地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

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死神の力

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 陽は何かを詠唱する。
 その際の彼の顔は悍ましく、オーラだけで人を殺せそうな勢いだった。
 その恐ろしい顔に悪は若干だが怯む。
 だがそれが彼を立ち止まらせる理由にはならなかった。
 悪は叫ぶ。

「今更、何をしようってんだ!無駄だ!」

「それは如何かな?」

 陽は作り笑いを浮かべた。
 その瞬間に何処からともなく突風が吹き荒れる。
 それは皆の視界を奪うには充分だった。
 風の所為で目を閉じる。
 目を開けた頃には誰もが驚愕する光景が広がっていた。

「これは……!?」

「如何だ?かっこいいだろ」

 陽は相も変わらず作り笑いだ。
 悪の目の前に広がっていた世界、それは体長二十メートルほどの鎧を纏った大きな骸骨が佇んでいたのである。
 骸骨は雄叫びをあげる。
 その大きな声で鼓膜が破れそうになるほどだ。

「行け、がしゃどくろ」

 その瞬間にがしゃどくろは雄叫びを更にあげて悪に立ち向かう。
 がしゃどくろは大きな腕を動かし、周りを薙ぎはらった。
 振り乱れる腕から強風が吹く。

「何なんだよォォォォォォォ!」

 悪は狂い叫んだ。
 大きながしゃどくろの手により分身が壊され、殺されていくさまに狂った。
 分身の一人一人ががしゃどくろに掴まれて粉砕されて消えてゆく。
 その光景に悪は怒りが隠せないでいた。

 分身が消えていく。
 最後に喰われるは自分自身。
 それが悪にはわかった。
 陽にもそれがわかりきり悪役じみた笑みを貼り付ける。

 自分が殺されるかもしれない。
 悪はそう考えて屈辱の選択をする。

「今回はこの位で済ませてやるよ!じゃーな!」

「あっ!待てっ!」

 陽が待てを言い終わる前に悪は突如現れた黒い闇の中へ消えていった。
 悪は逃げることを選んだのだ。
 もう戦う必要がないことを知り、陽は刀を鞘に収める。

「はぁ……痛い」

 悪の攻撃を受けた陽の体は限界寸前だ。
 だが夢の世界、現実では傷など受けていない。
 まあ、夢の中で死んでいたら一生目を覚ますことなどなかったが。

「陽!あの骸骨は何だよ!?」

「凄いですの!」

「弱いと思っていたが強かったのじゃな!」

 戦いが終わったことで皆が一瞬で陽に駆け寄り、思い思いのことを言う。
 皆が陽の勝利を喜んで、殺の悪夢が消えたことを喜んで笑顔を見せた。

「弱いは余計だ!まあ、あのがしゃどくろは成功するかは賭けだったけどな」

 陽は成功して良かったなどと安堵した表情を浮かべて御影に寄りかかった。

「……痛い」

「あれだけの戦いをしたからのぅ。肩くらい貸してやるわ」

 御影の肩に凭れて陽は目を閉じる。
 良かった、勝てたのだ。
 そう思っていた。

 真っ暗な世界がだんだん光を灯して霞んでいく。
 黒から白へと変わり、やがて色を無くす。
 それは夢から覚めることをあらわしていた。

「夢が終わる」

 そうサトリが呟くと共に彼らは思わず目を覆うほどの光に包まれ姿を消していった。



~~~~


「陽……御影兄さん、サトリ兄さん、M……」

「殺……」

 殺は誰かに呼ばれた気がした。
 その瞬間に皆の死体が消え失せ、色の無い光が彼を包む。

「私は……?呼ばれた?」

 そう考える間もなく彼は夢から姿を消していった。


~~~~


「殺!殺!」

「はっ!?」

 殺は体を勢い良く起こして周りを見渡す。
 どう見渡しても周りはいつもの光景、Mと御影とサトリが笑い、陽が真面目な顔をしていた。
 瞬間、殺は安堵する。
 良かった、皆が死んでないと。

 思えば自分は皆を死なせる気などなかった。
 皆で生き永らえてやる。
 そう誓っていた。
 だから本当は皆が死んだ幻想に恐怖する必要などなかった。

 だが恐怖したのは彼の深層心理の所為か。
 皆が死ぬかもしれない時代、それが彼を怖がらせるのには充分であった。

「あれは……夢だったのですね。悪夢は?」

「もう悪夢は倒した」

 陽が真面目ながらも泣きそうな顔をして囁いた。
 それを見て殺は何かがあったのだろうと即座に理解する。

 だが殺は何が起きたか訊かなかった。
 今の幸せを感じていたかったからである。
 彼は笑った。

 やはり仲間とは良いものだ。

 そう笑った。


~~~~


「M!サボらない!御影兄さん、サトリ兄さん!お菓子にだけ手をつけずに!仕事!」

「「「イエッサー!」」」

 悪夢を見ることがなくなった殺は生き生きとしていた。
 仕事も楽しくて幸せそうであった。
 それもこれも全ては皆が悪夢に立ち向かってくれた為。
 殺は感謝を込めて皆に元気な姿を見せる。
 それが彼の恩返し。

 さあ、良い夢を……。
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