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4.合鍵
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正解はあるのだろうか。
「天谷さんから東雲課長に乗り換えたらしいよ。婚約までしてたのに、天谷さん可哀想」
ぶっぶー。
「課長と天秤にかけたら、そりゃ勝ち目ないわな」
天秤にかけたら、ね。
「つーか、天谷に木曽根は勿体なかったよな」
あら、ありがとう。
「木曽根さんに捨てられて傷心の天谷さんを、林海さんが慰めてあげたんでしょ?」
違います。
「え? 林海さんが木曽根さんから天谷さんを奪ったんでしょ!?」
おっ、正解!
「天谷さんに捨てられた木曽根さんがやけくそで課長に薬盛って、既成事実を作ったって聞いたけど」
……。
「課長は被害者ってこと?」
え、私、加害者!?
「イイ思いしたんなら、違うだろ」
イイ思い……ねぇ。
「まだ、イイ思いはしてないけど」
注目の的である課長が、中華丼をレンゲですくって口に運ぶ。
「既成事実、作りたいな?」
咀嚼しながら、なんてことを言うのか。
私はその問いを無視して、オムライスをスプーンですくう。
だから嫌だって言ったのに!
意図的ではあるにしても、これだけ噂のネタを提供したのだ。二人揃って社食に来たら、穴が開くほど見られるのは分かっていた。
それを、事実だけははっきりさせておく必要がある、とか真顔で尤もらしく言って、私は強制連行されたわけだ。
課長曰く、経緯は後で修正可能だから、らしい。
とにかく、課長と私が、上司と部下以上の関係であることを周知することが、最優先だと。
この日から、私と課長は社内でも注目の的となり、そこに至る経緯については、それはもう、恥ずかしいやらムカつくやらのエピソードが、囁かれた。
それでも、一週間もすれば、事実の三点は全社員が知ると言っても過言でないほどはっきりと知れ渡っただろう。
一、木曽根と天谷は婚約解消した。
二、天谷は林海きらりと婚約し、きらりは妊娠している。
三、木曽根は東雲課長と恋人関係にある。
課長はこの状況にご満悦。
対照的に、私は戸惑いが増すばかり。
感情がついていかないのだ。
復讐に利用しろ、だなんて言っておきながら、課長はこの状況を楽しんでいるようにしか見えない。
私を名前で呼び捨て、毎日のように一緒に食事をして、朝晩の電話も欠かさない。
時々、直視できないほど熱っぽい眼差しで見つめられ、課長の気持ちを疑えなくなってくる。
彼が、いたずらに女性と関わる男ではないのは分かっている。だてに四年も一緒に働いてはいない。
課長が異動してきてすぐは、女嫌いかと思うほどクールを通り越して極寒の言動が多かった。
一年半ほどして、私に異動の話が持ち上がった時、ほんの少しだけホッとしたのを覚えている。それとセットで、異動の話がなくなった時は随分とがっかりしたものだ。
広報の仕事は好きだ。
だが、異動は仕方がないし、広報で学んだことを他部署でも生かせればと思ってもいた。
それがまさか、あらぬ噂を立てられるほど長く広報に居続けることになるとは。
あれ? そういえば、あの頃から課長の態度が変わったような……?
異動が流れた後、山倉さんが異動してきて、その後すぐに林海きらりが途中入社してきたはず。
当時は、社運を賭けたプロジェクトもあって、とにかく大忙しだった。
直に告白されたのもその頃だったっけ。
そう思うと、この二年は色々な意味で充実していたし、あっと言う間だった。
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