復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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5.月夜

12

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「ああ……。うん。いや、いいよ」

「そう言われると余計に気になる」

 少しも引く気がない彼に、私はわざと大袈裟に肩を落として見せる。

「……皇丞ってそういうところあるよね」

「そういうとこって?」

「仕事中も、なんか言いたげだって決めつけて、聞き出すの」

「そうか? けど、気持ち悪くないか? 言いかけてやめられるの」

「まぁ、それもそうなんだけど」

「だろ? で? なに」

 やはり、引く気はないらしい。

「大したことじゃないよ。ただ……どうしてこんなに色々……してくれるのかなと思って」

 皇丞の瞬きがまた停止し、その後笑ったさっきとは違って、今度は眉をひそめた。

「本気で言ってるのか?」

 低い声。怒らせたようだ。

 いや、怒っているというほどでもない。不機嫌になったというところか。

「大筋の理由は分かってるんだけど……」

「大筋って……」

 表現がイマイチだったらしく、今度は苦笑いされた。

「その、皇丞が私を好きだって言ってくれるのは……疑ってないんだけど」

「全然わかってねーだろ」

「わかってます! さすがに、軽いノリでここまでしてくれるなんて思ってない」

「やっぱ、躾が必要そうだな」

 皇丞はふぅっとため息をつくと、足を組み、腕も組み、椅子の背にもたれた。

 彼の言う『躾』に恐怖を感じる。

「ちょ――、聞いて! だから! 皇丞が私を好き……で色々……助けてくれたり? してるのは分かってるんだけど。ただ……ねぇ? そもそも、どうして私なんかを好きだとか……が?」

 自分でも、言っていて歯切れの悪さが気持ち悪い。

 ただ、この数週間の出来事を思うと、自信満々に『ねぇ、私のどこが好きなの?』とは聞けない。

 皇丞がもう一度ため息をつく。

 それから、空のグラスにシャンパンを注いだ。

 ちらりと私を見て、ボトルをクーラーに戻す。

 私のカップにはまだコーヒーが残っている。

 彼はシャンパンを一口飲み、また私をちらりと見て、もう一口含む。

「二年前の忘年会の時、だな。本気でお前を欲しいと思ったのは」

「それ、この前も言ってたよね? 私、よく覚えてないんだけど」

「だろうな。お前にとっちゃ、記憶に残るような会話じゃなかっただろうから」

 何を話したのだろう。

 そもそも、私と皇丞は席も離れていたし、皇丞の横にはきらりがぴったりと貼りついていたから、私じゃなくても女性社員は彼と話せていないと思う。

「その数日前、仕事帰りにお前を食事に誘ったら、あっさり断られた」

「はい?」

「俺の容姿や肩書に釣られる女だとは思ってなかったが、上司の誘いとなれば礼儀として受け入れると思った。が、あっさり断られた。『ありがとうございます。でも、上司としてのお誘いであればランチミーティングでお願いします』って」

 言った、な。

 御曹司の肩書を持つ鬼上司と食事だなんて、料理の味なんてわかるはずがない。まして、お酒が入ってうっかり日頃のうっぷんが口をついては大変だ。

 当時の皇丞に対する私の苦手意識は、今思うと少し過剰なほどだった。

「二次会って名目なら来ると思った。お前、酔ってたし。だから、忘年会の後でもう一度誘った。けど、あっさり断られた。しかも、すげー笑顔で」

「はぁ……」

 記憶にございません。

「『二人きりは謹んでお断りします。直に、少しでも疑われるようなこと、したくないんれす!』だって」

 まったく記憶にございません。
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