

「はぁ……痛い」

 悪の攻撃を受けた陽の体は限界寸前だ。
 だが夢の世界、現実では傷など受けていない。
 まあ、夢の中で死んでいたら一生目を覚ますことなどなかったが。

「陽!あの骸骨は何だよ!?」

「凄いですの!」

「弱いと思っていたが強かったのじゃな!」

 戦いが終わったことで皆が一瞬で陽に駆け寄り、思い思いのことを言う。
 皆が陽の勝利を喜んで、殺の悪夢が消えたことを喜んで笑顔を見せた。

「弱いは余計だ!まあ、あのがしゃどくろは成功するかは賭けだったけどな」

 陽は成功して良かったなどと安堵した表情を浮かべて御影に寄りかかった。

「……痛い」

「あれだけの戦いをしたからのぅ。肩くらい貸してやるわ」

 御影の肩に凭れて陽は目を閉じる。
 良かった、勝てたのだ。
 そう思っていた。

 真っ暗な世界がだんだん光を灯して霞んでいく。
 黒から白へと変わり、やがて色を無くす。
 それは夢から覚めることをあらわしていた。

「夢が終わる」

 そうサトリが呟くと共に彼らは思わず目を覆うほどの光に包まれ姿を消していった。



~~~~


「陽……御影兄さん、サトリ兄さん、M……」

「殺……」

 殺は誰かに呼ばれた気がした。
 その瞬間に皆の死体が消え失せ、色の無い光が彼を包む。

「私は……?呼ばれた?」

 そう考える間もなく彼は夢から姿を消していった。


~~~~


「殺!殺!」

「はっ!?」

 殺は体を勢い良く起こして周りを見渡す。
 どう見渡しても周りはいつもの光景、Mと御影とサトリが笑い、陽が真面目な顔をしていた。
 瞬間、殺は安堵する。
 良かった、皆が死んでないと。

 思えば自分は皆を死なせる気などなかった。
 皆で生き永らえてやる。
 そう誓っていた。
 だから本当は皆が死んだ幻想に恐怖する必要などなかった。

 だが恐怖したのは彼の深層心理の所為か。
 皆が死ぬかもしれない時代、それが彼を怖がらせるのには充分であった。

「あれは……夢だったのですね。悪夢は?」

「もう悪夢は倒した」

 陽が真面目ながらも泣きそうな顔をして囁いた。
 それを見て殺は何かがあったのだろうと即座に理解する。

 だが殺は何が起きたか訊かなかった。
 今の幸せを感じていたかったからである。
 彼は笑った。

 やはり仲間とは良いものだ。

 そう笑った。


~~~~


「M!サボらない!御影兄さん、サトリ兄さん!お菓子にだけ手をつけずに!仕事!」

「「「イエッサー!」」」

 悪夢を見ることがなくなった殺は生き生きとしていた。
 仕事も楽しくて幸せそうであった。
 それもこれも全ては皆が悪夢に立ち向かってくれた為。
 殺は感謝を込めて皆に元気な姿を見せる。
 それが彼の恩返し。

 さあ、良い夢を……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...