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16.復讐の終わり
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受話器を置いた平井さんが、バッグを持って立ち上がる。
山倉さんは終業のチャイムが鳴り終わるとともに帰って行った。
「梓ちゃん、まだ帰らないの?」
「もうすぐ帰ります」
「そう? じゃあ、お先――あ!」
なにか思い出したらしく、平井さんが引き出しを開ける。
「どうしました?」
「八階の会議室に忘れ物してるかも」
「え?」
「さっきちょっと打ち合わせで使ったの。はぁ、もうっ」
「私、見てきますよ?」
「ううん、大丈夫」
「どうせ、企画にメールの返事聞きに行きますし」
三時間前に次の会議の日程についてお伺いのメールをしたのだが、返事がない。
今日中に日程を決めて会議室を押さえないと。
「そう? ありがとう」
「いえいえ。お疲れ様です」
「お疲れ様」
平井さんは、旦那さんとお子さんが迎えに来て、そのまま旦那さんの実家でクリスマスパーティーをすると言っていた。
来年のクリスマスにはお子さんが増えているんだと思ったら、なんだか胸の奥がじんわりと温かくなった。
「さて」
私は立ち上がると、企画部に向かう。
半数以上が退社していたが、会議の日程は決められた。
次に、八階に上がる。
廊下の窓から見える街並みは既にライトアップされていて、キラキラと輝いている。
天気もいいから、人出も多いだろう。
「ケーキ、あるかな」
皇丞からは、クリスマスの約束はできそうにないと言われていたから、ケーキの予約もしていない。
私一人なら、駅前のスーパーの割引チキンとケーキで十分だ。
皇丞と栗山課長は何を食べるのか。
毎日の電話で「早く帰りたい」と言う皇丞に、私は「寂しい」と言えずにいる。
皇丞は私に、俺のマンションにいてほしいと言うが、私は引っ越し準備のために自分のマンションにいる。
皇丞のマンションに引っ越すのか、新たに部屋を借りるのかはまだ決めていない。
一緒に暮らし始めた経緯が経緯なだけに、今更ながら別々に住んで恋人気分を味わってもいいのかもと思っている。
兎にも角にも暦は年の瀬。マンションを探すにしても年明けになるだろう。
今夜は、段ボールに囲まれてのぼっちクリスマスだ。
ため息をひとつつき、会議室のドアに手を伸ばす。そこで、ハッとした。
何を忘れたか聞くの忘れた……。
何をやっているのか。
まぁ、何かあればそれがそうなのだろう。
使用されていないのはわかっているが、念のためにノックをした。
過去に二度、私自身が私的に利用したことがあるから。
もしかしたら、同様に修羅場を繰り広げている人がいるかもしれない。
いや、いないでしょ……。
返事のない部屋のドアを開けた。
真っ暗かと思ったら、ほんのり明るかった。
窓から差し込む街の灯りか、月明かりか。
どちらにしても、忘れ物を探すには暗い。
ドアを閉め、スイッチに手を伸ばした。
「ただいま」
ビクリとして、手が止まる。
私はゆっくりと振り返った。
窓際に、人影。
「ただいま」
もう一度、言った。
「なん……」
声の主を知っている。
「戻れないって……」
月に背を向けた彼の表情は見えない。
「寂しかったのは俺だけかよ」
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