復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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7.つながる想い

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 お母さんの言いたいことはわかる。

 直と別れて間もなく上司と付き合いだしたなんて、直との別れの理由を邪推されても仕方がない。



 できれば言いたくなかったけれど、話の流れ的に誤魔化せないよね……。



「直も知ってる」

「誤解されるんじゃ――」

「――直の相手も社内の人なの」

「え!?」

「直の相手の女も社内の人でね? 私に別れ話をした翌日には、妊娠と婚約を公表してたわ」

「そんな……」

 お母さんは目を丸くして、口元を押さえる。

 お父さんも目を見開いて、唇を震わせた。

「色々噂されて……でも、彼が……東雲さんが庇ってくれて……助けられてる」

「辞めないのか」

「え?」

「妊娠した女は退職しないのか」

「……しないみたい」

「じゃあ、梓はこれからずっと直くんとその女の人と関わっていかなきゃいけないの!?」

 この様子だと、直の浮気相手が私の後輩であることは言わない方がよさそうだ。

「大丈夫よ」

「大丈夫なわけがあるか! 自分を裏切った男と同じ職場だというだけでも辛いだろうに、相手の女とも顔を合わせるなんて大丈夫なわけがないだろう!」

「だからって私が退職したら、逃げたと思われるわ。それに、辞めたくないの」

「梓……」

「慰謝料一千万だ。払えないのなら退職しろと伝えろ。いや、いい。弁護士を頼んで――」

「――お父さん! 大丈夫だから。本当に」

「お前が大丈夫でも、俺が許せない! 向こうの両親共々連れてこい!」

 ドンッとお父さんの拳がテーブルに振り落とされる。

 お母さんが驚いて肩を竦めた。

 父は暴力を振るう人ではない。

 見た目には体格が良くて、一重で吊り目なせいで少し怖そうに見られることもあるが、基本的には穏やかな人だ。

 余程のことがなければ大声を上げたりもしない。

 だから、父の怒りゆえの行動に驚くと同時に、私のためにそこまで怒ってくれることが嬉しかった。

 シンッと静まり返った部屋に、コトンと小さな音がして、私たち三人の視線が音のした方に向けられた。

「お前は悪くない。なのに……」

 お父さんの拳に寄り添うように横たわる、カップの持ち手。

 もう、十四年も前にド素人の私が作ったカップ。今まで使えていたことが不思議だ。

 お父さんは持ち手をそのままにカップを持って立ち上がると、シンクでカップを洗いだした。

「おと――」

 声をかけようとした私に、お母さんが首を振る。

 無言のままカップを洗い、拭き、お父さんはカップと持ち手を持って部屋を出て行った。

 大きな背中がドアに遮られて見えなくなってから、お母さん見た。

 お母さんミルクたっぷりのコーヒーを啜ると、ふぅっと息を吐いた。

 お母さんのカップは、私と弟の楓《かえで》とで母の日にプレゼントしたもの。これもまた、十年以上前のことだ。

「あのカップ、本当に大事にしてたからね……」

「いや、カップより――」

「――このカップをあんたたちがくれたの、お父さんがすごく羨ましがったじゃない?」

 お母さんが手の中のカップを見つめて言う。

「忘れた? 母の日にこのカップくれて、父の日にはお酒をプレゼントしたの」

 そんなことがあったかもしれない。

「お父さん、自分もカップが欲しかったって言って。そしたら、あんたが修学旅行であのカップを作ってきて。お父さん、すごく喜んでたのよね」
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