復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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14.罠の行方

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「そろそろ、限界かしらね?」

「え?」

 平井さんの言葉に、頬杖をついていた手から顔を上げた。

「焼肉」

「あ! そうですね」

「今夜は?」

「私は大丈夫です」

「決まりね」

 皇丞が出張に出たのは三日前。

 あの日、私は午後の仕事をどうこなしたかよく覚えていない。

 担当を持っていなかったことが救いだ。

 定時で家に帰った私は、荷物をまとめて自分のマンションに帰った。

 そうしなければいけない気がした。

 私は感情の機能がおかしいのかもしれない、と電車に揺られながら思った。

 不思議と涙は出ない。

 直に裏切られた時は、泣いた。

 午後の仕事をきっちりこなし、直ときらりと向き合って話をした後で。



 あの時、皇丞にひどい顔って言われたのよね。

 会議の後には「さすがだな」なんて皮肉も……。

 あの時にはもう、皇丞の罠にはまっていたのよね。 

 

 胸が苦しい。

 ずっと酸欠状態。

 何も考えたくない。

 それでも、考えてしまう。

 直の時には泣いた。

 悲しくて、泣いた。

 苦しくて、泣いた。



 泣くほど、皇丞を愛していなかったのかな……。



 そんなことを冷静に思う私は、やはり感情の機能がおかしいのだろう。

 マンションに帰ると、乾ききった空気で全身を刺されるように痛かった。

 ケトルでお湯を沸かし、お風呂のドアを開けたままお湯を溜めた。

 冷静にテキパキと動ける自分に、少しがっかりした。



 可愛げのない女……。



 それから、男運の悪さに笑った。

 皇丞の番号を着信拒否し、メッセージも通知オフにした。

 会社の電話は相手の番号が表示されるから、皇丞の番号からかかってきたら席を立った。

 さすがに、私が避けていることに気づいているだろう。

 そして、当然、平井さんと山倉さんも。

 何か聞かれるだろうと覚悟をして、パソコンの電源を落とした。

 山倉さんは少し遅れるからと、平井さんと会社を出た。

 金曜の夜。

 街は賑わっている。

 その場にいるのに、そうではないような感覚がした。

 テレビで見ているような、賑わいを遠くに感じるとでも言うか。

 店は平井さんが決めると言うから、黙ってついてきた。

 が、着いた場所はどう見ても焼肉屋ではない。

「え……っと?」

「いいから、いいから」

「いや、え?」

「行こう!」

「ちょ――」

 連れてこられたのは、まさかのホテル。

 飲食店が並ぶ大通りから二本外れた場所にあり、恐らく十階かそれくらいの高さ。

 外壁がグレーなこともあり、ビジネスホテルかと思った。

 が、まさかのラブホテル。

 わけがわからないままフロントに行くと、平井さんは六桁の番号を言った。

 そして、差し出されたカードキーを受け取り、エレベーターで十三階まで上がった。

「女子会プランってのがあるって聞いて、一度来てみたかったの」

 エレベーターの中で、平井さんはそう言った。

「このホテル、スイーツが美味しいって人気らしいの」



 スイーツが美味しいラブホテル?



 部屋は、普通のホテルのようだった。

 寝具は白で、音楽もリズミカルなポップスが流れている。

「女子会プランで予約しておいたら、寝具とか変えてくれるんだって。いつもはピンクかゴールドだって。それはそれで良かったけど」

「はぁ……」

「すぐに食事がくるはずだけど、どうする? お風呂、先に入る?」

「え!?」

 宴会コースのようなものを想像していた。

「ジャグジーよ? 楽しまなきゃ」

「けど――」

「――あ、大丈夫! 宿泊予約してあるから。チェックアウトは明日の十二時。ゆっくり楽しもう」

「泊まるんですか? 何の準備も――」

「――そんなの気にしなくていいから!」
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