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4.合鍵
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しおりを挟む「いいよ。どうしても返してもらわなきゃ困るものもないし」
「ごめん」
差し出された紙袋はお弁当バッグほどの大きさで、私が差し出したのは一泊分の旅行バッグくらいの大きさ。
受け取った袋の中身は、本とネックレスと腕時計と、お揃いのマグカップの片割れ。
本以外は、直からのプレゼント。
これより、置いてあった通勤用のスーツを返してほしかった。
「梓、あの――」
「――林海さんは知ってるの?」
「え?」
「直がここに来ること」
「……うん」
「良く許してくれたね」
「……うん」
嫌だ。
気づきたくないのに、気づいてしまう。
「私が妊娠しているか聞いて来いとでも言われた?」
「……っ」
図星らしい。
「ついでに、慰謝料の請求をやめるように説得して、とか?」
「……ごめん」
直は、こんな男だったろうか。
すごく優しくて、あまり話し上手じゃなくて、ちょっと気が弱いけど、それでも、自分の主張ははっきりと自分の言葉で言える人だった。
だった、はず。
今の彼は、まるで別人のようだ。
おどおどして、もごもごして、謝ってばかり。
そんな姿がなんだか哀れで、聞かなくていいことを聞きたくなってしまった。
「ねぇ、直」
「うん」
「林海さんのことが好きなのよね?」
直は顔を上げ、目を見開き、それからまた視線を落とした。
「……うん」
全然そう見えない。
「彼女と関係を持つ前に、言ってくれたら良かったのに」
「……ごめん」
「もう、いいよ」
なぜ、私が虐めているように思えるのか。
きっと、ドアの向こうの課長も思っているだろう。
「……慰謝料のことなんだけど」
「正当な金額を請求します」
「俺はっ! 仕方ないと思うけど、彼女は――」
「――パパが出してくれるんじゃない?」
「パパ?」
「専務」
「いや、それは……」
課長じゃなくてもイライラしてきた。
「言いたいことがあるなら言ったら? 最後だろうし」
思わず、私もかなりきつい言い方になってしまう。
「……梓は、東雲課長と付き合ってるって本当?」
……は!?
予想外の問いに、ほんの少しだけ間が開いてしまった。
「うん」
「好きなのか?」
「……うん」
また、間が空いてしまい、何となくドアの向こうの課長のイライラを感じ取ってしまう。
「別れて……そんな経ってないのに?」
課長の言う通りなのだろうか。
直は私に未練があるのだろうか。
「直。私、直に裏切られたって知って、すごく悲しかったの。そうは見えなかったかもしれないけど、本当に苦しかった」
「……」
「か――皇丞は、全部わかってて受け止めてくれた」
「それにしたって、早いだろ!? もしかして、梓も俺と付き合ってる時から課長と、その……」
これが、彼の本心だろうか。
私が結婚したいと思うほど愛した男の、本心だろうか。
それとも、新しい女に吹き込まれたのだろうか。
『木曽根さんだって直くんを裏切ってたんだよ! 慰謝料なんか払う必要ないよ』とでも。
ああ、目に浮かぶわ……。
もしそうだとしても、その言葉に惑わされて私を疑っているのは、直本人だ。
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