復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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5.月夜

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*****



「梓」

「ん……」

 皇丞に抱きしめられて身動きが取れないながらも、身体を少し捻って彼を見た。

 彼は私の髪に指を絡める。

 前々からそうかなと思ってはいたけれど、皇丞は私の髪を弄るのが好きらしい。

 いや、『私の』か『女の』かはわからないが。

「部長や林海のこと、あんまり酷いようなら言えよ?」

「うん……」

 皇丞のたくましい胸に顔を寄せると、髪に触れていた手で抱きしめられた。

「天谷からしつこくされても、言えよ」

「……うん」

 わずかな間を、見逃さない。

「もう、なにかされたか?」

「内線で呼び出された」

「昼間の、か」

 やはり、目が合ったことで何か感じていたらしい。

「無視したし」

「当たり前だ」

 私の枕代わりにと伸ばしていた腕を曲げ、両腕でしっかりと抱きしめられる。

「しつこいようなら、俺が出る」

「大丈夫」

「お前が思う大丈夫と、俺が思う大丈夫では、程度の差が大きいな」

 私はクスリと笑い、目を閉じた。

「大丈夫よ……」

 程よく疲れた身体は、皇丞の香りに包まれると、睡魔に抗えない。

「大丈夫でも、ちゃんと頼れよ」

 甘い言葉と、優しい腕。

 私が皇丞のマンション《ここ》に来た時、皇丞はソファで寝ると言った。

 もちろん、私は拒否し、布団を買って与えられた私の部屋で寝ると言った。

 それを、皇丞が拒否した。

 押し問答の末、「くそっ」と悪態をついた皇丞は、私を抱きしめベッドで一緒に寝た。

 彼曰く、拷問らしい。

 が、数日もすれば慣れるらしい。

 シたくなるなら触れなければいいのに、こうして抱きしめるのだから。

 最初は、絶対に眠れないと思った私も、ベッドの心地よさと人肌の安心感に、しっかり熟睡している。

「梓」

「ん……」

「週末、出かけよう」

「どこに?」

「どこが……いい?」

 眠いのか、皇丞の声が途切れ、小さくなる。

 可愛い、と思ってしまったことは言わずにおこう。

「お前の行きたいとこ……行こ」

 確かに拷問だ。

 振り向いてキスしたい衝動で鼓動が早くなる。



 これって、デート?



 昼間の直の電話のことなどすっかり忘れて、私は少しだけ皇丞とのデートに胸を躍らせ、それから目を閉じた。
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