復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以

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14.罠の行方

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 欣吾が額に手を当て、深い、体内の酸素のすべてを吐き出すんじゃないかと思うくらい深いため息をつく。

 そして、東京でのことを洗いざらい聞き出した。

 睡眠不足と頭痛と空腹でまともに頭が働かない状態の俺は、誘導尋問にのせられた。

 梓に帰れと言われて帰ってきたと話した俺に、欣吾はまた深いため息をぶつけた。

「大人になってから本気の初恋をすると、ここまでポンコツになんのか」

 欣吾の嫌みに反論する気力も湧かない。

 とりあえず、腹に何か入れようと、あんパンの袋を破いた。

 大きな一口を頬張ると、甘ったるさにむせそうになった。

「梓ちゃんは天谷が林海きらり以外とも浮気してたことを知らないんだろう?」

「ああ」

「じゃあ、皇丞がきらりを止めていれば、自分は幸せな結婚ができたと思ってるわけだ」

「……そういうことになるな」

 本気で喉が詰まりそうになって、欣吾に向けて人差し指を向けた。

 欣吾は背後の冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを出してよこす。

 それを半分ほど一気に飲むと、少し頭がすっきりした。

「でも、本当は違うだろ? 皇丞が、きらりが天谷を堕とすだろうと自信があったのは、天谷の浮気性を知っていたからだ」

「ああ」

「でも、それを知らない梓ちゃんにしてみたら、自分よりきらりの方が魅力的だから、天谷がきらりを選ぶと思われたと思わないか?」

「……ん? どうしてそうなる」

「梓ちゃんにしてみたら、だ。皇丞の自信の根拠を知らないんだから、そう思っても仕方ないってことだ」

「それにしたって、林海きらりが梓より魅力的ってのは考えられないだろう」

 俺はようやく、部屋に戻ってからコートも脱いでいなかったと気が付き、脱いだ。ジャケットも。

「わかってるよ。でも、梓ちゃんはわかってないよな? それに、今の話だと、きらりが天谷を堕とせなかったら、お前は梓ちゃんを諦めていた、って聞こえるけど?」

「……まさか」

「でも、梓ちゃんの質問に、お前は『自信があった』としか言わなかったんだろう?」

「ああ……」

「お前、誤解を深めに行っただけじゃないのか? きらりが天谷を狙ってることを知っていながら止めなかったことを謝ったか? そもそも、天谷の浮気を梓ちゃんに言いたくなくてきらりを使ったことは?」

 欣吾がバリッと清々しい音を立てて海苔を噛んだ。

「…………」

「そんなんで、別れるって言われておめおめ戻ってきたのか? なんで――」

「――別れるとは言われてない」

「はぁ!? フラれたんだろ?」

「関係ないって……言われた」

「それで凹んで戻ってきたのか? アホか!」

 人生で初めて『アホ』と言われた。

 欣吾に。

 よりによって、欣吾に。

「皇丞」

「……なんだよ」

「それ食ったら、寝ろ。今のお前じゃ、百年の恋も冷めるわ」

 好き勝手言ってくれる。

 だが、反論する気も起きない。

 欣吾の言う通りだ。

 初めて自分から好きになった女。

 欲しくて欲しくて堪らなくて、俺以外の男に抱かれていると思うと、その男を呪い殺してやりたくなるほど好きな女。

 実際、何度も思った。

 天谷、浮気相手に刺されて死んだりしねーかな。

 程よく腹を満たしたら、睡魔が襲ってきた。いや、気絶に近いかもしれない。

 重い身体をベッドに放ると、瞼を持ち上げる気力もなかった。

 ただ、欣吾の気配や、発する音は聞こえていた。



 疲れたな……。



 あの時も、そう思っていた。

 三年前の忘年会。

 まだ、きらりが入社前で、梓も天谷と付き合っていなかった。
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