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番外編*甘いお仕置き
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しおりを挟む「仕事はどうかと聞いたら、『面白い部下がいて毎日楽しい』って言ったの。彼の口から仕事が楽しいだなんて言葉を聞くなんて、本当に驚いた。やりがいとか達成感はあっても、後継者として当然の実績だって感じで、部下がどうとか面白いなんて、笑って話す人じゃなかったから」
確かに、広報に来た頃の皇丞は、いつも眉間に皺を寄せてむっつりしていた。仕事はできたけれど自分の決定が絶対だと言わんばかりの威圧感で、近寄りがたかった。
「あなたのことだったのかしら、その部下って」
「……どうでしょう。自分を面白いと思ったことはありませんけど、怖いもの知らずだったのは自覚があります」
「御曹司扱いしなかった?」
「そうですね。広報に関しては素人なのに課長としてやって来て、我が物顔で色々と引っ掻き回されたんで、かなり態度の悪い部下だったと思います」
「あなたが皇丞を変えたのね」
そうだろうか。
もしそうだったら、良い方向に変えられたのなら、嬉しい。
「悔しい……わね」
社長が人差し指の先でピアスに触れながら、言った。
視線の先には、皇丞。
この人は、夫に未練があるのだろうか。
だから私を呼んだのだろうか。
それにしては、敵意を感じない。
俵さんが言ったような『皇丞を返して』どころか、自分が大切に思っている秘書を託す上に、私に対する筋も通している。
やはり、わからない。
ちらりと見ると、皇丞はスマホを耳に当てながら、こちらを窺っている。
大丈夫よ、と伝えようと微笑んで見せながら口を開いた。
「どうして、私に会いたかったんですか?」
「え?」
「品定め、されてるんでしょうか」
「まさか。本当に好奇心で会ってみたかったの。あの皇丞が本気で愛した女性に」
「それにしても、ご自分が信頼なさっている秘書を元カレの秘書に、とは常識的でないのでは?」
小説やドラマなら、スパイか、と思うところだが、倉ビルがトーウンの情報を得て得することなど何もない。
「はっ!?」
皇丞の大きな声に、彼を見た。
険しい表情の皇丞が見たのは、私ではなく倉木社長。
「あなたの疑問の答えを、聞いたようね」
「え……?」
「――わかった。ああ、頼む」
言いながら、皇丞が隣に戻ってきた。
口調で、恐らく電話の相手は俵さんだろうと思った。
「電話の相手は俵秘書?」
倉木社長がなぜ俵さんを知っているのかと不思議に思ったが、以前に社長が俵さんを袖にしたことがあると聞いたことを思い出した。
「倉ビルの経営権を譲渡するそうですね」
「え?」
驚いたのは私だけ。
倉木社長は表情を変えず、じっと皇丞を見ている。
「ご自分は地方支社に移られるとか」
「さすが、ね。ええ、そうなの」
また、だ。
倉木社長がピアスに触れる。
何度となく見ていて、思った。
癖、だろう。
落ち着くため、の。
「私に持ちかけた企画は?」
「あれは私の置き土産。私の異動後も変更はないわ」
「どうしてこんなことに? あなたが社長になろうと躍起になっていたのはなぜだったんですか」
「倒産だけは、避けなければならなかったから」
「いつからですか」
「……」
皇丞が怒っている。
元カレとしてか、大勢の社員の人生を背負うもの同士としてかはわからない。
「父は時代の変化についていけなかったの。息子に跡を継がせることに囚われ過ぎて、会社の未来を見誤った。息子に会社を継ぐ意志もその器量もないことにも気づかず、ワンマン経営を続けた。その結果、よ」
「だから、あなたが変えるんでしょう?」
「そのつもりだったんだけどね? 手遅れだったわ」
「なんの為の結婚だったんですか」
「……」
倉木社長は困り顔で目を伏せた。
少なくとも、私を品定めしたり、皇丞を取り戻したくてこの場を用意したわけではない。
そして、彼女は酷く困っていて、苦しんでいる。
きっと、皇丞に助けを求めている。
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